第233話 色づく景色
「りょうちゃん、昨日の約束、覚えてるよね?」
「うん。覚えてるよ」
「じゃあ、春香ちゃんに連絡しておいて」
「レポートは大丈夫なの?」
「うん!あと1つだけだから大丈夫!」
「じゃあ、少しだけ寄り道しようか」
バイト後に喜ぶまゆと手を繋ぎながら駐車場まで歩いてまゆの車に乗る。
まゆの車に乗り、いつもなら春香に今から帰る。と連絡をするのだが、今日は昨日、春香とまゆに黙って寄り道したことの埋め合わせをしてから帰る。と春香に連絡を送る。
少しすると春香から了解!と連絡が来た。先に夜ご飯食べてて大丈夫だよ。と伝えても待ってる。と言ってくれるのでちょっと申し訳ない気持ちになる。
「春香ちゃんいいって?」
「うん。でも、まだ夜ご飯食べてないみたいだからあまり待たせすぎるのも悪いしあまり長くならないようにはしよう」
「そうだね。それで、どうする?」
「この時間だとお店とかあまり開いてないしなぁ…前には、まゆとドライブしたじゃん」
「りょうちゃんが初めてまゆの家にお泊まりしに来た時だよね?」
「うん。あの時みたいにドライブ…デートしたい」
あの日はただのドライブだった。だけど今日はドライブデート、やってることは同じなのに言葉が違うだけでなんだか新鮮な気持ちになる。
あの日、僕はまゆのことを好きになった。そう思い返すと懐かしくて、あの日みたいにまゆが積極的にしてくれなかったら、僕と春香とまゆは今頃どうなっていたのだろう。と考えてしまう。
そのようなことを考えるとちょっと切ない気持ちになる。今のような幸せがない世界線があったとしたら…と暗い一本道でライトを灯しながら走る車の中で考えていた。
なんだか、灯りのない周囲の景色と同じような心になっていた。深く、あの時、のことを考え、暗く、別世界のことを考えていた。
「こーらっ!」
運転しながらまゆは片手をハンドルから離して僕にデコピンをしてきた。まゆにデコピンをされて目を覚ましたような感覚になる。
「りょうちゃん、たまに何か考えて意識が別空間に行ってる時あるよね」
「そう?」
まゆに笑いながら言われたことを僕は全く認識していないが、まゆがそう言うのであればきっとそうなのだろう。
「そーだよ。何考えてたの?」
「まゆと初めてドライブしたこととか、まゆを初めて好き。って思った時のこととか思い出してた」
「まゆのこと好きすぎない?」
「そうだね。大好き」
僕の言葉を聞いてまゆが幸せそうに微笑むのを見て僕も幸せな気持ちになる。
「ありがとう。まゆのこと考えてくれて。でもさ、せっかくのデート中なんだからさ、昔のまゆを思い出すんじゃなくて今のまゆを見て欲しいな」
僕はきっと、まゆのこういうところを好きになった。今や未来を見ているまゆが好きなのだろう。何より、まゆが色づいて見えた。先程の別世界のことを考えて暗くなっていた僕と違い、まゆは今を考えて幸せそうに色づいて見えた。まゆのそういうところを僕は、あの日、好きになっていたのかもしれない。
「まゆ、好き…」
「なぁに、まゆ、照れるよ」
「照れてるまゆもかわいいから好きだよ」
「本当に照れるよ。照れて事故ったらどうするの!?」
「それは困る」
僕の反応を見て笑うまゆをかわいい。と思う。
「まゆはさ、昔のこと思い出したりしないの?」
「思い出すよ。過去はすごく大切なものだもん。特にこの数ヶ月はいろいろ思い返すことが増えたなぁ。まゆね、毎朝この指輪をつける時に、3人で指輪を買った時のこととか、まゆが一度手放したのに、りょうちゃんと春香ちゃんが見つけてまたまゆの指につけてくれたこととか思い出すの。それで、まゆは本当に幸せ者だなぁ。って、まゆを幸せ者にしてくれてるりょうちゃんと春香ちゃんに毎朝感謝してるんだ」
まゆは左手の薬指についている指輪をチラッと眺めながら言った。まゆの表情を見ると、少しだけ目に熱い雫が溜まっているようだった。その雫は、まゆがどれほど幸せを感じているのかを表しているようで、僕も幸せな気持ちになる。
「僕はさ、あの時どうだったら〜みたいに考えちゃうんだよね」
「現実は変わらないよ。過去を振り返って反省をする。それはすごく大切…だけど、間違った選択をしていないのに過去を振り返ってダメだった道を想像するのは無駄だと思う。100%無駄とは言わないけど、まゆはしないよ。りょうちゃん、誇っていいよ。りょうちゃんは間違ってない。まゆも春香ちゃんもちゃんと幸せにしてくれてる。だから、安心して」
安心して…僕は、不安だったのだろうか…不安だから、過去を振り返ってああしていればとか考えていたのだろうか、違う気もする。だが、まゆの言うことも一理あるのかな。と思った。
「はい。暗い話は終わりー。りょうちゃん、今からはちゃんと今のまゆを見て!今からのデート、ちゃんと2人で幸せになるよ」
「うん。そうだね。まゆ、ありがとう」
今のまゆをきちんと見る。そう考えた時、先程、ありもしない過去の可能性を考えていた時は真っ暗だった景色が、今はとても色づいて感じた。
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