第281話 僕が望むもの
翌朝、目を覚ました後、4人で朝ごはんを食べてすぐにゆいちゃんはまゆにアパートまで送ってもらう。僕は春香と朝ごはんの片付けをしながらまゆの帰りを待つ。
「りょうちゃん…ゆいちゃんとは、ちゃんと話せたの?」
朝ごはんに使ったお皿を洗いながら春香が恐る恐る僕に尋ねる。僕はちゃんと話したよ。と春香に答えると春香はそれ以上何も聞かなかった。
朝ごはんの片付けを終えて、僕はリビングのソファーで春香と並んで座ってゆっくりしながらまゆの帰りを待つ。お昼前まで待ってまゆが帰ってこなかったので、春香と一緒にお昼ごはんを作ろうとしだすと、まゆから「お昼ごはん食べてくるからりょうちゃんと春香ちゃん2人で食べて!」と連絡が来たので僕と春香は2人で料理を作って2人でお昼ごはんを食べた。
お昼ごはんを食べて後片付けをしてしばらくしてもまゆはなかなか帰ってこなかった。春香と少し心配しているとおやつの時間くらいにまゆが帰ってきて、僕はまゆとバイトに出かける。
そして、バイトを頑張って帰り道、いつも通り僕はまゆと一緒に車に乗る。
「りょうちゃん、昨日の夜はちゃんとゆいちゃんと話したの?」
運転をしながらまゆが僕に尋ねる。聞かれるかな。とは思っていた。たぶん、まゆは結末がどうなったのかを知っている。だから、誤魔化さずに全部話そう。まゆならわかってくれる。まゆなら、慰めてくれる。
「話したよ。ちゃんと話した」
「どうなったの?」
「ゆいちゃんに諦められない。って言われた。だから選んでって言われた。ゆいちゃんを選ぶか、切り捨てるか、選んでって言われた」
「それで?」
「もう関わらないことにしたよ。僕は仲良くしたかったけど、ゆいちゃんのことを考えたら、僕と関わっても辛いだけかなって思ってさ…」
「そっか…」
まゆはそれ以上何も言わなかった。慰めて欲しかった。辛い選択だったね。と、慰めて、共感して欲しかった。僕の大切な人に慰められて共感してもらって、自分は正しい選択をしたと思い込みたかった。
「辛い?」
「うん…」
少しの間をあけてからまゆにそう聞かれて僕は少し悲しそうな感じを演出しながら頷いた。こうしていればまゆはたぶん、優しく僕を慰めてくれると思ったから…りょうちゃんは悪くないし、間違ってない。と言ってくれると思ったから。いつも、まゆはそうしてくれていたから今回もそうしてくれると思った。
「ちゃんと話して、お互い納得したの?」
「うん…」
「嘘、りょうちゃんが納得してない。違うなぁ。りょうちゃんも、納得してない」
りょうちゃんも…か…その言い方からすると、納得していないのは僕だけではない。と言うことだろう。
「もう一回、ちゃんと話したら?りょうちゃんは本当に、このままでいいの?」
「このままでいいか。って言われたら、このままでいるしかないよ。僕がゆいちゃんを受け入れられない以上、ゆいちゃんの望み通り終わりにした方がいい」
「見損なったよ。結局、逃げただけじゃん。ゆいちゃんの言葉を理由にして、自分は正しい選択をした。って言い訳を作って逃げただけじゃん」
まゆなら優しく慰めてくれると思った。でも、まゆは厳しかった。僕が、ゆいちゃんの言葉を言い訳にして逃げているのを許してはくれなかった。
「そんな言い方しなくても…僕だって、悩んだよ。ゆいちゃんと友達でいたいよ。でも、ゆいちゃんに傷ついて欲しくないんだよ」
まゆに、少し強く言われたことに反発するように、僕もつい強く言ってしまう。まゆが言っていることは正しい。だけど、僕はまゆに慰めて欲しかった。なのに、正論をぶつけられてちょっとイラついてしまった。まゆは何も悪くないのに、まゆに強く言ってしまって罪悪感を感じる。
「まゆ、ごめ……」
「ゆいちゃんを傷つけたくない。は免罪符じゃないからね」
謝ろうとしたらまゆは淡々と僕に言う。まゆは悪くない。悪くないけど、気に入らなかった。そんな言葉をかけて欲しかったんじゃない。慰めて…わかって欲しかった……
「そんな言い方しないでよ。僕だって悩んで、辛かったんだから……まゆにはわからないよ……僕だって、本当に辛かったんだよ……悩んだんだよ。いっぱい考えたんだよ……」
自分でも冷たく感じる声で、僕はまゆにそう言っていた。本当に僕は最低な人間だ。まゆは悪くないのに、少し気に食わないからってこんなことを言って…
「少し、頭冷やしなよ。ごめんね。まゆもちょっと言いすぎた。ごめん……」
それ以降、まゆとは一言も話さなかった。アパートに帰って春香と3人になってからも僕とまゆは話さないで、春香にすごく心配をさせた。
いつもなら3人でリビングで寝るのに、まゆは春香とまゆの部屋のベッドで寝る。と言って部屋に行ってしまった。僕も、今は1人になりたかったので、今日は自分の部屋で寝ることにした。今、春香と2人きりになったら…春香にまで酷いことを言ってしまいそうだから…
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