第363話 優しさ





「春香、お手伝いしてくれてありがとう」

「いえいえ、りょうちゃん1人じゃ大変だろうし、初めての学祭だからわからないことだらけだと思うし…陽菜ちゃんとりっちゃんに頼まれたから、これくらい役に立たないと…」


陽菜が入院してから毎日、りっちゃんさんは陽菜の元に通っている。今日は以前のように僕とりっちゃんさんで学祭の準備をしなければならなかったのだが、春香がりっちゃんさんに陽菜のところに行ってあげるように言って、りっちゃんさんの代わりに春香がお手伝いに来てくれた。とはいえ、春香も係の仕事は詳しくわからないので、陽菜の病室にいるりっちゃんさんと連絡をとりながら準備を進めている感じだった。


僕がお礼を言うと、春香はなんていうか、追い込まれてると言うか…辛そう…な感じがした。


「春香には助けられてばかりだなぁ。今回もだけど、春香にはいつも助けられてる。陽菜からもりっちゃんさんからも、みんなから頼られる春香は本当にすごいと思う。いつも助けてくれてありがとう」

「私なんか…大したことはしてないよ……」

「助けを求める時ってさ、必ずしも大したことをして欲しい時ってわけじゃないんだよ。ただ、側にいてくれるだけで助けられることもあるし、些細な気遣いに救われることもある。春香はさ、困ってる時にすごく素敵な笑顔で些細なことまで助けてくれるじゃん。そういった気遣いでどれほど助けられたか…だから、みんな、春香を頼っちゃうんだよね」


本当に、春香はいい子だ。春香にはいっぱい助けられてる。なのに、もっと、何かしてあげないと。って…思って、本当にいっぱいいろいろなことをしてくれてるのに、自分は何もしてない。って錯覚して、もっと何かしないとって…自分を追い込んでしまっている。


だから、きちんと、ありがとう。って伝えて、今の春香に助けられてることをきちんと伝えてあげたかった。


「りょうちゃん、ありがとう」

「当たり前のことを言っただけだよ」


そう僕が答えると歩きながらギュッと腕を抱きしめてくる春香がめちゃくちゃかわいい。


係の仕事を終えた後は、春香と一緒にホールに向かい、ホールで僕たちを待ちながら練習していたまゆとゆいちゃんと合流してちょっとだけ楽器を吹いた。


その後、ゆいちゃんをバイト先に送って、春香をアパートで降ろして、僕とまゆはバイトに向かう。


「りょうちゃん、大丈夫?疲れてない?」

「割と疲れてる……」

「あはは。そうだよね。お疲れ様。着くまでゆっくり休んでてくれていいからね」

「ありがとう」


まゆに優しく声をかけられて、落ち着いてしまい、まゆの隣で寝落ちしてしまった。


「あれ、寝てた?」

「うん。りょうちゃんの寝顔、かわいかったよ。まだバイトまで少し時間あるから休んでていいよ」


気づいたらバイト先の駐車場に車を駐車し終わった後で、まゆはシートベルトを外して、眠っていた僕の頭を優しく撫でてくれていた。


「もうゆっくり休めたから大丈夫だよ。まゆ、ありがとう」

「疲れはとれた?」

「うん。だいぶとれたと思う」

「じゃあ、完全に疲れがとれるようにまゆがおまじないをかけてあげよう」


そう言ってまゆは顔を僕に近づけて、そっと、優しくキスをしてくれる。


「どう?疲れ、とれたかな?」

「う、うん。めっちゃとれた…めっちゃバイト頑張れる」


効果抜群のドーピングをされて一気に体力ゲージが回復した気がする。


「まゆも…楽器吹いたり運転したから…疲れちゃったなぁ……」


お返しを要求されたので、僕はそっとまゆに顔を近づけてドーピングのお返しをする。


「ありがと。これで今日もバイト頑張れる!」

「うん。頑張ろう」


車から降りて、まゆと手を繋いでバイト先まで歩く。駐車場からバイト先までのこの短い時間は、いつも手が温かくてすごく、幸せだ。





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