第330話 2人だけのデート






お菓子作りは順調に進み、あっという間に完成して僕はすぐに食べたかったがまゆにだめ。と言われてお預けをくらった。まあ、今からまゆとランチに行くし…今、このお菓子たちを食べたらお腹いっぱいになるまで食べるのをやめない気がするから今は食べない方がいいのかもしれない。


「あ、りょうちゃん、早く行かないと予約してた時間になっちゃう」

「え?予約?」

「うん。人気店だから前々から予約しておいたの!今日のまゆは…本気でりょうちゃんを独り占めして思いっきり楽しむつもりだからね。今からりょうちゃんをいっぱい振り回すから覚悟しておいてね」


まゆは今日のために本気でいろいろと準備をしてくれていたみたいだ。まゆと2人きりでゆっくりできるのはバイトの時間を除けばすごく久しぶりな気がする。まゆが、こうやって2人の時間も大切にしてくれていっぱい楽しめるように予定を考えてくれていて僕は幸せな気分になる。


僕とまゆは急いで出かける準備をしてまゆの車に乗ってまゆが予約してくれていたお店に向かう。お店に向かう途中、まゆとお話しをしているとゆいちゃんから電話がかかってきた。


「ゆいちゃんからだ。寂しくて電話してきたのかなぁ。まゆ、出てもいい?」


ゆいちゃんからの電話に出ていいか僕はまゆに尋ねる。いつもなら笑顔でいいよ。と言ってくれるので、僕はまゆの返事を待たずにスマホの画面に手を伸ばしてゆいちゃんからの電話に出ようとする。


「だめ……」


まゆはそう言って片手で僕の手を掴んでゆいちゃんからの電話に出るのを止めた。


「りょうちゃんは…今日だけは…まゆのなの。だから、まゆが独占するの。今日だけは…春香ちゃんとゆいちゃんのこと忘れて…まゆだけを見て……りょうちゃんのまゆを見て…お願い……」


運転しながら、顔を真っ赤にして言うまゆを見て、愛おしさが溢れ出てくる。かわいすぎる。でも、きっと、寂しくて電話をかけてきているゆいちゃんと、おそらくゆいちゃんの隣にいるであろう春香の姿が目に浮かび複雑な気持ちになる。


「りょうちゃん…お願い……今日だけは…まゆのわがまま聞いて……今日だけは…ずっと、まゆだけのりょうちゃんでいて……」


まゆに悲しそうな表情で言われたら抗えるわけがなかった。僕は心の中で何回もゆいちゃんと春香に謝りながらそっと、スマホの通知を切る。


「ありがとう…」

「いいよ。帰ったらいっぱい謝らないとね。まゆ、そんな顔しないで笑ってよ。今日だけはまゆだけの僕でいるからさ…」


申し訳なさそうな、悲しそうな表情をするまゆに僕はそうやって声をかけて運転の邪魔にならない程度に軽く頭を撫でてあげる。


「そんな表情のまゆは見たくないなぁ。笑顔のまゆのものでありたいなぁ。ほら、笑って。いつもみたいな素敵な笑顔を見せてよ。春香とゆいちゃんには死ぬ気で謝るからさ」

「うん…ありがとう……」


春香とゆいちゃんへの罪悪感からかぎこちない笑顔を僕に向けるまゆを見て、僕は赤信号で車が止まった瞬間を狙ってまゆを軽く抱きしめた。


「ひゃっ?」


なんの脈絡もなく抱きしめられてびっくりしたまゆは驚きの声をあげるが、すぐに幸せそうな表情に切り替わる。


「うん。やっぱりまゆは幸せそうに笑ってくれてる時が一番かわいい」

「もう。いきなり抱きしめないでよ。びっくりするじゃん…事故したらどうするの?まゆを抱きしめたかったら好きなだけ抱きしめてくれていいけどいきなりはやめて。特に運転中は!」

「ごめんなさい……」


割と真面目な声のトーンで言われて僕はまゆにめっちゃ謝った。


「謝らないでいいよ。りょうちゃんに抱きしめてもらってまゆはすごく幸せだったから…あ、りょうちゃん、着いたよ」


そう言ってお店の駐車場に入るまゆ。見覚えのあるお店だった。来たことはないはずだけど…どこかで見たことある。


「あ、雑誌に載ってたお店か」

「そうだよ。付き合い始めてすぐの頃にりょうちゃんがまゆの雑誌見ながらこのお店行ってみたいって言ってたの覚えてたからさ。せっかくの機会だし頑張って予約したの」


笑顔でそう言ってくれたまゆが最高に天使すぎる。数ヶ月前のやり取りを覚えてくれていたことが、本当に嬉しかった。


「まゆ、ありがとう」

「いえいえ、今日は2人でいっぱい楽しむって決めてたからさ。りょうちゃんもちゃんと楽しめるように、って選んだの」

「まゆと一緒なら僕はいつでも幸せだよ」

「はいはい。そう言うベタなセリフはいいから早く行こ」


あれ。ちょっとそっけない…本心で言ったし、いつもなら喜んでくれるのにどうしたんだろう。と思いながらまゆを見ているとスキップしながら歩いていた。かわいい。


なるほどなるほど、供給過多で素直に喜べなかっただけね。たまにあるやつだ。めっちゃかわいい。


スキップで歩くまゆの手をそっと繋いで僕はまゆの隣を歩いて幸せそうに微笑んでいるまゆとお店の中に入る。






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