第182話 夏の楽しみ。





「りょうちゃん、星、綺麗だよね!」


外に出て3人で並んでベンチに座るとまゆが笑顔で僕に言う。もう6月とはいえ、海が近いこの地域の夜は風が強くて寒い。春香は薄めのパーカーを被っていたが、まゆは半袖で寒そうだ。


「まゆ、風邪ひくよ」


僕はまゆに、僕のパーカーを貸してあげる。僕はそこまで寒さを感じていないし、少し腕が震えていたまゆが着るべきだ。


「え、ダメだよ。りょうちゃんが冷えちゃうじゃん」

「僕は大丈夫だから、まゆが着て…ほら、寒いんでしょう?」


僕は強引にまゆにパーカーを着させる。最初、少し抵抗していたが、僕が強引にパーカーを着させてあげると、まゆはありがとう。と言いながら僕に抱きついた。


「りょうちゃん寒いだろうからまゆが温めてあげる」

「ずるい…私も…」


まゆが僕に抱きついたのを見て、僕の隣に座っていた春香も僕にもたれかかるようにしてギュッと僕を抱きしめてくれる。


「こら、ダメだよ。合宿中は控えるって約束だよ」

「ここなら誰にも見られないよ」

「まゆ、少しだけでいいからりょうちゃんに甘えたい」


………春香とまゆにこう言われると僕は絶対に逆らえない。春香とまゆが僕を抱きしめてくれることを僕は受け入れた。春香とまゆに抱きしめられながら、僕たちは空を見上げた。

夜空はすごく綺麗で、暗い空間に数多の光…星が散りばめられていた。


「流れ星とか見れないかなぁ…」

「まゆ、流れ星とか好きそうだもんね。見れるかな…」

「無理だと思うけど笑。でも、こうやって綺麗な星を彼氏と眺めるの。まゆの憧れだった」

「私…去年、ここでまゆちゃんとりっちゃん、ゆきちゃんと星を見た時に…りょうちゃんと見たいなぁ。って思ってたんだよね」


まゆと春香は星を眺めながらそう言ってくれた。嬉しいな。まゆの願いを叶えて、一緒に星を見ることができて…春香の、去年の願いを叶えてあげられて……流れ星に祈ったりしなくても……好き。とか、人の思いと想いがあれば…願いは叶うのかもしれない。


「ここの星も好きだけど地元の星も好きなんだよね」

「あー、めっちゃわかる。ど田舎だから星見放題って感じだもんね」

「ちょっと、ジモトークやめてよ。まゆ、わからないから」


春香の言葉に僕が同意するとまゆが足をバタバタさせながら不満そうに言う。仕草がかわいい。


「そうだよね。僕、まゆと春香と一緒に地元の星空みたいな」

「じゃあさ、りょうちゃんと春香ちゃんがよかったら…夏とかにりょうちゃんとまゆちゃんの実家連れて行ってよ。そこで、3人で星見ようよ」

「そうしようか。お母さんにまゆ紹介するように言われてるしさ…」

「あ、じゃあ、せっかくだから春ちゃんとりょうたも一緒に星見ようよ」

「春香ちゃん、それ最高!」


帰省して、まゆを家族に紹介する。そして、僕と春香とまゆ…そして、僕の妹の春と、春香の弟のりょうた君のカップルでダブルデート、星を見る。夏にしたいこと…できたな。実現できるといいな……


「他に、夏に何かしたいこと!」


まゆが大喜利のお題を出すようなテンションで僕と春香に尋ねる。


まず、僕と春香の地元に帰省

そして、まゆの家にまゆが顔を出すついでに3人でお泊まり

打ち上げ花火を見たり、浴衣を着てお祭りに行く。海に行ったり、スイカ割りしたり、流しそうめんしたり、ゴールデンウィークは仲のいいグループで行ったが、今度は3人だけで旅行したい。

夏にしたいことを挙げ出したらキリがなかった。そして、3人が、同時に発した、夏にしたいこと……


「「「コンクールで金賞取って県代表になる」」」


コンクールの大学の部は数が少ないため、いきなり県大会がほとんどだ。県大会で金賞取って、県代表になり、より上の舞台で頑張りたい。

3人で同時に言って、3人で笑った。示し合わせていたわけではない。偶然、同じことを同じタイミングで思っただけだ。


「そのために、合宿、頑張ろうね」

「「うん」」


まゆの掛け声に僕と春香は頷いた。でも、もし、8月序盤のコンクールで金賞取って県代表になったら次は9月中盤〜終盤だ。夏休みあるのかな…笑


「ねえねえ、夏の旅行はどこに行く?」

「うーん。バイトのシフト、生活費とかと相談だね」

「えー、春香ちゃん現実的すぎるよぅ…」


まゆの問いに春香が答えるとまゆは笑いながら呟いた。夏にいっぱい遊びたいし、春香とまゆにいろいろしてあげたい。そのために、バイトも頑張らないとな。

部活にバイト、そして恋……夏は…すごく忙しそうだ。きっと…毎日が充実していて…あっという間に終わるのだろうな…

大学の夏休みは8月序盤から9月終盤まで、結構長いが…それでもあっという間だろう。3人の幸せな時間はあっという間に進んでしまうから……


そんなことを考えていると、まゆが、りょうちゃんはどこに行きたい?と尋ねてきた。


「春香とまゆと一緒ならどこでもいい」

「私も…りょうちゃんとまゆちゃんと一緒ならどこでもいい」

「じゃあ、北海道行きたい」


………そこはさぁ、まゆもりょうちゃんと春香ちゃんと一緒ならどこでもいい。って言う場面じゃないの?と、笑いながら僕と春香は言う。

北海道か…いいかも。


「北海道には電車で行こうね」

「「え?」」


北海道って電車で行けるの?と、僕と春香は真顔で尋ねる。すると、まゆは行けるよ。と答えるが僕と春香は信じられなかった。


そんな感じで、馬鹿みたいなやり取りをしていたら、すっかり身体が冷えてしまったので、僕たちは建物の中に入ることにした。


夏は楽しみだけど、まずは…この合宿、楽しんで頑張ろう!!!



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