第3話「動かないでって言ったでしょ! 死にたいの?」

意識が戻ったとき、左の頬にゴツゴツとした硬い圧迫感と、粘度の高い液体の存在を感じた。

目を開けてゆっくりと起き上がる。

頭がズキズキと痛む。

手で触ると、どうやら側頭部から出血しているようだ。

地面には血溜まりができている。


何があったのか・・・。


確か・・・100円ショップの店内でぶったおれた後、夢の中で誰かとしばらく話をして・・・取引に応じた?

記憶は曖昧だったが、とにかく怪我をして倒れていたことだけは確かなようだ。


周囲を見回してみる。


どこか山間部の林の中のようだ。

まだ昼間のようだが、木立に阻まれて太陽は見えない。

ふらつきながらなんとか立ち上がると、背後で女の叫び声がした。


「動かないで!

 そこで何をしているの?!」


俺は反射的に振り向いてしまった。

そこには金属の鎧をまとい、長剣をこちらに突きつけている少女がいた。

豊かに波打つブルネットの髪。

まだ10代だろうか。

凛々しく振る舞っているが、顔立ちは可愛らしい。


「動かないでって言ったでしょ!

 死にたいの?」


褐色の大きな瞳はこちらを睨みつけているが、不思議と恐ろしさは感じない。


「いや・・・

 よくわからないんだが・・・

 どうやら怪我をして、

 意識を失っていたらしい」


彼女は俺が出血していることに気づくと、とたんに心配そうな顔になった。

剣を収め、走り寄ってくる。


「すごい血・・・

 大丈夫なの?」

「どうかな・・・

 大丈夫だとは思うけど、

 とりあえず安静にしてみるよ」


彼女はいちおう安心したようだが、警戒して周囲の様子をうかがった。

暴漢か猛獣が潜んでいるかもしれないと思ったのだろう。

怪しい者の姿が見当たらないことを確認すると、再び俺に向き直った。


「あなた、いったい何者?

 その、手に持っているものは何?」


そう問い詰められて、初めて気がついた。

土鍋が入った袋を、まだ大事に握りしめていたのだ。

商店街のイベントで獲得した、100円ショップの土鍋だ。


その時、俺の脳に異変が起きた。

100円ショップの光景が、頭の中で膨れ上がった。

周囲の風景が轟音とともに渦を巻き、次第にホワイトアウトしていく。


「え、ちょっと、

 どうしたの!?」


心配そうな彼女の声と、倒れる俺を支えようとする腕の感触を感じながら、俺の視界は完全に真っ白になり、意識がどこか別の場所へと弾け飛んだ。


**********


・・・次第に視覚が蘇ってくる。

・・・重力に引かれる肉体の重みを感じる。


そこは・・・

100円ショップの店内だった。


***** つづく *****

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