あとがき

あとがき(本編を終えて)

 まず最初に、お読みいただいた全ての方へ。心の底からありがとうございます。

 本編をお読みいただいただけでなく、このあとがきまで。感謝の念に堪えません。


 この小説(と言っていいものかどうか)を書こうと思ったのは、2019年五月の恐らく17日か27日。エアーズロックみたいな肉やもんじゃ焼きを友達と食べながら色々とミリタリーだったりウォーゲームだったりな話に花を咲かせるうちに思い立ちました。このお話は肉もエアーズロックもミリタリーも全然関係ないのに変な話ですね。


 ただ、他にも動機らしきものがありまして、当時少し話題になったアンドロイドのメイドと少女の交流を描いた百合漫画(※1)を読んで、自分もこういったもの(人間とアンドロイドの交流のようなお話を)なにかやってみたいなあ…… とぼんやりとは思っていました。ほかにも欠陥があって生産中止に追い込まれたアンドロイドと少女の交流を描いた短編百合漫画(※2)にも強い影響を受けました。


 それが鉄板から溢れんばかりのもんじゃを掻き回しながら


「そっか、自分で書いてみるってのもアリなんだ」


 と思い立ったわけです。

 第二次世界大戦中のソヴィエト軍の装甲車の話とかしながら。BA-10ったって45mm砲とか積んでおいてあの装甲厚はないよなあ。T-34-76のフォルモチカ砲塔(チェリヤビンスク砲塔)って結局本当にフォージングプレスだったのかなあ。でもこの砲塔って装甲厚が低下しているって言うからやっぱり無理矢理プレスした結果そんなことになったとかありそうだよねえ。とか言いながら、です。


 帰宅すると早速思いつくままにWordに打ってみると、これがまた面白くて面白くて!


 自分が思い描いていたものが形になるって言うのはこう言うものなのか。と驚きに震えましたよ。

 その夜はほとんど寝ずに、黙々と衝動に任せキーボードを叩き続けました。


 とにかく書いてみて一言。凄い体験でした。


 自分が想像や妄想していたことがこうして形になるなんて、形に出来るなんて。そして全く見ず知らずの方々に読んでいただけるなんて。本当にAmazingなことです。なぜもっと早く気付かなかったのか。



 小説の書き方としては色々なお作法があるようですが、それには一切目もくれず、構成も何も考えず、ただただ思いつくままに一年間、熱に浮かされたように作り続けたお話がこれです。

 自分自身で改めて読み返してみますと、これがまた説得力が無い。あれもこれも、あのキャラも、あのエピソードも、あの描写も説得力が無い。読み返した後ちょっと途方に暮れました。勢いに乗って流れだけを書き並べたストーリーなのですから致し方ない事なのかも知れませんが、それにしてもちょっと酷すぎる。登場人物の心情の変化がは特に説得力がない。

 それと山場、と言えばいいのでしょうか、アドレナリンが出る場面がほとんどない。これもよくない。すごくよくない。

 このお話はこれでおしまいですし、これ以上大幅に手を加えるだなんて更に途方に暮れてしまいます。これはもう腹を括るしかないのか。無念です。自分の無力さの結果がこうして自分の手の中にあると実に残念でなりません。せめて今後のお話作りはもっとしっかりしたものにしたい、そう思っております。


 後半、特に「回収」あたりから頭が疲れたというか回らなくなったというか、上手く書けなくて困りました。お話の段取り、「構成」と呼ぶのでしょうか、それもかなり怪しくなり、話によっては誤ってネタバレをしてしまうなど、かなりわやくちゃでした。これもまたすごく悔しいですし、数少ないとは言え、いやだからこそわざわざお読み下さった方々には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。ごめんなさい。


 それとは別に興味深い現象がありました。

 このお話では前半にかけて特に固有名詞が多く、脚注や用語集を作った方が良さそうだと思い立ちました。

 設定上伊緒たちの暮らすオニール型スペースコロニーは地球からはるか遠くにあり、しかも何百年も前から地球との連絡が途絶してしまっているような時代です。一方でSF臭をなるべく減らしたい気持ちもありました。さらに言えばデティールがオリジナリティの高い世界を作るとの考えは、偉そうに言えば私の信念の一つです。ただ、フォロワーの憮然野郎様から、これを良く思わない方も多いのでそこは念頭に置いて下さいね、との助言を頂戴しました。

 そして脚注や用語集を作り上げた途端、本当にその日から、たださえ少ないPVが更に激減。これには驚きました。読み直すと確かにいささか読み難い。特にスマホで読むとこれまた確かにめちゃくちゃ読み難い。Worldのように脚注へ飛べる機能があればこれほど読み難くはならなかったでしょうに。

 公開に余裕が出てきて色々な方の小説を拝見させていただきましたが、いずれも実にシンプル。なるほど私のように回りくどい表現や手の込んだ脚注などを多用すると読者が離れる(理由の一つになることもある)のか、とちょっとした勉強になりました。もっとも単にこのお話が面白くなかっただけなんですよね!(笑) くそう。



タイトルについても悩んだのです。

最初思いついたものはいずれも陳腐、陳腐、ド陳腐なものばかりー!

ようやくシリルが街灯りに焦がれるシーンとともに「偽りの星」と言うタイトルを思いついたのです。が、調べてみると既にこのタイトルで小説を公開している方がいらっしゃいましたので、ちょっといじって「星灯火」にしてみました。少しくどい言葉ですが、それはそれで結構気に入っています。「偽りの星」より良かったんじゃないかなあ。

 まあ、今自分はもっと具体的なストーリーの羅列をする長い文章をタイトルとして使用するのが一般的なようですが。こういう事しているから受けないんでしょうね。



 さて、今回のこのお話は、先にも述べました通り人間と機械の心の交流を描くのが主題でした。

 それでも、「このアンドロイドには心があるんですよ~、とにかくそういう設定なんですからよろしく~」で済ませたくはありませんでした。拙いなりに、うまく表現できないかも知れないけれど、どうやってシリルは心を得たのか、せめてそのプロセスだけでもきちんと書いておきたかったのです。

 それと心を持ったアンドロイドが世界中どこにでもゴロゴロいると言う事は、五十畑が懸念する通り様々な社会問題を引き起こす可能性があります。人間と同じ心を持つ「異物」が人間社会でどう扱われるか、これも書いてみたかったのですが、あまり前面に押し出すと嫌な話になりそうなので控え目にしました。そんなに悪い話ばかりではないとは思うのですが、私には上手く書けそうな気がしませんでしたので。実は私、本当はハートウォームな話は苦手なんです。


 それと、心についてさらに深く掘り下げた描写やストーリーを期待して下さった方も多くいらっしゃいました。ありがとうございます。実はそこまで深い考察が出来る人間ではなくて…… これが私の精一杯でした。ご期待に沿えず申し訳ありませんでした。



 キャラクターについてですが、とにかく誰もかれもとてつもなく強い思い入れがあります。やはり「処女作」という事が影響しているんでしょうね。


 主人公島谷伊緒の性格はすぐに思いつきました。これは応援コメントへの返信にも記しましたが、かなり古い漫画の渡辺多恵子著「ファミリー!」の主人公フィー・アンダーソンにそっくりです。天真爛漫、オールポジティブ、スポーツ万能、正義感が強く強引、勉学はイマイチ、マッシュポテトしか作れない絶望的調理能力のくせして食いしん坊、心の機微に疎く朴念仁のフィー。

 うん、彼女って欠点の方が多いですね(笑)

 そんなフィーの性格や特性の一部が伊緒と重なりました。


 ラストはシリル全損から十一年後になっています。伊緒としてはもうアラサーです。でも、ざっくりとでいいので成長(老成?)する人間の姿を描きたかったのです。少し穏やかになって浮ついたところの消えた(でも少しおっちょこちょいでいたずら好き)な伊緒となりました。


 次にヒロイン……でいいのか、矢木澤シリル。彼女は典型的なお嬢さま気質になった気がします。自己肯定感が低かったり負の感情に苦しんだりと気苦労の多い彼女ですが、最終的には深い愛と生きがいを見つけられた終わり方に出来たのはよかったと思ってます。

 シリルの名前はまず響きを思い浮かび、ああこの響きはいいなあ、と思いつつ詳しく調べてみたところなんだ残念男性名…… と思ったところ、そこからまた新たな設定がほわほわーっと広がって、あんな物騒な機体になってしまいました。


 また、シリルの好きな紫苑の英名がAster(アスター=ラテン語で星)という設定も気に入っています。星の名を愛し、偽りの星灯火を求めたシリルの姿はとても美しい印象になったかと思っています。ただし、これがどれだけ読者の皆様に伝わったかは自信がありません(苦笑)。ちなみに紫苑の花についてはモンゴメリの「アンの青春」(松本侑子訳)を読んで思いつきました。ちなみに赤毛のアンシリーズを読むのならもう絶対に松本侑子訳を購入して下さい。いや購入するべきです。これこそが日本語版赤毛のアンシリーズの集大成と言っても過言ではないと思います。


 ところで、シリルに装備されていた「モノフィラメントウィップ」についてです。これは日本では新紀元社から発行されているサイバーパンクTTRPG「シャドウラン」に出てくる凶悪武器です。「ストリートサムライ」もこの世界に出てくる戦闘マシーン化したサイボーグ戦士です。とても面白くてスリリングなゲームですので興味を持たれた方は是非ルールブックをお手に取ってみて下さい。



 もう一組のカップル、五十畑由花と宮木彩希もとても好きな二人です。

 五十畑と宮木のエピソードは、分かり辛いかも知れませんがメインのストーリーから十数年後、おそらく十二年後の話です。最終話で既に伊緒は「時の人」になっていることやWドゥブルヴェの後継機Xイクスが実装されていることなどでそれを表しています。

 当初は五十畑と宮木は由花や彩希とは別人の独立した登場人物で、この二人のエピソードを通してアンドロイドなどに関する設定の説明をさせようと考えていました。また、心の定義などについても描きたいと思っていましたが、結局これは両方とも上手くいきませんでした。なので書いているかなり早い段階で、この二人とそれに絡んだエピソードはオミットしようと考えていたほどです。

 ところが伊緒に振られた由花と彩希の救済をしたい気持ちも強く、そこにこの二人を五十畑と宮木にしてしまおうとの思い付きが生まれました。

 勿論できるだけ修正はしましたが、由花と彩希は五十畑や宮木とは性格や言動に多少の食い違いがあるかも知れません。私個人としては、十年以上経てばまあこれくらいならありかな、とは思っています。

 キャラクターの見た目について、私は「ツインテール」だけはどうしても避けたかったです。あまりにも現実的でないアニメや漫画世界限定でのスタイルですので。二本縛り、じゃないごく一般的なふたつ縛りくらいでしたら別ですけど。

 ただ、由花については頭の中でパッとツインテ姿が浮かんでしまったんですね。ピンクのカーディガンでツインテでおチビさん…… ああ、だめだ。特定のキャラクターが思い浮かんでしまう。やざ――げふんげふん。

 古い漫画と違って、こういう今現在の人気キャラに似せてしまうとお叱りを受けることも考えられたので、なるべくそっち側に寄せないように意識しました。でも、こんなキャラにしたかったかも…… にっこにっ――

 実は彩希、ストーリーが始まった時点で自身の恋については半ば諦め気味でした。庁営プールでの伊緒の交際発言後、由花と二人で「友達」としてあちこち遊びに行くたびに由花の姿を好ましく思うようになっていきます。そして高三の後期が始まったばかりの頃、そぞろ咲く紫苑の花を背景に泣きじゃくる由花の背中をポンポンするうちにはっきりと情が移ったようです。由花もこの出来事を機に彩希に想いが傾き始めます。しかし文化祭に呼び出すという事実上の告白をした由花は、当日の待ち合わせをすっぽかしてしまいます。理由は由花自身が最終話で言うように「馬鹿で臆病。おまけに意地っ張りで嘘つき」だったと当時の自分を振り返ります。何にせよこれでようやく二人は想いを遂げられ、私の救済も終了です。ただ、上記の点についても上手く説明できなかったところが多く、そこは反省点です。もっともこれについては加筆も可能でしょうが…… それとも番外編にしてもいいですね。

