第56話 王宮での1日 そして、歓談室にて

 私の1日は、王太子殿下の執務室での仕事から始まる。

 まぁ、厳密に言うと、朝の身支度をしたり皆様と朝食を食べたりした後、今度は執務室に行くための身支度をしたり、から始まるのだけどね。


 執務室での仕事は朝の10時くらいから始まるので、実質2時間くらい……そして、部屋に戻って着替えて昼食を皆様と食べて、肌の手入れは毎日するわけじゃ無いから……。


 空いている日は、婦人会の方々とお茶会をしたり、歓談室で王妃様や王子様方とおしゃべりをしたりしている。

 そうして、皆様で夕食を取り終えた後、自分のお部屋に戻るのだわ。

 これが、私の王宮での1日。


 

 王妃様は、私をトム・エフィンジャーから守って下さるためだと言っていたのだけど。

 今日もお忙しい公務の中、母親や兄弟と疎遠だった私の為に時間を作って集まって下さっている。

 その中でルイ様も、普通にしているので王妃様が何に気を付けろと言ったのかよくわからなかった。


「そういえば、ルイ兄さまは普段は何をしていらっしゃるのかしら」

 私はつい口から出てしまったという感じでつぶやいてしまった。

 いえ、本当につい口から出てしまったのだけれども……。


「ん~? 僕? そうだなぁ」

 ん~っと言った感じで悩んでいらっしゃる。そんなに難しいことを言ったかしら。

 王太子殿下は平然としてるけど、王妃様はにこやかなお顔が少しぎこちない。

「朝食はね。マリーが来てから食べるようになったんだ。普段は部屋で軽食を食べたら、そのまま寝てしまうから」

「もしかして、わたくしの為に無理をされて」

「そうじゃ無いよ。だって、せっかく妹が出来たのに、1日顔を見られないなんて嫌じゃない? ただでさえ、僕との時間は作って無いのに……。後はこうしてマリーたちと歓談室にいるか、自分の部屋でのんびりしているか、だね」


「ルイ。グラントリーも仕事で会っているだけだし、わたくしも、そうそう会えている訳では無いのよ。そうねぇ、婦人会の皆様方の方が回数が多いくらいだわね」

「婦人会というと、ジョゼか……」

 グラントリー兄さまが、何だか考え込んでらっしゃるわ。あ……そういえば。


「そういえば、先日のお茶会でジョゼ様が側妃が来るのは確定している……と、お辛そうにされてましたわ」

「は?」

 グラントリー兄さまが惚けたお顔をなさっているわ。王太子殿下の惚けたお顔なんて、ご家族以外誰も見たことが無いのではないかしら。

「何でそんな話に……というか、何で私に側妃が来るのが確定なんだ」

 一度ジョゼと話さないと……なんて、ぶつぶつ言いだした。


「えっと、そういう制度じゃ無いのですか?」

 グラントリー兄さまが、まだぶつぶつ言っているので、王妃様……お母様の方を向いて聞いてみた。  

「そう……ねぇ。国王陛下に好きな女性がいるか、王妃が必要数の子どもを産めないか。そういう場合は、側妃も必要になるわねぇ」

 お母様は、苦笑いをしてそう教えてくれた。


「本当に、何でそんな話になってるの」

 ルイ兄さまが、半分笑いながら話に入って来た。

「参加しているご婦人の1人が、旦那様は愛妾と遊び惚けていて、領地経営を押し付けられて泣いているご婦人も多いと言っていて、それで」

「どちらにしろ、婚礼間近のマリーに聞かせて良い話じゃないわ。困ったものねぇ、婦人会の方々も」

 お母様は、ため息を吐いている。


「そうだよね。結婚前から旦那の浮気の話なんてね」

 ルイ兄さまはどちらかというと面白がってる?

「ねぇ、マリー。エドマンドが浮気したら、僕の所においでよ」

「ルイ」

 お母様がルイ兄さまを睨んだ。

「変な意味じゃないよ。僕は表に出る人間じゃないし、この期間が終わってもマリーの兄で居たいよ」


「お母様、大丈夫です。わたくし、分かっておりますから。だから」

 私は慌てて言った。何だか、お二人が険悪ムードになっていたから……。

 だから、ちゃんと私はこの関係が期間限定だと分かっているって言った。

 ルイ兄さまが、本心から私を妹扱いしたいと言っても身分上不可能なのだから。

「ごめんなさいね、マリー。ルイには後からちゃんと言って聞かせるから」

「本当に、大丈夫です」


 ルイ兄さまに気を付けてって言うのは、こういう事だったのね。

 と、その時、私は思い込んでしまっていた。

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