閑話:その頃、勇者エディスは

 エディスは学院の屋根に膝を抱えて座っていた。

 時折溜息が出る。


「見付けた」

「……ルユザか」


 エディスの隣に制服姿のルユザが腰掛けた。


「エディス元気無い。ロイの事?」

「……うん」


 エディスは腕の中に顔をうずめた。


「私さ、ロイが初恋だったんだ。いつも私を守ってくれてさ」

「うん」


「私って美少女らしくてね。昔は弱くて結構狙われた事があったんだ。お父さんやお母さんが守ってくれたけど、とても恐かった。それでさ、各地を転々としてたんだよね」


 エディスが勇者の力に目覚める前の話だ。


「友達も出来なくてさ。でも寂しくて。そんな時に話し掛けてくれたのがロイだった」


 あの村でロイは「俺がお前を絶対に守ってやる」と約束してくれた。


「魔獣からも、人攫いからも守ってくれた。本当にロイは恰好良かった」

「……うん。ロイは本当に恰好良い」


 ルユザの胸をチクリとした痛みが走った。


「また会いたかった。勇者の役目を終えたら、絶対にロイの所に帰るつもりだった。けど……」


 ロマンチックな再会を夢見たのは一度や二度じゃない。

 なのに、現実は非情だった。

 

 トイレ。しかもド級の変質者かと思ったら想い人だった。


「……私、どうしたらいいの?」


 ルユザがエディスを抱き締めた。


「………………ロイと会おう」

「ルユザ」


「どうしたらいいかは、エディスの問題はロイと会わないと絶対に答えは出ない。原因の私がどの口で言うのかとは思う。でもこのまま会わないと、絶対に後悔する」


 エディスが顔を上げる。


「それにこのままだと誰かがロイを取ってしまうかもしれないよ? もちろん、私も狙ってる」

「あはは、そりゃ大変だ」


 エディスも絶世の美少女だが、ルユザも同じくらい美少女なのだ。


「そうだね。ロイに会おう。会って、何を言えばいいかわからないけど、ま、何とかしよう!」

「うん!」


 エディスとルユザは屋上を後にした。


 ……。


 そしてその頃。

 ロイとフランシス王女は城の大広間で、多数の兵士や騎士達に追い詰められていた。


「くそっ、美人薄命ってこの事かしら?」

「はあ―――――っ。本当に人選を間違えたわ」


 フランシスの異母兄で金髪碧眼の王子、ジルベールが前に出る。


 抜かれた剣の切先が、ロイへと向けられた。


「さあ観念しろ変質者」

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