第479話 亀裂
「うぅ…絶対、りょうちゃんに嫌われちゃったよ…」
バイトから帰ってからずっと春香ちゃんはこんな感じで私に泣きついてくる。かわいい。りょうくんが春香ちゃんのことを嫌いになるわけないのに…
「春香ちゃん、大丈夫だと思うよ。りょうくん、春香ちゃんが思っている以上に春香ちゃんのこと大好きだからあれくらいじゃ嫌いにならないよ。むしろ照れてる春香ちゃんかわいい。とか言ってにやにやしてるよ」
「そうかな…」
目をウルウルさせて私に抱きつきながら尋ねてくる春香ちゃんまじかわいい。こんなかわいい子が彼女って…りょうくんは幸せ者だなぁ。
「春香ちゃん、りょうくんが帰ってきたら抱きしめてあげて。優しく抱きしめて、さっきはごめんね。って言ったらりょうくんは絶対許してくれるから」
「だ、抱きしめるって…うぅ…い、今は…むり……」
めっちゃ顔を赤くしながらオドオドする春香ちゃんは見ていて癒される。でも、ちょっとだけ、イライラする。たぶん、私よりもりょうくんにずっと愛されていた春香ちゃんが私よりもりょうくんに愛されることに慣れていなくてこうやってりょうくんを避けていることが、私には少しだけ腹立たしい。
「やっぱむり…ど、どうしよう……」
「だったら、りょうくんと一緒にいなければいいじゃん」
つい、一瞬だけ脳内をよぎった言葉を口に出してしまい私は慌てて口を塞いだ。
「は、春香ちゃん、ご、ごめんなさい」
慌てて謝ったが、冷たい口調で冷たい言葉をかけられた春香ちゃんは泣いてしまった。私は何度も謝るが春香ちゃんは泣き続けてしまっている。
「「ただいま」」
私が春香ちゃんを泣かせてしまい、春香ちゃんを慰めているとりょうくんとまゆちゃんがバイトから帰って来てリビングに入って来た。
「春香、ゆいちゃん、ただいま。………春香、どうしたの?どうして泣いてるの?」
泣いている春香ちゃんを見てりょうくんはすごく春香ちゃんを心配するような声で荷物を手放してすぐに春香ちゃんの側に向かう。
「春香、大丈夫?どうしたの?朝のことかな?朝のことなら気にしないでよ。春香のこと大好きだから春香が泣いているところ見たくないよ。春香、泣かないで」
「りょうちゃん、ごめんね」
春香ちゃんは泣きながらそう言ってリビングから出て行き、春香ちゃんとまゆちゃんの部屋に閉じこもってしまう。りょうくんやまゆちゃんが何回か声をかけても出てくる気配はなかった。
春香ちゃんに申し訳ないことをした。という罪悪感はある。でも、あれくらいのことでここまで取り乱さないでよ。私が、全部悪いみたいじゃん。と、一瞬でも思ってしまった自分が本当に嫌になる。
何度も何度も春香ちゃんに声をかけるりょうくんとまゆちゃんを見て、私は私自身を嫌いになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます