第14話 ちょっとしたお屋敷の改装提案

「だから、これからエド様の交友関係の方とか、お仕事の方とか見えられた時に、見られたらそれこそ不敬罪って言う方も出てくると思うの」

 そういって、仕切りを作ってはどうかと、侍女頭のイライザに気軽に提案したはずだったのだけれども……。


 今、私の前には執事のジュードと補佐のアンガス・ベリーがいるわ。

 エド様の執務室のソファーに3人で座っているの……エド様は仕事に出かけているというのに。なぜこうなった。

「マリー様。今現在の、うちの領地の収支でございます。新しい領地の分は今調査中ですが」

 私は、出された資料と帳簿を見る前についジュードに訊いてしまった。

「あの……もしかしたら、財政が厳しい……とか?」

 毎年、大赤字だったりして? とは、流石に訊けないけど……。

 だって、エド様ほとんど戦場にいて、領地の運営に携われなかったでしょうし。

 女主人は、不在だし。


「とりあえず、ごらんください」

「はぁ」

 ジュードから帳簿を受け取り中を確認することにしたの。

 帳簿はね。ちゃんと読み取れるの、むしろマナーより得意かも知れないわ。

 ウィンゲート公爵家の執事が、私の現状に同情して、もしこのまま本当に公爵家から捨てられてしまっても、身を立てれるように色々仕込んでくれた。

 これならどこに紹介状を出して雇ってもらってもやっていけると、太鼓判を押してくれた程だもの。

 

 田舎の領地の運営としては、まずまずのところだと思う。

 特産品が有るってわけじゃないけれど、ちょっとした工作品や果物や野菜、穀物を売ったり、職人さんを近隣に貸し出したり。

 災害が起きたときの、積み立てもちゃんと出来ているし。

 それに、エド様の王宮からの給金や今回の報奨金は、別枠にちゃんとなっている。

「今回は、お屋敷の改装なので領地のお金を使うわけにはいかないと思うけど……」

 私はそう言った。……となると、エド様のお金を使うことになるから、そちらの許可もいるわね。

 私がそう思っていると、ジュードが言ってくる。

「1階は、領地の一部と考えています。ほとんどが仕事で使っておりますので……。今まで、我が領地は伯爵家の領地だったのですが、旦那様が辺境伯になられたので、周辺の対応が違ってくるやも知れません。しかも、マリー様がいらっしゃるとなると……」

「わたくし?」

 ビックリした。私が何?

「はい。公爵令嬢のマリー・ウィンゲート様がいらっしゃるとなると、我が家の家格も更に上がってきますので」


「つまり、今までは伯爵家だから仕方無い、で済んでたものがそうもいかなくなるってことね。面倒くさいこと」

 本当に、うんざりする。田舎に捨て置いたくせに、こういうときだけ公爵家のしきたりだのなんだの言われてしまう訳ね。


 ということは、単なる仕切りでは無く辺境伯家らしく侯爵家と同等に見えるようにしないといけないって訳か……本当に嫌になってしまうわ。

「わかったわ。旦那様の許可を取って、仕切りに割り当てられる予算を見積もってちょうだい」


「かしこまりました。それで、仕切りのデザインの方は……」

「それは、現場とわたくしたちとで話し合いましょう。いくら見た目が良くても、使い勝手は現場の方々でないと、分からないでしょう? それに、全体とのバランスは、普段お屋敷内を見慣れている侍女たちのほ……うが……」


 何? 私、何か変なことを言った?

 私が、そう思ってしまうほど、ジュードとアンガスが驚いた顔をして私を見ていた。

「ジュード?」

 私から名前を呼ばれて我に返ったように、ジュードが反応した。

「はい。そのようにいたしましょう。奥様」

「……いや、だからまだ奥様じゃないからね」

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