第213話 不安定






「り、りっちゃんさん、お…おはようございます」

「陽菜、おはよう」


合宿が終わり、次の日の朝、私は恋人である陽菜ちゃんと駅で待ち合わせをしていた。駅で陽菜ちゃんを出迎えてから、陽菜ちゃんと一緒に大学に向かう。


「荷物、もとうか?」

「だ、大丈夫です!」

「いいから。こっちだけでも持ってあげる」


私はそう言いながら、陽菜ちゃんが持っていた大きめのトートバッグを陽菜ちゃんの肩から取り上げる。結構重いな。たぶんだけど、楽譜とか授業の道具とかは全部こっちのトートバッグに入っているな…陽菜ちゃんが背負っている大き目のリュック、たぶんそっちには今日必要なものが詰め込まれているはずだ。


「あ、あの…りっちゃんさん…本当に、今日でいいんですか?いきなりすぎて迷惑じゃないですか?」

「大丈夫だよ。今日はずっと一緒にいよう」

「は、はい!」


今日、陽菜ちゃんは私の部屋にお泊まりする。そのための着替えや化粧品などのお泊まりに必要なものが、リュックには詰め込まれているみたいだ。


「あ、あの…今日の陽菜の服装…どう……ですか?」


陽菜ちゃんが顔を真っ赤にして私に尋ねる。陽菜ちゃんの今日の服装、かわいらしいフリルのワンピース、陽菜ちゃんの高身長にはあまりかわいい系の服装は似合わないかな。と昨日までは思っていたが、そんなことはなかった。めちゃくちゃかわいい。


「めっっっちゃかわいいよ」

「ほ、本当ですか?」

「こんなことで嘘言わないよ」

「よかったです。今日、お泊まり初めてだから…気合い入れてきたんです」


陽菜ちゃんは安堵した様子を見せる。かわいい。別に服装なんて気にしなくても、陽菜ちゃんは陽菜ちゃんなのになぁ。


私と陽菜ちゃんは1限の授業を一緒に受けて、2限の時間は2人で一緒にいた。一度、陽菜ちゃんと分かれて3限4限の授業を受けた後に陽菜ちゃんと待ち合わせ場所に向かう。


「りっちゃん、お疲れ様」

「あ、春香ちゃん、お疲れ様。1人?」

「うん。りょうちゃんとまゆちゃんがバイトに行っちゃったからさ…今から帰って夜ご飯作る感じかなぁ…よ、よかったらりっちゃん、一緒に夜ご飯作らない?」

「あーごめんね。今日は陽菜ちゃんがお泊まりに来るからさ、夜ご飯は陽菜ちゃんと一緒に作る約束してるんだ」

「ふーん。そうなんだぁ」


春香ちゃんはめちゃくちゃつまらなさそうな表情をして私に言う。ごめんて…でも、初めて陽菜ちゃんとプライベートで2人きりでいられる今日は、いくら春香ちゃんの頼みでも無理だなぁ。


「りっちゃんさん、お待たせしました。あ、春香ちゃん、お疲れ様」

「陽菜ちゃん、お疲れ様…あ、私、もう行くね…」

「あ…春香ちゃ……」


私は春香ちゃんに声をかけようとしたが、春香ちゃんはそそくさとその場から居なくなってしまう。そんな春香ちゃんを見て陽菜ちゃんは頭に?を浮かべていた。


「春香ちゃん、どうしちゃったんですかね」

「さあ…よ、用事でも思い出したんじゃないかな」


きっと、春香ちゃんは……後で少しLINEとかしないとな…と思いながら私は春香ちゃんと手を繋いで私のアパートの部屋に向かう。




私は何で…りっちゃんと陽菜ちゃんから逃げるようにあの場から立ち去ったのだろう。ずっと、そればかり考えていた。なんで、あんな態度を……


「春香、よかった。今から帰るって連絡しても返事ないからちょっと心配したんだよ」

「え。りょうちゃん!?」


気づいたら数時間、ずっとそのことを考えていたみたいだ。スマホの電源は…1度りっちゃんから連絡が来た時に切ってしまっていた。というかまずい…もう、りょうちゃんとまゆちゃん帰ってきちゃった…


「あ…え…っと……りょうちゃん、まゆちゃん。ごめん。夜ご飯すぐに作るからちょっと待ってて」


私は慌てて立ち上がって台所に向かおうとする。りょうちゃんの横を通ろうとした時、りょうちゃんに腕を掴まれた。


「春香、どうしたの?体調悪いの?体調悪いなら無理しないで…ゆっくりしててよ」

「そうだよ。春香ちゃん、いつも春香ちゃんばかり作ってくれてて申し訳ないな。って思ってたからさ、たまにはまゆに夜ご飯作らせて。りょうちゃん、春香ちゃんと待っててくれるかな?」

「うん。ありがとう。まゆ、お願いできる?」

「うん!任せて」


まゆが台所に向かうのを見ながら僕は春香をソファーに座らせて僕は春香の隣に座る。


「大丈夫?」

「え、あ、うん。大丈夫だよ」

「僕たちが帰ってきた時、世界の終わりみたいな表情してたよ」

「そ、それは…夜ご飯作れてなかったから……」


春香が申し訳なさそうに言う。


「春香、好き。大好きだよ。安心して…それくらいのことで春香を責めたりしないよ。いつも本当に感謝してるし、春香にばかり家事してもらって申し訳ないって思っているからさ…たまにはゆっくりしてよ」

「あり…がとう……」

「泣かないの。春香のかわいい顔が台無しだよ。何かあったの?大丈夫?」


りっちゃんさんから、春香ちゃんが不安定になってたら支えてあげて欲しい。と連絡をもらった時はびっくりしたが…やはり、何かあったのだろうか。


「大丈夫。りょうちゃんとまゆちゃんのおかげでもう大丈夫だよ」


春香は笑顔で言った。不安は残るが、春香が大丈夫と言うならこれ以上何も聞けない。





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