第14話「こんなハンサムな誘拐犯がいるかい?」

「ここから先は危険だ。

 腕の立つ剣士が必要だと思うよ」


金髪の剣士は、そう自己アピールしたところで、モエカが剣を携えていることに気づいたようだ。


「お。

 君も剣士なんだね。

 しかし・・・なんて美しいんだ」


モエカを見つめながら、歯が浮くようなセリフをさらりと言ってのけた。

俺とミリアンの存在はまったく目に入っていないようだ。


しかしモエカは迷惑そうな表情で剣を抜いた。


「あなた、何者?

 なにが目的なの?」


剣士はすこしずっこけた。

彼にとっては想定外の反応だったようだ。


「僕はシード。

 旅の剣士さ。

 君のような美しい女性を

 危険から守るために生きている」


剣士は眩しそうな目でモエカを見つめると、さらさらの前髪をかきあげてみせた。

イケメンにこんな仕草をされたら、普通の女性はストンと恋に落ちてしまうのではないだろうか。


だが、モエカは普通の女の子ではない。


「どうかしらね?

 さては、

 この娘を誘拐するつもりなんじゃないの?」

「ゆ、誘拐?

 おいおい、勘弁してくれよ。

 こんなハンサムな誘拐犯がいるかい?」


うわ。

自分で言っちまった。

痛すぎる。

こんな奴といっしょに旅はしたくない。


だが・・・悪人というわけでもなさそうだ。

正直なところ、剣士が仲間に加わるのは助かる。


あまり乗り気はしなかったが、俺はモエカに折衷案を提案してみることにした。


「なあモエカ、

 君の代わりに

 先頭を歩いてもらったらどうだ?

 後ろから見張っていれば、

 おかしなことはできないだろう?」


モエカはしばらく嫌そうな顔をしていたが、不承不承、承諾した。


「しかたないわね。

 変なことしたら、

 後ろから斬りつけるからね」

「ありがとう。

 モエカちゃん!

 後悔は、させないよ」


シードはモエカに向けてバチンとウインクをした。

いきなり「ちゃん」呼ばわりされて、モエカが必死で怒りをこらえているのが分かった。

パーティーの戦闘力は上がったが、これは先が思いやられるな。


と、そのとき、

目の前に何者かが現れ、激しい光を放った。

眩しさに目がくらむ。


「わっ!!」


小型のトラのような敏捷な怪物だった。


額の器官を輝かせ、相手の目を眩ませる能力を持っているようだ。

シードは光を真正面からまともに見てしまったようで、目を押さえながらドスンと倒れた。


まずい状況だ。


リュックサックから魔法水を取り出そうとしたとき、背中に激痛が走った。


「ぐっ!」


背後にもう一匹いたようだ。

鋭い爪で背中の肉をえぐられてしまったらしい。

熱い血がどくどくと流れ落ちているのを感じる。


「ミノル!」


薄れていく意識の中で、ミリアンを庇いつつ戦っているモエカの悲鳴が聞こえた。


**********


今回はのんびりしている時間は無かった。

俺は100円ショップ「タイゾー」の店内を駆け回り、速攻で買い物を済ませると、大急ぎで元の世界に戻った。


戦闘は継続中だ。

モエカは息を荒げ、苦戦しているようだが無事だった。

まぶしくて敵の姿をまともに見ることができず、身を護るのが精いっぱいという状況だ。


さっきまでの背中の痛みは・・・ほとんど消えている。

よし!


俺は買ってきたばかりの「サングラス(100円)」を装着すると、獣の姿を確認した。

トラのような怪物が、額から強烈な光を放っている様子がはっきりと見えた。


行ける!


俺は魔法水の容器を取りだし、トラに向かって投げつけた。


「ドンッ!」


命中した!

万年補欠とはいえ、野球の練習は無駄じゃなかった!


「ギャッ!」


魔法水の容器は着弾とともに炎の塊に変わり、獣は悲鳴を上げて転がった。

俺はもうひとつのサングラスをモエカに向かって投げた。


「これをつけろ!」


もう一匹の獣が襲いかかってくる。

俺は2つ目の魔法水を投げつけた。


「くらえっ!」


しかしトラはジャンプし、僅差で爆発をかわした。


まずい!


獣は目の前まで迫ってきている。


だがその時、モエカの鮮やかな一太刀が、獣の体を貫いた。


「ギャッ!」


姿が見えさえすれば、モエカにとって強敵というわけではなかったようだ。

サングラス越しではあるが、彼女がほっと安堵の表情を浮かべたのがわかった。


「ミリアン、怪我は無い?」

「はい。

 大丈夫です。

 それより、あのひとが・・・」

「え?」


ミリアンの視線を追うと、金髪の剣士が倒れていた。

急いで駆け寄る。

表情を確認すると、いちおう元気な様子だ。

ただ・・・やたらと声が小さい。


「不覚・・・。

 転んだ拍子に、

 ギックリ腰が再発してしまったようだ」

「・・・」

「しばらく安静にさせてくれ。

 モエカちゃん」


どうやら腰の痛みがひくまで、動くことができないらしい。

モエカは少しキョトンとしていたが、やがてにっこりと笑った。


「そうなんだ。

 お大事にね!」


あからさまな作り笑いでそう言うと、彼女は清々しい表情で歩きだした。


「さあ、

 行くわよ!」


お、おうっ・・・。


***** つづく *****

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