第29話「こいつ、いったい何なんだ?」
「お迎えにあがりました、執政官」
アルフォンと呼ばれた男は、不敵な笑いを浮かべた。
金色の髪は後ろで丁寧に結われ、白いスーツには汚れひとつない。
この男が、マジックギルド襲撃事件の首謀者なのだろう。
「メタルギルドに不穏な動きがあることは察しておりましたが、
まさかここまでするとは・・・。
あなたたちの狙いは、いったい何なのですか?」
甲冑の兵士に詰め寄られながらも、フローラム執政官は冷静だった。
「非礼は承知の上ですが、
あなたのお力をお借りしたいだけです。
代わりに、この町の安全は保障しますよ」
この申し出が事実上の脅迫であることを、執政官は理解したようだ。
「それでは、
ご同行願います、執政官」
アルフォンは手で促すと、身を引いて執政官のために道を開けた。
表向きは礼儀正しく振る舞っているが、その目は冷酷そのものだ。
「く・・・」
モエカが剣を構え、前に出た。
「お願いです。
抵抗はしないでください。
この獣たちは魔法で強化されているようです。
勝ち目はありません」
そう言うと執政官は自ら立ち上がり、前へと歩き出した。
捕らわれの身となる覚悟を決めたのだ。
アルフォンと甲冑を着た獣たちは、身構えるモエカにも興味は示さず、執政官とともに部屋を出て行った。
玉座の間には、俺たちと、多くの死体だけが残された。
完全な敗北だった。
マジックギルドを襲撃した首謀者が捕らえられ、裁判も間近と聞いて、事件は収束しつつあると思っていたが、間違いだった。
メタルギルドを甘く見すぎていたのだ。
俺は今まで、この異世界グリンフェルトで自分が何をすべきなのか分からずにいた。
しかし、ようやく悟ることができたのだ。
俺がグリンフェルトにやってきた理由はこれなのだと。
「ミリアン、
いっしょに来なさい。
回復の魔法水が必要じゃ」
「は・・・はい!」
途方に暮れる俺たちの中で、最初に行動したのはレバリスだった。
まだ息のある負傷者たちを救おうということだろう。
ミリアンは確認するように俺のことを見た。
「頼むぞ、ミリアン。
あとで会おう」
「はい!」
俺が承認するとミリアンは頷き、レバリスとともに部屋を出て行った。
この世界では、魔法の主な用途は医療だ。
マジックギルドの人たちは、怪我人の手当てでしばらく忙しくなるだろう。
俺としては武器を早く取り戻したいという思いがあったが、その前にやるべきことがある。
目の前に横たわっている、敵兵の死体だ。
「こいつ、いったい何なんだ?」
身長は2メートル以上あるが、人間にしては足が短く頭が大きい。
金属の鎧は幾重にも重ねられた複雑な構造をしており、肉体は露出していない。
唯一の例外が穴の空いたフェイスシールドだが、内部は暗くてよく見えない。
あまり気は進まないが、ヘルメットを外すしかないようだ。
しかし、固定されているようで開きかたが分からない。
「ひっくり返してみよう。
モエカ、マロン、
ちょっと手伝ってくれ」
そもそもの体重に加えて分厚い金属の鎧を着ているため異常に重い。
3人がかりで何とかうつぶせにすると、背中にバックルのようなものが見つかった。
この構造だと、本人は自分の意思ではヘルメットを脱げないということになる。
バクンッと留め金を外すと、ようやくヘルメットを外すことができた。
この顔は、見覚えがある。
「オークだ!」
道具屋にいた子どもに比べると大きさはまるで違うが、特徴的な金色の目と大きな牙は間違いない。
しかしマロンは腑に落ちない様子だ。
「しかし・・・オークは人間よりも小型のはずだ。
こんなに大きいなんて・・・」
そのとき、執政官の言葉が脳裏をよぎった。
「魔法で強化されている・・・ということか」
そもそもこの鎧は、着るようには作られていない。
通常サイズのオークを中に入れた状態で、異常成長させたとすれば納得がいく。
「マジックギルドで魔法使いたちを拘束して作らせた、大量の魔法水・・・。
行方不明だったが、これに使われたのかもしれない」
「ひどい・・・」
「無理やり体を改造したのね」
魔法の知識がない俺にとっては当てずっぽうの説だったが、モエカとマロンは腑に落ちたようだった。
「そのうえでさらに執政官までさらっていくとは・・・
いったい奴らは何をやろうとしているんだ」
「オーク兵が何匹いるのかはわからないけど、
数が増え続けたら、ファウエルの王国軍でも敵わないわ。
メタルギルドは・・・全てを手に入れられる」
「・・・」
こんな規格外の奴らを相手に、俺たちはいったい何ができるだろう?
だが、こいつらを倒せなければ、この世界は・・・終わる。
「行くぞ!」
俺は立ちあがった。
「・・・どこへ?」
「あいつらを・・・アルフォンを追うんだ。
今のところ勝算は無い。
だが、だからこそ情報を集める必要がある。
敵の弱点を探すんだ」
俺の言葉を聞いて、モエカとマロンの瞳に希望の火が蘇った。
「そうね!
行きましょう!」
「うむ!」
2人も立ちあがった。
実をいうと虚勢を張って無理に強気なことを言ったのだが、彼女たちの力強い表情を見て俺の中でも自信が湧いてきた。
こいつらと一緒なら、
どんなに無理そうなことでもできる。
そんな気がした。
***** つづく *****
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