第86話 指示

牛輔は、少し考えるような素振りを見せた。

「かつて宦官たちが持つ家宝に、税金を掛けようとした事があります。その時、王允の家が門外不出の名刀を持っていて、その刀の切れ味は鋭く鉄でも斬れると聞いた事がごさいます」

「そうか。王允の家だな?華雄、李傕、郭汜を呼べ」


牛輔は拱手礼をすると、華雄、李傕、郭汜を呼びに行った。董卓は、曹操をここまで信頼していたのに酷く裏切られた事が腹だたしかった。

3人と牛輔が部屋にやって来た。

「牛輔は、華雄と共に直ちに王允の自宅に行き、曹操との関係を問い正せ」と命令した。

牛輔と華雄は、「はあ!」と言って、拱手礼をするとただちに王允の自宅に向かった。


李傕と郭汜には、「曹操の家に行き使いの者、同族を皆殺しにしろ」と命じた。2人は、拱手礼をするとただちに曹操宅に向かった。

董卓の気持ちとしては、曹操に対して可愛いさ余って憎さ100倍と言ったところだろうか。最後に李儒が呼び出された。

「文優(李儒の字)、曹操の代わりに葬儀の段取りをしろ」と命じた。董卓の目には激しい怒りが現れていた。その表情に思わず李儒は怯んだ。


           ※

その頃、曹操は必死に馬に乗り西の城門まで一気に駆けると、「城門を通せ」と怒鳴った。

しかし、城門の管理をしている者たち数人が、曹操に通行手形を見せるように言った。

「相国(董卓の職)からの火急の要である。邪魔だてするつもりか?」

曹操は、必死だった。命の危険が差し迫っているのだ。

「し、しかし‥‥」

「私の命令は、相国(董卓の職)からの命と同じである!後で禍根を残すような事になっても知らんぞ!」

そう怒鳴ると、門番たちが怯んだ。その瞬間を見逃さず、曹操が馬に乗って駆け出した。門番たちが余りの勢いに馬に弾き飛ばされないように道を開けた。暫くして呂布が追いついたが、門番たちが曹操の勢いに押されて城門を突破された事を報告すると激怒した。


「通行手形も無いのに何故、簡単に通した?」

「相国(董卓の位)様からの命令を受けているのを邪魔するのかと言われたら、さすがにビビって戸惑ってしまったのです。その間に強引に駆け抜けて行ってしました」

「くそっ!」

呂布は、赤兎馬に跨ったまま、吐き捨てるようにそう言った。


一目散に駆け抜けたため、草原の真ん中で曹操は落馬した。馬が疲れて倒れてしまったのだ。今頃は、董卓の兵が、自宅を荒らし、家族は皆殺しの目に遭っているに違いない。そう思うと、胸のゾワゾワ感が拭い去れず、日が暮れ始めると尚一層不安と後悔を感じた。


           

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