第21話 遺跡ダンジョンを×そう!⑤



「げひげひ。聖女様のご連絡通りですねえ。馬鹿な下民がこちらを狙ってやってくるという話は本当でしたか。弱そうな黒髪が一人と、剣鬼のミリアさんですな。あとはガキが三びき。ほう、なかなかの美しい……ん?」


 45階層。

 俺たちは金ぴか鎧の気持ち悪い巨漢に出くわした。

 最初はオークかと思ったが、レーネがこう叫んだのでやっと違うと気づけたんだ。


「あれは……ボブリス伯爵です!! もうこんなところまで、ううぅ」


 あいつがボブリスらしい。

 ビクリと体を震わせたレーネは、そのまま棒立ちになってしまう。

 やはり以前痛め付けられた記憶がフラッシュバックするみたいだ。可哀想に、怯えてしまうレーネ。

 金ぴかオーク改めボブリスは、レーネの姿を発見しニタァと笑みを浮かべる。

 やばいな。あれを見ただけで逆流性食道炎になってしまいそうだ。


「あれあれ? ぼっこぼこに壊して深淵の森に捨てたレーネじゃないですか? あれあれあれ? しかもめっちゃかわいくなってる? おかしいな。顔の骨とかめっためたにしてやったから、もう二度と治らないはずだったんだけど?」


「ひぅっ……!?」


 金ぴかはにやにやしながら拳を振り上げるポーズをとるが、それだけでレーネは怯えてしまう。

 それだけの暴力を奴から受けたのだ。

 ボブリスは鎖をジャラジャラとさせ顔を歪ませ笑った。

 何人もの獣人女が裸で繋がれていて、苦しそうにうめく。

 ボブリスはレーネの顔をみて気持ち悪い舌なめずりをする。


「おいおい奴隷のくせにダントツで可愛いな。捨てたのは早計だったか? ホラ早く戻ってきなよ? さっさとしないとまたメタメタにすんぞ奴隷が。今度は反抗するんじゃないぞ? まだ初めてだよね? 使わずに捨てたのはもったいなかったな。最後まで気持ちよくしてやるから、さっさとこっちに来なさい」


 ボブリスの言葉でぶるぶると震えるレーネ。

 レーネは振り向き俺を一瞥する。

 大丈夫さ。そうだろ?


「このっ……」


 見かねたミリアが剣に手をかける。

 俺は黙ってそれを制止した。ミリアは目を見開いてこちらを睨み付けてくる。

 あんなにレーネが怖がっているのに、クズが目の前にいるのに助けないのか?

 ミリアはそう言いたいらしい。

 だが。


「…………です」


「え? なんておっしゃりましたレーネ。さっさとそちらの男は放置して、こっちに戻りなさい。生きてるなら奴隷契約はまだ有効だ。あなたは死ぬまで僕の奴隷なんですよ。はははっ。死んでれば僕から逃げられたのにねえ」


「うるさいです!! 私に話しかけるなクズ!!」


「えっ」


「お前なんかこわくない。お前なんかもうしらない。ご主人様はセツカ様だけだ!! お前なんか大きらいだっ。クズっ!!」


 しっかり言えたな。

 ボブリスの表情は見ものだ。

 絶対に反抗されないと考えていた女の子からまさかの言葉を投げ掛けられて、口を開けて放心している。

 そう言われて当たり前のことをしているくせに、そんなにショックだったのだろうか?


「ど、どうして……奴隷契約を結んだレーネが生きてるなら、僕に反抗的な態度はとれないはずだ!! どうして僕の悪口を言うんだくそっ。いったい何が、どんな手を使ったっ!!」


 ボブリスの奴が今度は俺を睨んできた。

 まあ簡単に言えば奴隷契約を殺したからなんだが、あいつに説明する必要はないだろう。

 それよりも確認しておくべきことがひとつあったな。


「ボブリス。不死者の心臓を手に入れて何をするつもりだったんだ? まさか本気で国を支配しようとか考えていたのか?」


「はははっ。まさか!! 僕はただ金のためにやっているに過ぎません。冒険者も、貴族も、全ては金のため。金さえあればホラ。命だって買えちゃうんですよ?」


 ジャラ……と鎖を引き寄せたボブリス。

 奴隷の少女が引きずられ、彼の前に立たされる。


「獣人は優秀です。女でも人間より力があるし、夜の相手も積極的ですからねえ。今回も選りすぐりを10匹連れてきました。途中で肉壁にして4匹捨てましたが、そのお陰で僕は無傷で45層までやってこれました。どうして他の人はやらないんでしょうねえ?」


