第60話 李儒

宮中で、相国(董卓の位)からの指示を受ける宦官の筆頭として李儒が任ぜられた。

そして献帝(劉協)の即位の宴が、3日後に開催される事を知らせた。相国は、女官の首筋をこちょこちょっとくすぐった。女官がくねくねと体をくねらした。宦官たちは呆れた目線を向けると、さすがにわかったのか、相国(董卓の就いた役職)が怒り出し、閣議を行なっている壇上から宦官たちを睨みつけた。


「何んだ、その目は。ワシは、諍いの元だった少帝(劉弁)を退位させてやったんだぞ。おまえたちが、推挙する陳留王(劉協)を献帝として封じてやったんじゃないか?少帝(劉弁)か?陳留王(劉協)か?という諍いはしなくても良くなったのだ。もっと感謝をしてくれても良いじゃないか!」

董卓は、女官の頸に顔を近づけていた。自分の鼻先で女官の首筋をくすぐる。女官が焦れて身体を上下に動かした。嫌がっているのか、喜んでいるのかがわからなかった。


「何を神経くさい顔をしているのだ?閣議は終わりだ!さあ3日後に宴が始まるんだぞ!さっさと準備をしろ!後は、李儒に任せたぞ!」

そう喚くと女官と絡み合うようにしながら、ふらついて元来たところを戻って行った。李儒が、何とも言えないほどの醜い笑い顔を見せた後、宦官たちに号令をかけた。

「相国(董卓の位)が、言ったとおりだ。さっさと準備に取り掛かれ!」

王允たちが、忸怩たる思いでそれを見ていた。まだ献帝(劉協)は9歳幼く、その面前で何たる醜態を見せているだろうか。これを漢王朝の中で相国という役職は、伝説になるような人物が地位に就いて来た。献帝(劉協)をは、人形のように王座に座り固まっていた。今おかしなアクションをすれば、自分に何かの害が及ぶと知っているかのようだった。


宦官たちは、蜘蛛の子を散らすように宮中を出た。王允の後を黄琬が追いかけて来ると、少し息を切らしながら話しかけて来た。

「や、やはり、宦官たちに曹操嫌いは根深い物があるな」

「だろう?」

「だ、だ、がな、他に誰があの相国(董卓の位)と対抗出来る?」

「朝から酒を飲み、女官をはべらかし絶好調のようだな」

「今も見ただろう?このまま手をこまねいていていいのか?」


「決して許せるもんか!」

王允の余りの剣幕に、黄琬が回りを気にするように見渡した。

「おい、おい、声が大きいよ」

王允が、思わずまずいと言った顔になった。

「趙忠と郭勝にも相談した。目の前で少帝(劉弁)と、陳留王(劉協)が捕まった時、愕然となったらしい」

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