第180話 告白と告白





「あの、りっちゃんさん、少し話したいことがあって…その、お風呂出たら少し時間いただけませんか?」

「ん?改まってどうしたの?まあ、別にいいよ。じゃあさ、お風呂から出たら民宿の庭行こうよ。田舎だから星とか綺麗に見れるし落ち着いて話できると思うよ」


お風呂から次々と人が出て行き、そろそろ私も出ようかな。と思っていたら、隣にいた陽菜ちゃんに話があると言われたので私は外で話すことを提案する。すると、陽菜ちゃんはいいですね。それでお願いします。と言うので私は了承して、じゃあ、そろそろ出ようか。と陽菜ちゃんに言い陽菜ちゃんと一緒にお風呂を出る。




「ふぅ…もう6月なのに少し寒いねぇ…」

「そうですね…やっぱり中で話しますか?」

「ん?ここで大丈夫だよ。そこのベンチに座って話そう」

「はい」


私は陽菜ちゃんと並んでベンチに座った。やはり少し寒い。陽菜ちゃんも少し震えていたので、念のために持ってきておいたパーカーを陽菜ちゃんに被せてあげた。


「え、りっちゃんさん…」

「いいから使って。大切な後輩に風邪引かれたら困るしね」


慌ててパーカーを私に返そうとした陽菜ちゃんの手を止めて私は言う。お風呂上がりで半袖半ズボンのラフな格好だった為、本当は割と寒い。と思っていたが、後輩に風邪を引かせてしまうかもしれないと考えたら自然と我慢できた。私が寒い。と思っているのを感じてか、陽菜ちゃんがやたら私にべたりと引っ付いてきている気がする。かわいいなぁ…


「で、話したいことって何?」

「あの…陽菜、病気持っているんです」

「うん。知ってるよ。だから、コンクール出ないんだよね?」

「はい。今、りっちゃんさんは知ってるよ。って言ってくださいましたけど……りっちゃんさんや他の人たち……りょうちゃんとまゆ先輩以外には本当のことを言っていないんです」

「本当のこと?」


本当は病気なんてないのだろうか…それならそれで安心できるのだが……と一瞬でも考えた私は馬鹿だったのだろうか……陽菜ちゃんは深く深呼吸をして、空の星を少し眺めて覚悟を決めたような表情で私の目を見る。陽菜ちゃんの目は……暗かった。光なんてない。そう思っているように感じてしまうほど、暗い感じがしたのは…気のせいなのだろうか……


「陽菜、このままだと長くてもあと数年しか生きられないんです」


陽菜ちゃんは笑顔で私に言う。もう、観念している。もう、抗う気はない。そう感じさせるような笑顔だった。


「え?どういうこと?」

「陽菜、長くてもあと数年しか生きられないんです。もし…手術とか受ければ……もう少し長く生きられるかもしれないんですけど……陽菜、疲れちゃって…怖くて…何より……普通でいたいんです」


陽菜ちゃんは真剣な表情で言うが、予想外の話すぎて私は理解できなかった。病気?え、でも…陽菜ちゃんは今こうして普通に……


「手術するってなったら…また、長い間、病院にいないといけない。また、あのつまらない鳥籠の中にいないといけない。もう、嫌なんです。だから、陽菜は、普通に生きて普通の人間として死にたい。親も医師も陽菜の気持ちを尊重してくれました。延命して、病院のベッドにいるだけの人生よりも、普通の人間として少しの間だけでも生きる人生を取った陽菜の気持ちを尊重してくれたんです」

「そう…なんだね……」


そう返すことが精一杯だった。下手なことは言えない。そう思ってしまった。だが、何も言えなかった私を私は嫌になった。目の前にいるこの子は普通に生きることを望んでいるのに…腫れ物に触るような反応をしてしまってこの子を傷つけたかもしれないから…


「りっちゃんさんには知ってほしくて…」

「どうして…私なの?」


陽菜ちゃんは再び空を見上げる。そして、私の手をそっと握った。


「こんな話した後に…こうやって言うのはずるいと思いますけど……りっちゃんさん、陽菜、りっちゃんさんのこと好きです。さっき…模擬告白されたことがきっかけなんですけど…その、たぶん、本気で恋しちゃって……その、陽菜、長く生きられないから人とはあまり深い中にならないようにしたかったんですけど…そんなこと言ってられない。ってくらいガチ惚れしました。その…好きです。陽菜と付き合ってください」


…………陽菜ちゃんが病気………ね。で、陽菜ちゃんは………私に惚れて、私に告白してきた。と……こんなこと思うのは申し訳ないが…え?何これ?ドッキリ?え?もしかしてみんなどこかで見てる?え?陽菜ちゃんが手に持ってるスマホで録音とかされてたりする?


………まあ、陽菜ちゃんの表情とかから、本気だとは伝わってくるけど、やはりまだ、理解できない。そもそも陽菜ちゃん女の子だし……まあ、春香ちゃんに恋してた私が言えることじゃないけど……


「陽菜ちゃん、失礼だけどさ…本気なんだよね?」

「はい。じゃないとこんな話しません」

「そっか、じゃあ、私も真剣に答える。陽菜ちゃん、普通に生きたい。って言ってたから病気とかで特別扱いとかしない、本心を言うね。まず、いきなりすぎて…ちょっと困惑してるからさ、もう少しだけ、今の仲のいい先輩後輩の関係でいたい。陽菜ちゃんのことは本当にいい後輩だと思うし、そう想ってもらえて嬉しいけど、やっぱりまだ出会って間もないからもう少し答えは待って欲しいんだ」

「わかりました。その…いろいろあり得ないこと言っているのにきちんと答えてくれてありがとうございます」

「………私もね。春香ちゃんに本気で恋してた。いや、今でも好きだな。りょうちゃんのことは諦めがついたのに春香ちゃんは諦められないんだ。だから、女の子が女の子好きになる気持ちはわかるよ。安心して。好きになってくれてありがとう」


私はそう言いながら泣きそうになっていた陽菜ちゃんを優しく抱きしめてあげた。

陽菜ちゃんを抱きしめた時、少しだけドキッとして愛おしく感じたことに今の私は気づく余裕がなかった。





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