第60話 マリーの婚礼前 英雄様方の婚約式
我が国特有の制度として、上位貴族は正妻の男児の中から1人は必ず騎士として王室に差し出さなければならない。
お家として忠誠を誓う意味もあるのだろうけど、親の領地を継げない子どもたちにチャンスを与える意味合いもあるのだろうと思う。
エド様たちの様に功績を残せば、王室から直接、爵位と領地を頂く事もあるからだ。
ちなみにエド様は、ご自身で辺境伯と伯爵の爵位を頂いている。
今のお屋敷がある領地は、元々は親の領地を任されていたのだけど、今は正式にエド様の領地だ。
父親のテオフィル様所有のマクファーレン伯爵領は領地替えで、エド様が賜るはずだった王都に近い領地に移って行った。
それなりに面倒くさい書類で、エド様の領地とテオフィル様の領地を書き換えただけなんだけどね。
今夜はエド様と同じ立場の、ジョール・フォーブズ様とピーター・ブラッドロー様の婚約式の夜会。
エド様が、王宮の私の部屋まで迎えに来てくれたの。
この前の婚前のご挨拶にエド様の実家に行ったときは、同じお部屋にいながらほとんどお話も出来なかったから本当に久しぶりだわ。
パーティーは国王陛下と王妃様が、英雄方とその婚約者を紹介するところから始まったの。
「俺たちの時は、バタバタだったからなぁ」
エド様はその光景を見て、苦笑いしながら言った。
「ごめんなさい、エド様。わたくしが考えなしだったばかりに……」
「ああ、違うんだ。マリーの方が、嫌だったのではないかと思ってな。さて、紹介も終わったようだし、挨拶に行くか」
エド様は、私の方に手を差し出してくれる。
私はその手を取り、挨拶に向かった。
「ピーター・ブラッドロー侯爵閣下。この度は、ご婚約おめでとうございます」
「公の場だとはいえ、わざとらしい挨拶はやめてくれ。エドマンド・マクファーレン辺境伯閣下」
ピーター様とエド様は、一瞬顔を見合わせて笑った。
「それもそうだ。おめでとう、ピーター。こちらは俺の婚約者のマリー・ウィンゲートだ」
「アーロン・ウィンゲートが娘、マリーと申します。この度は、ご婚約おめでとうございます」
私は淑女の礼を執り挨拶をした。
「おお。これは何ともお可愛らしい。エドマンドにはもったいないな」
「そろそろ、そちらの清楚な女性を紹介してもらっても?」
「チェルシー、さっきも紹介があっただろう? ムーアクロフト公爵家のご令嬢だよ」
ピーター様はサラッとご自分の婚約者を紹介した。
「チェルシー・ムーアクロフトと申します。よろしくお願いいたします」
チェルシー様は、私と同じように淑女の礼を執り挨拶をした。少しぎこちなかったけれども。
緊張しているのかな? まぁ、英雄様が報奨品を選ぶパーティーでも、デビュタント前の子どもが多い中、1人だけ大人の佇まいで、いらっしゃったのよね。
エド様は、ピーター様とおしゃべりしている。じゃあ、こちらは私の役目ね。
そう思って、チェルシー様に微笑む。チェルシー様もニッコリ笑って下さった。
ムーアクロフト家は、うちと同じく準王家の名門だ。そのような家柄で、デビュタント過ぎてしばらくしても、ご婚約者がいらっしゃらなかった事が珍しいのよね。我が国で、だけれども。
「ブラッドロー様とエド様は、本当に話が尽きないようですわね」
「ええ。ピーター様は、昔から気さくな方でどなたとも打ち解けられるお人柄ですから」
昔から? ああ、ピーター様もご実家は公爵家、古くからご交流があって……もしかしたら。
「あの、間違っていたら失礼いたします。お二人はもしかしたら、昔から想い合ってました?」
私は素敵なラブロマンスが聞けると思って、話をふったのだけれど。
バッという感じで、チェルシー様が反応した。
え……っと、私何か悪いことを……。
「ああ、エドモンド。ジョールの所にも挨拶に行かないといけないんじゃないのか?」
ピーター様がサッとチェルシー様を引き寄せてエド様に言った。
「そうだな。マリー、行こうか。それではチェルシー嬢、失礼いたします」
そう言って、何事もなかったかのように私を連れて、エド様は離れて行った。
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