《勇者》に選ばれたが聖剣が抜けないので魔王討伐に渋々旅立ちますが何故か聖女と魔王が一緒に着いてきましたが、何か?
オズ
旅立ち編
第1話 聖剣、抜けません
「……ふんぬぅぅぅぅぅっ!!」
石の台座に突き刺さった一本の剣。その柄を握りしめ、青年イクス・バーシュタインは顔を真っ赤にして全力で引っ張り上げていた。
しかし剣はびくともしない。動く気配すらなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……。な、何でだ……!? 俺、《勇者》に選ばれたんだぞ!? 女神様の神託も受けたんだぞ!? なのに、なんで抜けないんだよ!」
両手は豆だらけ、腕はぷるぷると痙攣している。それでも抜けない。
見守っていた神殿の神官たちが顔を見合わせ、小声でひそひそ話す。
「こ、これは……前代未聞では」
「歴代の勇者は皆、一瞬で抜いたと記録にありますが……」
「もしかして神託が間違っていたのでは……?」
その囁きは本人の耳にも届いており、イクスは顔を青ざめさせた。
「ま、まさか……俺、選ばれし勇者じゃなかったのか!? いやいや! 神託は絶対なんだろ!? ちょっと抜けないだけで、別に……」
――ガチャリ。
彼の全力を込めた最後の一振りでも、剣はやはり動かなかった。
「……お、終わった……」
膝から崩れ落ちるイクス。
そのとき、神殿の扉が勢いよく開かれた。
白い法衣をまとった女性が、眩い光を背に入ってくる。金髪碧眼、いかにも神聖な雰囲気を纏ったその人物こそ、国一番の聖女リリアだった。
「噂は本当だったのですね……! 勇者様が、聖剣を抜けないと!」
「ひぃっ!? な、なんで聖女様まで!?」
「私、気になって仕方がなかったのです! 勇者様がどうやって聖剣を抜けるのか、この目で確かめたいと思いまして!」
目を輝かせてイクスの前に立つ聖女リリア。
その瞳には期待と……ほんの少しの好奇心が見え隠れしていた。
「さ、さぁ勇者様! もう一度挑んでください! 女神の御加護は必ずあなたを導くはずです!」
「……いや、もう腕がパンパンなんだが……」
疲労困憊のイクスは内心泣きたい気分だった。
――しかし、騒動はここで終わらない。
なぜなら、神殿の外からもう一人、場違いな存在が現れたのだ。
「ふん……これが《勇者》か。だらしのない姿だな」
低く響く声とともに現れたのは、漆黒のマントをまとった長身の男。
その背後には角が生え、瞳は赤く輝いている。神官たちは悲鳴を上げて後ずさった。
「ま、まさか……魔王っ!?」
「い、命が惜しければ逃げよ!」
しかし魔王は剣を抜こうと奮闘するイクスを見て、鼻で笑った。
「勇者とやらが聖剣を抜けぬなど、聞いたこともない。女神の冗談はなかなか趣味が悪いな」
「な、なんでお前がここに!?」
「……気になったのだ。わざわざ勇者が選ばれたというから、どれほどの者かと思えば……このざまだ」
魔王は肩をすくめる。
聖女リリアは顔を青ざめさせながらも、きっぱり言い放った。
「勇者様は必ず聖剣を抜かれます! この世界を救うために!」
「ほう? それならば見物させてもらおう。勇者が抜けぬ聖剣……実に滑稽だ」
魔王と聖女が同時に視線を向ける中、イクスは台座の前で冷や汗を流す。
(ど、どうする俺!? 聖女様と魔王の前で、みっともなく剣も抜けませんでしたなんて言えるか!?)
こうして――勇者イクスの、剣すら抜けない魔王討伐(?)の物語が幕を開けたのであった。
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