第16話 商人との交渉

 ジュードに、仕切りに使える予算を見積もって貰って、使用人達の意見を聞いて使い勝手、違和感の無いデザインを考えたの。

 もちろん、ジュードにその都度予算内で出来るかどうか聞いて。

 皆でワイワイしながら考えるのは、楽しいものね。その中にエド様がいないのは寂しいけど。

 私に任せるために敢えて、参加しなかったっておっしゃってたもの、仕方無いわよね。

 確かに、エド様がいたらもっと良いものが出来るのでしょうけど、私も皆も頼ってしまったと思うわ。





「まぁ。どうしましょう? 困ったわ」

「済みません。材料の元値が上がってまして……」

「でも、わたくし、この商会で全てそろえるのよ。まとめ買いの特典があっても良いと思うの」


 今、私が居るのは、隣の領地のデモモンド商会。

 いつも使っている商人の方だと聞いてたので安心していたのだけど、足もとを見られてしまったのかしら? 今日は、ジュードでは無く補佐のアンガスが付いて来ているし。

 予算の範囲内ではあるのだけれど、それでもいつもの1.5倍っていうのは酷いと思うの。

 私は、ふ~と溜息を付いて見せた。

 目の前の交渉相手の顔が少し嬉しそうにというか、私を小馬鹿にしたように映った。


「では、他も当たってみることにしましょう。今の金額は、見積もりとして書類にして頂けるかしら」

「他を当たってもあまり変わらないと思いますよ。お嬢様」

「そうね。この辺りだったら、そうでしょうね。だけど、わたくしの実家の領地にも、こういう物を扱っているお店がありますのよ」

 そう言うと少し商人が焦りだした。


「今日はわたくし、お屋敷のでは無く、領地の予算で買い物に来ておりますの。このお値段が正当な価格なら仕方無いですけど、もしも違ってたらエドマンド様に顔向けが出来ませんわ」

 私は困った顔をして見せた。商人は少しムッとした感じになっているけれども。


「私どもが、ふっかけているとでも?」

「あら。そんなことは言ってませんわ。でも、複数の見積もりを貰って、検討することも必要だと思いますの。見積もりを、書類にして下さる?」

 私は、ニッコリ笑ってそう言った。そうしたら、今度は目の前の商人が溜息をく。


「分かりました。私どもも、この金額を書類にされたら困ります。今回は、いつもの金額の2割引でお出ししますので、他の領地では言わないで頂けますか?」

「あら、助かるわ。もちろん内緒にしててよ。それでは、納品よろしくお願いしますね」

 私は、ホクホクしてアンガスと一緒に、商会を出て馬車に乗る。


「マリー様は、こういう交渉をされたことがあるのですか?」

 アンガスが聞いてきた。

「実家の領地には、ほとんどお父様は来なかったから、執事が領地運営を担当していたの。それで、リンド夫人の授業から逃げ出して来たわたくしを、色々なところに連れて行ってくれて……。そうねぇ、見よう見まねってところかしら」

 う~ん、よくわかんないけどそんな感じよね。


「そうですか」

 アンガスは、穏やかに笑ってくれた。

「でも、領地内にこの手の商人が居ないのは、困る気がするわ」

 先程の交渉を思い出しながら、私は言う。

「持ちつ持たれつ……なのですよ。お互い、そんなに大きな領地ではないですしね」


 ……という事は、私、試されたのかしら。今の商人で無く、エド様に。

 交渉と言うには、子どもだましな稚拙さがあったものねぇ。

 今回の改装で、お屋敷の使用人達とも仲良くなれたことだし、商人との交渉もちゃんと出来たと思うわ。

 合格点貰えると良いな。エド様の奥方としてやっていけるって、思ってくれると嬉しい。




 程なくして、職人も入り。皆が満足いく、奥の出入り口の仕切りがしっかり出来たので、エド様に見て貰うことにした。

「いかがですか? エド様。これなら、違和感無く、使用人達もスムーズに出入り出来ると思いますわ」

 出来たての仕切りの前で、私はフンスッとばかりにエド様に言っていた。

 エドマンドの方は、使い勝手や材料の方を見ている。


「ほう。この素材をこの値段で交渉してくるとはな。良くやったな」

 エド様が、頭を撫でて褒めてくれた。

 それが嬉しくて撫でられるのが気持ちよくて、私は、撫でられたままニコニコしていた。

 ふと、エド様の手が離れてしまう。


「おっと、つい。すまないな」

 子ども扱いしてしまってって感じで、エド様が言ってきた。

「え? 嬉しいのに……」

 エド様が少し固まった。そうなのか? って感じで、そうしてまた頭を撫でてくれる。

 家族以外の……家族でも、こんな風に触れられたことが無かったので、私は本当に嬉しかった。

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