take―two~女神の休暇~
モカコ ナイト
聖なる導きの女神~うっかり死亡劇~
プロローグ
1女神、死神の書にサインする
今年もやっと、多忙を極めた一年が終わろうとしていた。
私……こと、聖なる導きの女神ハリシュは、膨大な量の書類の検閲と整理、押印を終え、やっとの解放感に安堵を覚えた。
何せ、今年の新規格上げの新米神の数といったら、ここ千年でも中々無いくらいの人数だったのだ。
それにともない、新生の世界も同じだけ発生し、それらの運行状態を確認し書類に挙げ列ねたものをこうしてチェックしていく訳だが…………。
如何せん、そのチェックを行う立場のものが、私を含めあと二人。
一人は私よりずっと歳も上の聖なる光の神イプサム。高齢で、この暮れの寒さにヤられ、今は薬の神レフェネスと医術の神ロシュネス兄弟の元で世話になっている。
もう一人はと言うと、暗黒神ダフネスなのだが…………。
この人は、大抵…………サボる。
私と並ぶ実力を持ちながら、役目に対して不誠実極まりないのよ!!
だからこうして私が、日々三人分の仕事をこなしているんでしょうが!!
「ハリシュ~。お仕事終わったの?終わったんなら久々に呑みに行かない?」
「勿論行くわ!これだって、何時ぶりか分からないもの!!」
「そうよね~。今年もハリシュが一番急がしがったものね~」
仲の良い女神に誘われ、年納めの飲み会を行うことになる。他にも神々を誘ったらしく同じ場に向かう道庁職員の数は、中々に多い。
飲み会の会場は、主神庁から程近く神々の御用達………と言うより、飲み場はここの一択しかないのよね……。
誰か、宴会の神でも酒盛りの神でも飲み屋の神でもやって来れ~っ!!
………と、失礼失礼。
そんな訳で一軒しかない、酒場での酒盛りの開演となった。
流石に、暮れと新年を祝う神々の参加は無かったが、それ以外の年時の神々やその他の神々は、ワイワイ、ガヤガヤと、かなりの人数の神々が集まり、最終的には、一大忘年会会となっていた。
「聞いてよ~!ダフネスったらね、サボってばっかりなのよ!!暗黒神の癖に、安心出来無いわっ!」
――いやいや、それは『暗黒神』だから安心出来ないの間違いじゃねーの??
周りの神々は、心のなかで突っ込んだ。
『イプサムは帰ってこないし、かぁえって来ないしぃー!!……帰ってこないのよおぉぉ~!!ずっと帰ってこなかったらどぉしよぉぉぉ~!!おんおんっ………』
――いえいえ、ちゃんと帰ってくるから!!まだまだ死人扱いしちゃダメよ!!
――あちゃー、ハリシュ様相当酔ってるね~。大丈夫なのかあれ?
宴も闌となった頃、酔いに任せて意味不明なことを言い出す程、女神ハリシュは、へべれけになっていた様だった。
前後脈絡の無いことをのたまい、周囲に絡みだす始末で。
同じく、冥界府に所属の新米死神イルが、良い具合に仕上がっていて、ハリシュはちょっとだけからかってみたくなった。
「イ~ルぅぅ!!呑んでいる!?若者よ!!アタシの注いだ酒も呑めぇ~♪♪そして年明けからは、導き科に異動だぞと!!」
「えええっ?ハ、ハリシュ様ぁ!?いえいえ滅相もない!私は地獄の管理庁のままで………死神で………」
「おぉん?イルゥ~?私の酒が飲めんのかあぁ!?」
「聖なる導きの女神ハリシュ様のお酒!光栄に御座います!これからこの私の励みの為、ハリシュ様のサインをここに頂ければ、これからより一層仕事に邁進出来ます!はい!」
そう言うと死神イルは、何処ぞやから黒い革の手帳を取り出してきた。
「おお!可愛いこと言うねぇ~♪私のサイン!?よしよし、書いてあげよう~ぞ~♪」
かなりへべれけ酩酊状態の二人は、死神イルが開いたその手帳が『死神の書』で、開かれたページが『死の宣告』のページであった事に気が付かなかった。
その日は、無事お開きとなり、皆各々の邸宅へと帰宅したのであった――筈だった。
***
××年1月7日 AM07:30
年も開けて、新年の仕事始め。
新年だけは、毎年ちゃっかり登庁する暗黒神ダフネスは、聖なる導きの女神のハリシュが、登庁するのを今か今かと待ちわびていた。
一年の締めくくり、年末の忙殺期を何の手伝いもせず、押し付けてまくっていたから、さぞかしご立腹だった事だろうとこの日ばかりは、ハリシュより早く登庁を済ませ、からかう準備をするのだった。
AM08:30
……が、しかし!普段ならとっくに来ているはずの時刻になっても、彼女は姿を見せなかった。
「……あれ?おかしいな……」
普段、導きの女神何てやっている分、時間や規律には人一倍口煩く、しっかり者の女だけに、遅刻などかなり珍しい。
――流石に、仕事を押し付けすぎたかな?
遂に根を上げたか……?
いや、それは無いか。あの女、根性だけはかなり良いものを持っているしな。
バタンッ――!!
勢い良く開く扉に、ハリシュの奴でもついに寝坊でもしたかな?
……と、意地の悪い笑みを浮かべつつ振り返ると、そこに居たのは目的の人物ではなく、彼女の配下の神鳥の化身体二人だった。
期待外れに、ニヤけた顔が一気に冷める。
俺は、この神鳥供を屁吐が出るほど毛嫌いしている。
チビの癖に取り澄まして、イチイチ目上の俺につかかって来る…口煩い奴等だ。
『ハリシュ様っ!いらしていますか!?』
『いらっしゃいますかぁっ!?
ハリシュ様――――!!』
良く見ると、二人とも顔が涙と鼻水でべちょべちょになっていた。
普段、ハリシュ同様澄ましているこの二人のこの様子は、明らかに異常だった。
「何だ、どうかしのたか?」
『うぇぇぇ~んっ……ハ、ハリシュ様がっ……えぐっ、えぐっ……』
『ハリシュ……様……ふえぐっ、えぐっ……』
泣きじゃくっていて、話にならん!!
「何だ、どうしたんだ?いいから、落ち着いて話してごらん……」
俺は、事更優しく優し~く、聞き出すことにした。
『ハリシュ、様が……み、見当たらないのです……。年が明けてから……ずっと……』
「はあぁぁ――――っ!!?」
――は?……何だって?ハリシュの奴が見当たらない?
年が明けてからずっと………………??
て、おいっ!!?
そりゃ、大問題だろっ!!!
どうするんだよ!?
年明けからの激務……!!
ま、まさか……俺が遣るのか!?
一人で!?
ハリシュ――――っ!
何処に行ったんだぁ!?
出てこい――――っ!!
それから、聖なる導きの女神ハリシュの大捜索が行われたが、天界、神界を含めてその姿は、ようとして掴めなかった。
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