暴れ牛と夜明けの唄 4『出陣の夜・前』
日も暮れてきているのに、相変わらず気温が高い。移動をしている最中も、顔から汗が流れていた。
あの後、わたしは、アシェル殿下たちと共に広場のような所に来ている。
サファは横を見上げた。そこには、エミュリエール様の弟である、エリュシオンが裏のありそうな顔で、にこにことしていた。
今は魔獣の出現地に行く前に、集まるところのようだ。見れば装備をつけた人達が、たくさん立ち並んでいる。
それにしても、暑い。
「なんか、この中に、君みたいな子供がいるなんて、異様な風景だよね」
彼は、涼しそうな顔で言う。汗もかいてない。不思議だった。
因みに、わたしの姿は、エリュシオン様のかけた魔術によって、周りには見えなくなっているらしい。それでも、魔力がそれなりにある人間には見えてしまうんだそうだ。
「わたしが見える人ってどれくらいいるのですか?」
「そうだねぇ。5人かそこらじゃない? なんせ、僕がかけてるしね」
5人か。
それに加え、見えてもいいように、孤児の服から綺麗な服に着替えさせられている。確かに、すごく場違いだと思う。それと。
うん……臭い
ムワッとする汗の臭いに、眩暈がして、サファは鼻を押さえた。
「エリュシオン!」
2人が振り向くと、血相を変えて、こっち向かってくる人物がいた。
「おい! その子が何故いるんだ?!」
その人は、顎で切り揃えられた真っ直ぐな髪と、切れ長の目に眼鏡をかけて、今日も不機嫌そうな表情をしている。
「先日はありがとうございました。エーヴリル様」
サファがお辞儀をする。
この前、お世話になったという事は、エミュリエール様から少しだけ聞いていた。
エーヴリルが腰に手をあて、エリュシオンを睨む。
「お前、エミュリエールにちゃんと許可を得て連れて来ているんだろうな?」
「あぁ、うんと……」
その圧が凄い。
エリュシオンは頭の後ろを撫でて、気まずそうに眉を下げていた。
もしかすると、エリュシオン様は、彼女の事が、少し、苦手なのかもしれない。
サファは片手を小さく上げ、口を開いた。
「あの、エーヴリル様。わたし、ちゃんと話を聞いてここに来……」
「お前は、エミュリエールがお前を守ろうとして色々やっているのに、自分で魔術が使えることを話したのか?!」
「だって……」
「だって、じゃない! しかもお前、この前、熱で寝込んでたじゃないか!」
エーヴリルが騒ぐと、周りにいる人が、チラチラと、
「ちょっと、待ってよ、エーヴリル。こっちに来て。君もだよ」
そう言って、エリュシオンは、私たちを端の方に連れて行った。
「この子には今、目隠しの魔術がかけてあるから、目立つような事しないで」
「サファ。お前は孤児のまま、大聖堂にずっといたいんだろう」
そう、なんだけど……
そろっと、サファは目を逸らした。
「エーヴリル。僕らは、確かに今回、この子にトラヴギマギアをしてもらおうとしている。だけど、彼女からそれをしてもらうのにあたって、出されている条件は、必ず、兄上のところに返す、という事だよ」
「その約束、果たされるんだろうな?」
エーヴリルは腕を組み、鼻を鳴らした。
「もちろん。ウチの王子殿下が了承してるからね。もちろん、戦闘には加わらないし、術を使う時は、姿を変えてもらうつもりでいる。全力でこの子の存在を
エリュシオンが肩を
まだ、何か言いたそうではあったが、エーヴリルは鼻から荒く息を吐き、黙った。
「どうしたの?」
サファは、エリュシオンの服に張り付いており、顔が赤くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます