第192話 初恋と謎恋




「で、こう君とは付き合えたの?」


昼食を食堂で全員でいただいた後、朝からバタバタしていて、ずっと聞きたかったことを私はさきに尋ねる。ずっと聞きたかった。とは言ったが、結果はわかっている。昼食の時に、こう君の隣に座っていたり、楽しげに話したり、幸せそうにしていたさきの表情から…結果はわかっている。


「ゆい、その…ごめん……」

「謝らないの!おめでとう。でいいんだよね?よかったじゃん。ちゃんとこう君に幸せにしてもらいなよ」


私に申し訳なさそうな表情をしたさきに私は笑顔で言う。謝る必要なんてないのにさ…これは、私が選んで私が望んだ道なんだから…さきが幸せになれることを素直に祝わせて欲しいな。


「ありがとう」

「いいよ。幸せになって、幸せにしてあげなよ」

「うん」

「初めての彼氏だからって…あまり、ハメを外しすぎないようにね」

「ゆいじゃないから大丈夫だよ」


さきは笑顔でちょっと、嫌味っぽく言う。あ、はい。あの時は本当にごめんなさい。バカな私がご心配とご迷惑をおかけしました。と…以前の私を思い出してどの口でさきにそんなこと言えたんだろう。と苦笑いした。

私の心中を察したのか、さきはクスリ。と笑う。さきの笑顔かわいいわぁ。


「あ、さき、彼氏さん、来たよ!ほらほら、ちゃんと付き合い始めた今のうちに初々しくイチャイチャするのを楽しんできな」


私はそう言いながらこちらに歩いてくるこう君の方へとさきの背中を押した。


「おっと…大丈夫?」

「え、あ、うん。大丈夫だよ。ごめんね」


私がさきの背中を押すと、さきはバランスを崩してしまい、歩いて来たこう君の方へと倒れていく。倒れてきたさきを弱々しいこう君がそっと受け止めてあげたのを見て安心した。こう君もさきと一緒に倒れたらどうしよう。と一瞬本気で思ったから笑


こう君に受け止められて体が密着しているのに、さきは動こうとしない。顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしていたが、幸せそうだ。こう君は…顔を真っ赤にしてちょっと困惑していたが、なんだかんだで嬉しそうな表情をしている。なんか、初々しくていいなぁ。

私は離れようとしない2人をきちんとスマホで写真に収める。後でさきに見せてやろうニヤニヤ。


5分くらい、その場で留まり続けるというバカップルぶりを付き合って早々に私に見せつけてくれたさきとこう君、お似合いの2人だった。


2人なら、絶対、幸せになれるよ。


と、私は心の中で呟いた。ちょっと羨ましい。素直に祝ってあげたい。これは事実だが、自分の中に、少しだけ幸せそうにしている親友に嫉妬する自分もいた。




「りっちゃんさん、トロンボーンパートは午後の練習、いつから再開予定ですか?」


昼食を食べ終えた後、歯を磨いて適当にソファーに座ってスマホをいじっていると私の隣に陽菜ちゃんが座って私の肩に頭を当てて、私にもたれかかるような仕草で私に尋ねる。やばいわこれ。かわいすぎるわ…


「あと30分休憩してから再開する予定だよ」

「サックスパートと同じですね!じゃあ、休憩終わるまで側にいていいですか?」

「うん。いいよ」


断る理由は特にない。別に気まずいわけではないし、何より、後輩に慕われて(恋愛感情だが)いるのは嬉しいし、陽菜ちゃんはいい子だし、一緒にいて楽しいからね。


「あ、ちょっとりっちゃん!私のかわいいかわいい後輩に手を出さないでよ」


みーちゃんがそう言いながらすごい勢いでこっちにやって来て陽菜ちゃんの隣に座って陽菜ちゃんを抱きしめる。


「ほらほら、陽菜ちゃん、みはね先輩ですよぉ。りっちゃんよりも私と一緒にいようよぉ」

「みはね先輩、ちょっと鬱陶しいです。今は休憩時間中なんですよ?陽菜を疲れさせるようなことしないでください」


と、陽菜ちゃんに抱きつくみーちゃんを陽菜ちゃんはばっさりと切り捨てた。みーちゃんがちょっと可哀想…だが、その程度で後輩大好き人間のみーちゃんが諦めるはずなく陽菜ちゃんにうざ絡みを続けたが、陽菜ちゃんはまともに相手をしないで淡々とみーちゃんのスキンシップを捌いていく。


「あ、そういえばみはね先輩、あっちにいた1年生の子がみはね先輩とお話ししてみたいって言ってましたよ」

「え?本当?ちょっと行ってくる」


陽菜ちゃんの絶対嘘だろ…とツッコミたくなる言葉を信じてみーちゃんは陽菜ちゃんの隣から立ち上がりどこかに行ってしまう。純粋だなぁ…


「さ、りっちゃんさん、いい感じに捌けましたし、ゆっくりしましょう」


陽菜ちゃんは笑顔で私に言う。みーちゃんの扱い、上手いなこの子…かわいい後輩のちょっとだけ悪っぽい部分が見れてちょっと面白かった。


「りっちゃんさん、好きです」

「うん。知ってるよ。ありがとう」

「陽菜がこうして、りっちゃんさんの側にいるの、迷惑ですか?」

「ん?迷惑じゃないよ。陽菜ちゃんのこと、後輩として普通に大好きだからさ。告白の返事は…もう少し待ってね」

「はい。ゆっくり考えてください」


陽菜ちゃんとそんなやり取りをして、ちょっと重い雰囲気になってしまったが、陽菜ちゃんは気を遣ってくれて雰囲気が明るくなるように馬鹿みたいな話をして話題を変えてくれた。こういう気遣いをしてくれると、嬉しいな。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る