第75話 二人のかわいさ






「全然書けないよぅ……」


クッションの上に座ってパソコンと睨みっこしてレポートに取り組んでいたまゆ先輩が両足をバタバタさせながら困惑した表情で呟く。仕草が本当にかわいらしい…まゆ先輩の横で、春香もパソコンと睨みっこしており、中々に苦戦している様子だった。


「そんなこと言ってないで頑張って」


僕はまゆ先輩の後ろに周り軽くまゆ先輩の肩を揉み解してあげながら言う。まゆ先輩は嬉しそうな表情でありがとう。がんばる!と言ってパソコンと再び向き合う。その様子を見ていた春香が、僕を見つめていたので春香にもまゆ先輩と同じことをしてあげる。


春香とまゆ先輩がレポートに再び取り組み始めたのを見て、僕は台所に戻る。春香とまゆ先輩がレポートに取り組んでいるため、今日の夕食の準備は僕がすることにしたのだった。とは言え僕は料理なんてほとんどできないため、今晩はお好み焼きにして焼く前の準備まで僕がしてホットプレートで3人でお好み焼きを焼こうということになった。なので僕はキャベツなどを切ったりしてボウルの中にお好み焼きの焼く前のものを用意する。


準備が終わり、時間を確認するがまだ、夕食の時間には早い気がするので春香とまゆ先輩の邪魔にならないように椅子に座ってスマホをいじっていた。


「春香ちゃん、レポートどれくらい終わった?」

「うーん。半分くらいかな、まゆちゃんは?」

「もう半分も終わったんだ…まゆはまだ2割くらいだよ…」

「そっか…がんばろうね」

「うん。でも、まゆお腹すいた…」


まゆ先輩がそう言ったのを聞いた僕はじゃあ、そろそろ夕食にしようか…と言い、テーブルに置いてあるホットプレートの電源をつける。するとまゆ先輩が嬉しそうに立ち上がり、僕の隣の椅子に座る。それを見た春香は僕の向かい側にある椅子を持ち上げてまゆ先輩と反対側の僕のとなりに椅子を置いて座った。わざわざそんなことしなくても…とは思うがこうしてもらえると素直に嬉しいし、春香のことを本当にかわいいって思う。


ホットプレートに電源を入れた後は春香とまゆ先輩に任せる。(僕がやると間違いたり焦がしたりしそうだから…)


春香とまゆ先輩は慣れた手付きでホットプレートに油を入れて豚肉を焼き始める。少し焦げ目がついたら豚肉をホットプレートの端に移動させてホットプレートの真ん中でお好み焼きを焼き始める。


春香もまゆ先輩も本当に慣れていてすごいと思う。春香の焼いてくれるお好み焼きはめちゃくちゃ美味しい。だが、一度だけ怖い思いをしたことがある。中学生の頃、僕と春香の両親が用事で家を留守にした際、僕は夕食を春香と食べることになり、春香の家で今日みたいにお好み焼きを焼くことになった。


部活終わりでお腹が空いていたこともあり焼けるのが待ち遠しくてどれくらい焼けてるか少し焼き目を確認しようとしたら春香にめちゃくちゃ怒られた。お好み焼きを焼く際に、焼き目を確認したり、早く焼けるようにと焼きながらお好み焼きを押さえつけたりするのはNGらしい。めちゃくちゃ怒られた僕はそれ以降大人しく焼けるのを待った。焼き上がったお好み焼きはめちゃくちゃ美味しかったのだが、春香に怒られたことはかなり印象に残っている。


そんなことを思い返しているうちにお好み焼きが焼き上がっていた。結構大きめなホットプレートなので、同時に2枚焼くことが出来ていた。春香とまゆ先輩は焼き上がったお好み焼きを食べやすい大きさに切ってくれた。


3人でいただきますをした後、早速取り皿に一切れずつ取り、口に運んだ。


「あつっ…」


まゆ先輩がお好み焼きを口にした直後にそう呟く。かわいい…


「りょうちゃん…熱くて食べれないからふぅふぅして…」


何このかわいい生物…僕はまゆ先輩に言われるがままに、ホットプレートに乗っているお好み焼きを一切れとり、息で軽く冷ましてからまゆ先輩の口に運んであげるとまゆ先輩はめちゃくちゃ幸せそうな表情でお好み焼きを食べてくれた。かわいすぎる。


当然、春香が、めちゃくちゃ不満そうな顔をしていたので、春香にも同じことをしてあげると春香もめちゃくちゃ幸せそうな表情でお好み焼きを食べてくれた。その後、お返しにと、春香とまゆ先輩が僕にお好み焼きを食べさせてくれた。ここが天国ですか…と言いたくなるくらい幸せだった。


そんなやりとりを繰り返して2枚のお好み焼きはあっという間になくなった。新たに2枚焼き始めたが、次からはちゃんと自分で食べよう。と3人で話し合った。


その後、焼き上がった2枚のお好み焼きを食べ始めたのだが、もう少しソースが欲しいな。と思った僕はまゆ先輩の前に置いてあるソースに手を伸ばす。すると、まゆ先輩が嬉しそうな表情をして僕が伸ばした手を握ってきた。頭の中で?が浮かび数秒固まってしまった。


「まゆ…ごめん。ソース取ろうとしただけ…」

「え…あ、ごめん…」


めっちゃニコニコしていたまゆ先輩だったが、僕が手を伸ばした理由に気づきめちゃくちゃ恥ずかしそうな表情で謝ってきた。何この生物かわいすぎるでしょ…まゆ先輩の行動は間違ってないよ。100点だよ。だってかわいいんだもん。


そんな幸せなやりとりをしていたらお好み焼きはあっという間に食べ終えていたのだった。





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