 ボブリスは少女をひとり、強引に鎖を引っぱり立たせた。

 そして少女の頬をねっとりと舐め回す。

 涙を流しながら立ち上がった猫獣人の少女は、小さなナイフを握っていた。

 ああやって無理矢理戦わせて自分だけ後ろでふんぞりかえっているのか。

 なるほどな。こういうタイプね。


「金は誰から入るんだ? 国か? 誰かが不死者の心臓を欲しがっているのか?」


「馬鹿ですね。言うわけないでしょう?」


■――心理障壁を『殺し』ます。全て口を割らせます。


「そんなの、聖女様とグルに決まってるじゃないですか。僕が不死者の心臓を欲しがっているという情報を流してあなたを動かす名目をつくり、一方で聖女様はクラスメイトを引き連れた戦闘訓練を名目にこのダンジョンへ戦力を集中させるのが目的らしいですよ? 僕は不死者の心臓と、あなたの身柄を引き換えに莫大な金を得る約束をしているので、あとは奴隷たちを使ってあなたを捕らえれば任務終了というところですかね? 剣鬼のミリアは少し予想外ですが、僕の戦力で十分足止め可能です。つまり、僕の目的はあなたをここに誘き出すことです。聖女様が何をお考えかは全ては知りませんが、あなたを捕まえて実験でも行うつもりなんじゃないですか?……ハッ!? ど、どうして僕は喋ったんだ!?」


 ボブリスは簡単に口を割った。

 詰まる所が、今回の話は聖女とボブリスの協力プレイで、俺がまんまと仕掛けに嵌まった形になるらしい。

 へえ。俺をダンジョンに呼んで、身柄を拘束するつもりなのか。

 あの聖女。あのクソ女。

 こんなクズとグルになってまで、わざわざ神経逆撫でしてきやがって。

 一度は捨てた俺を捕らえるつもりでいるのか。へー。

 大方イシイあたりに俺が生きていることを聞いたのだろう。

 使えないと思った『殺す』スキルが使えていることに焦ったのかもな。

 俺はボブリスを指差し、こう告げた。

 

「さて。本来命乞いで話すべきことまで、全部話してしまったお前の命の価値は、今やホコリ以下のゴミクズになったと理解できているか?」


 ボブリスに事実を突きつける。今やこいつの利用価値はゼロ以下だ。

 しかし奴はまだ勝てる気でいるらしく、奴隷たちに檄を飛ばしている。


「ちっ。黙れ!! お前たち、あの男を捕らえた者には僕とらぶちゅっちゅの権利をやろう。捕まえられなかった者は『処分』だ。わかったかい? さっさとあの無礼者の口を黙らせなさい。お前たちには金が掛かっているんだからな!!」


 などと理不尽な指示を奴隷女たちに出している。

 捕まえても捕まえなくても最悪じゃんそれ。

 しかし処分とは死を意味するのか、怯えた獣人女の奴隷たちは鋭い視線を俺へと向けてくる。

 差し迫った死の気迫だ。あの娘たちの能力は高いし。油断はできない。

 と、レーネが拳を構える。


「ご主人様、わたしに、レーネにお任せください」


 一歩前へ出るレーネ。もう震えてはいなかった。


「わかった」


 信頼し、任せる。

 家族をボブリスによって失ったレーネにとって、奴は仇であり乗り越えるべきトラウマだ。

 俺はレーネに任せることにした。


「あはははは!! まさか!! レーネ、君が戦うのかい!?!? 馬鹿だよねえ。お前なんか顔だけが取り柄で戦闘力は皆無のゴミ。育ったら種付けするだけが価値だったのにウザいくらい口だししてくるから顔面ボコボコの刑にしてやったのをもう忘れたのか? いいか、奴隷はご主人様のために死ぬことこそ幸せなんだぞ? それを邪魔してきたお前は僕にあれだけ殴られて、まだ学習できないと見える。いいかい? この子たちは君の5億倍は強い戦闘用の獣人奴隷さ。さあ、君たちレーネを裸にするんだ。そしてじっくりといたぶってあげなさい!!」


「だいじょうぶ。きぜつするだけです」


「えっ!? どうしたん!?!? みんな、どうして寝てる? おい起きろ!! 眠れなんて指示は出してないぞ!! ホラさっさとレーネを……えっ!?!? も、もしかしてこれ、みんな気絶してる!?」


「はい。みえませんでしたか? わたしがみんなの首を叩いて眠らせました」


「ば、ばぁーか騙されるか!! なあみんな、そういう冗談は僕嫌いだな!? はやく起きてレーネを殺せ。さっさとしないと処分だぞ? ……どうして起きない。冒険者レベルでいったらA級の戦闘力はあるだろう!! おい……」


 コキコキと指を鳴らすレーネを見て、ボブリスはようやくそのヤバさに気がついたらしい。遅いよ。

 ボブリスは腰に下げた大剣を勢いよく鞘から引き抜いた。

 

「グレートミスリルソード!!!! はははっ!! 僕が戦えないとでも思ったかい!? 残念だったな下民め!! 僕が一番高い装備を身に付けているに決まっているだろう馬鹿め!! 掛かってこいよ裏切り奴隷がっ!!」


 足腰震えてますけど、大丈夫ですかね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る