第66話 終電の時間




「りょうちゃん、お待たせ」


5限の授業が終わり、ゆいちゃんと待ち合わせしていた場所でゆいちゃんを待ち始めてから少ししてゆいちゃんがやってきた。


「待たせちゃってごめんね」

「僕も今きたところだよ。で、どこにご飯食べに行くの?」

「うーん、私さ、ここから電車で3駅のところで下宿してるんだけど、バイト先の料理がめちゃくちゃ美味しいんだ。よかったらそこ行かない?ちょっと高いけど…」

「うん。いいよ」


僕はゆいちゃんと歩いて駅に向かい、電車に乗って移動した。電車から降りて10分ほど田舎道を歩くと、少し建物が増えてきた。路地に入り少し歩くと一軒のお店があった。


「あそこが私のバイト先だよ。ちなみにお店の上の階がアパートになってて私そこで下宿してるの」

「そうなんだ。バイト先めっちゃ近くていいね」

「うん。部屋でて徒歩1分以内だよ。近いのはいいけど、この前、寝坊して遅刻したらすぐに呼びに来てくれてめっちゃ恥ずかしかったから絶対遅刻できないんだよね」


そう言い笑いながらゆいちゃんはお店の扉を開ける。ゆいちゃんが先にお店に入り、続いて僕がお店に入った。


「お、ゆいちゃんいらっしゃい…あれ、もしかして彼氏さん?下宿始めて間もないのにゆいちゃんも隅におけないなぁ…」

「ち、違います。ただの部活が同じ同級生です」

「そっかー、あ、好きなところ座っていいよ」

「わかりました。ありがとうございます」


ゆいちゃんはそう言いながら僕を連れてお店の座敷席に座る。その後、注文の際にゆいちゃんがおすすめしてくれた日替わり夕食を注文した。お刺身の盛り合わせに天ぷら、茶碗蒸し、ご飯、味噌汁、ハモの唐揚げなど美味しそうなものがいっぱい並べられたメニューで味もめちゃくちゃ美味しかった。


食事の際に僕とゆいちゃんはいろいろなことを話していた。その際に、噂についても触れられて、すでにゆいちゃんが何人かの1年生に話して誤解を解いてくれたようだった。


「ねえ、りょうちゃん、まだ時間早いからさ…よかったらカラオケとか行かない?すぐ近くにあるからさ」

「お、いいね。行こう」


食事を終えた後、ゆいちゃんに誘われて僕とゆいちゃんは近くのカラオケに向かった。まだ8時くらいなので2時間くらい歌っても十分終電に間に合うだろう。学割のフリータイムで入って僕とゆいちゃんは数時間カラオケを楽しんだ。僕はカラオケで平均点くらいしか取れないがゆいちゃんは全ての曲で90点を超えていてすごいと思った。


「あ、終電……」

「え…」


歌を歌い終えたゆいちゃんが思い出したように呟いて僕はゾッとした。時間はちょうど11時…まだ、終電があってもおかしくない時間だとは思うが…


「終電って何時なの?」


恐る恐る僕はゆいちゃんに終電の時間を尋ねるとゆいちゃんは引きつった笑みを浮かべながら11時8分と答えた。


「今からお会計とかして走っても間に合わない…ごめん……」


ゆいちゃんがやらかしたという表情をしながら僕に謝る。


「え…どうしよう…歩いて帰れるかな…」


一応、アパートまでの徒歩での時間を調べたら1時間以上かかるようだった。


「その…時間確認してなかった私のせいだし、よかったら今晩はうちに泊まる?ここら辺、道暗いから1時間以上歩くの危なそうだし…今から歩いて帰らせるのも申し訳ないからさ…明日、大学ないし今日無理して帰らなくても問題はないでしょ?」

「うーん。でも…女の子の下宿先に一人で行くのは…」

「え、りょうちゃんがそれ言う?春香先輩と同居してまゆ先輩の家で2人でお泊まりしてるりょうちゃんが?」


それを言われると何も言えなかった。


「それに、大丈夫でしょ。りょうちゃんが私に手を出す度胸なんてなさそうだし、りょうちゃんは私が嫌がるようなことする人じゃないって私は思ってるからさ…」

「そっか…ありがとう。でも、やっぱり申し訳ないや…」

「いいから、気にしないで!今回は私が悪いからせめてもの罪滅ぼしさせて」

「うーん。じゃあ、一晩だけお世話になろうかな…」

「うん!春香先輩にちゃんと連絡しなよ。あと、私がごめんなさい。って言ってる。って伝えて欲しいな」

「わかった」


僕は春香にLINEをして、終電を逃してしまい、今晩ゆいちゃんの部屋に泊めてもらうことと、ゆいちゃんが春香に謝っていることを伝えた。


数分後…春香は少しだけ拗ねた感じでわかったと返信をしてきた。明日、ちゃんとご機嫌取りしないとな……


春香にLINEを返した時に、まゆ先輩からLINEが来ていたことにも気づいた。バイトのことだろう。内容を確認すると今度面接をしてくれるみたいだから空いてる日を教えてほしいとのことだ。僕はまゆ先輩にありがとう。と返事をして空いている日を伝える。


一通りLINEの返信をした後、僕とゆいちゃんはカラオケを出てゆいちゃんの部屋に向かうのだった。





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