暴れ牛と夜明けの唄 6『出陣の夜・後』

「これより魔獣討伐に向かう! 今回はファクナスだ。準備が出来たものから飛べ!」


 騎士団長が大きな声で叫ぶ。すると、次々と空に向かってグリフォンが、飛び上がった。


 すごい。何匹いるんだろう?


 風が巻き起こって、篝火かがりびがたなびく。轟々ごうごう砂埃すなぼこりが舞って、あたりは白くけむり、見上げた夜の雲に、何体もの影が駆けていく。


 鳥の群れだ。


 瞳に映り込むそれは、だんだん気分を高揚させる。わたしは、ケリュネイアのもふもふを掴んだまま、目が離せなかった。


「お楽しみのところ、悪いんだけどさ」

「はわっ!」


 エリュシオンが、サファをヒョイッと抱えて、ケリュネイアに乗せた。


 空中には、何個も魔法陣が描かれている。よく見ると、飛び立つときに、みんなそこを通っているようだ。


「あれは、現地に行くための、儀式みたいなものだよ」

「効果はあるのですか?」

「もちろん。疲れないようにする為の効果があるね」


 疲れないようにする……? 


「持続回復とか、速度増加とかですか?」

「驚いた……そんな事も知ってるんだね」


 サファは思わず口を押さえた。

 余計なことを言ったかもしれない。それにしても、そんな、探るように見ないで欲しい。


「本で読んだだけ、です」


 これは本当のことだし。

 サファは嫌そうに、顔を横に向ける。エリュシオンはそれ以上、何も聞いてはこなかった。


「じゃ、僕たちも行こうかな」


 だけど、それは、気持ちを察してというわけではなく、わたしをし測っているように感じた。


「お前たちは最後だぞ!」


 遠くからアレクシスが叫んでいる。


「えぇ……」

「えぇ……じゃない! お前たち、待ってろって言ったじゃないか!」


 エーヴリルが息を切らして、走ってきて小瓶こびんをサファに持たせた。


「この前渡したのと同じ薬だ。いいか? 最低でも2刻(4時間)開けろ。1日3回までだ。術を使うのに合わせて使え。食事……いやそれよりも」


 彼女は、もう一つの手に水筒を持たせた。


「この水筒の中身は、そう簡単に無くならない。たくさん飲め。いいか、絶対無理をするんじゃない、具合が悪くなったら、コイツに言え!」


 ビシっ、とエリュシオンを指差した。


「ロゼスク(簡易食料)は持ってるんだろうな?」

「もちろん、持ってるって」

「薬はあるんだろうな。このまえ持ってかなかっただろう!」


 エリュシオンが、困った顔であさっての方を向き、頬をいている。


「はいはい。大丈夫だから」

「今回は、サファだって連れてくんだから……」


 エーヴリル様は、口うるさいお姉さんだった。


「あーもー……ねぇっアレクシス! 僕らもう行くよ」


 突然飛び上がるものだから、サファは慌ててエリュシオンにしがみついた。何が面白いのか、アレクシスがゲラゲラ笑っている。


「あっ、お前はまた、話の途中で逃げる!」

「じゃあね、姉上。いい子にしてて」

「姉じゃない!」


 エリュシオンは、彼女にひらひらと手を振っていた。


「あの! エーヴリル様、ありがとうございます」


 腕からひょっこり顔を出す。眉間にしわをつくった彼女は、いつもの機嫌悪そうな顔で、それでもわたし達に、手を挙げていた。

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