 そして当初の設定では彩希は男の子だったのです。その片鱗は現在も残っているように思います。

 この彩希や宮木の性格は結構気に入りまして、同時公開していた「海の向こうに」でも似かよったキャラクターの蓮実紀恵が登場しています。

 その他、まだぼんやりとしていますが宮木彩希には壮大な裏設定があります。もしかするとこれについても番外編として記す事が出来るかも知れません。新時代を展望する二人編第62話「素体C」で宮木は五十畑に何かを諭すように語りかけるのですが、それがその裏設定に関わっています。

 ただ、挿し込んでは見たものの、この二人のエピソードの必要性はちょっと薄かったかな、とは未だに思っています。

 それ故、五十畑宮木コンビを気に入って下さった読者さんがいらしたのは本当に嬉しいです。ありがとうございました。



 荻嶋希美代とジリアンの二人は最後の最後に生まれた登場人物です。

 ひと通りお話が出来上がった後になって、シリルを(一時的に)失った後の伊緒の助力者が欲しい、との思いがきっかけです。

 当初はもっとずっと簡単なエピソードを経て伊緒たちに合流させようとしていました。しかしあんなに長い球技大会のエピソードを入れてしまったのは果たして良かったのか悪かったのか、いまだに判りません。多分悪かったと思います。あまりの長さに最初はこのエピソードの公開はためらったほどです。しかし、希美代とジルの個性の面白さを考えるとあまりにももったいなくて球技大会のエピソードを盛り込むことにしました。希美代は宮木と並んで私にとって最も魅力的なキャラクターかもしれません。

 ところでその球技大会編第25話「追及」では、もどきでいいからちょっとしたミステリっぽいものを試してみたいと思いました。が、結果はお読みいただいた通り大変陳腐なものになってしまいましてもう泣きそうです。



 矢木澤家弦造と、名前すらない伊緒の父。これはシリルの「父」と伊緒の父の対比を考えて作りました。男性を出すのには多少のためらいがあったのですが、今ではこれでよかったと思っています。

 一番初めに書いた話の流れではシリル全壊後に伊緒は弦造と激しく衝突、それを伊緒の父が諫め、最後に「心のままに進め」との助言と励ましをする、との流れでした。が、シリルの(一時的)死に至る設定を全て練り直した結果、そもそも伊緒と弦造がやりあう場面は発生し得ないことになりました。先の話の流れに比べると少しインパクトが弱くなったきらいがありますが、それでも伊緒の父の良さは充分表せたと思います。


 島谷家は父一人娘一人の父子家庭です。伊緒の母は伊緒が幼くして亡くなり、その後は伊緒の父方の祖母に日常生活の援助を受けながら、域外作業員の父の収入で細々と暮らしていました。伊緒の母は若く美しかったと言います。年も離れ見た目も冴えない伊緒の父がどうやって伊緒の母と結婚できたのか、これは島谷家最大の謎です。


 矢木澤家の内情について、ミラの死因など本編内では不明な点が多く、読者の皆様には疑問や不満を覚えた方もいらっしゃるかと思います。私の方でも同じ思いがありまして、現在エピローグとも言える番外編を構想中であります。今しばらくお待ちください。


 その他、シリルや伊緒の後日談についても今後公開予定です。ただ遅れに遅れていますので、いつ頃の公開になるかはちょっと明言できません。すいません。




 ここまで長々と蛇足のようなあとがきにお付き合いいただき誠にありがとうございました。今回のあとがきは本編完結後のものになります。番外編も含めてすべて終了したのちには全編完結後のあとがきを公開させていただきます。



 それでは、最後に改めまして。繰り返しになりますが、拙作「偽りの星灯火」をお読みいただき心の底から感謝の意を表します。


 本当に、本当にありがとうございました!


                                 長倉冬青



▼用語

 ※1 アンドロイドのメイドと少女の交流を描いた百合漫画:

 乙川おとかわあかり著 「ゆめみるがらくた」


 ※2 欠陥があって生産中止に追い込まれたアンドロイドと少女の交流を描いた短編百合漫画:

 やまもとまも著 「アタシポンコツアンドロイド」(同人誌)

 ≪長倉注:デレステではありません><≫



※2020年8月29日 加筆修正をしました。

※2020年9月2日 加筆修正をしました。

※2020年10月6日 加筆修正をしました。

※2021年2月11日 誤字を訂正しました。

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