第3話
『新入生の入場です』
こうして、この生徒会最後の仕事が始まった――。
しかし、生徒会最後の仕事とは言っったものの、本当に大変のなのは生徒会長である恋だけである。
新入生が来るからと言って、在校生である俺たちがその場にいる事はない。担任になる先生や他の先生。後は来賓の人や新入生の親くらいだろうか。
在校生で出られるのは、せいぜい校歌斉唱の合唱部くらいだろう。
「最初の頃は違って緊張のあまり言葉につまる……って事もないみたいね」
「まぁ、慣れたんだろ」
「俺たちの主な仕事は会場の準備と後片付けぐらいッスね」
「まぁ、体育館を使う部活の人たちも手伝ってくれるからすぐに終わりそうだけどな」
「あら、それは困るわね」
「何か予定でもあるのか?」
「ふふふ。私には特にないけど、あなたは学校にたくさんの人がいるのはイヤなんじゃない?」
「……どういう意味だ」
「あら、言わなくても分かると思っていたわ」
「…………」
黒井の言葉に、俺は思わず上木の方を見た。
どうやら上木も俺が何を言いたいのか分かったのか、すぐに「違うッス!」と言わんばかりに手を全力で左右に振って否定した。
まぁ、多分違うだろうな……とは思っていた。ただ単純に、俺が分かりやすくて、黒井の勘が鋭すぎるだけなのだ。
「はぁ。全く」
「ため息をつかれる様な事を言ったつもりもないけれど?」
「ただ、ため息をつきたいだけだ」
「ふーん、そうなの」
「まっ、まぁ。黒井先輩」
「あら、別に冷やかしじゃないわよ? 私としても、全く知らない後輩よりはマシって思っているから」
マシ……か。
でもまぁ、コレが多分。黒井の中では結構な褒め言葉のつもりなのだろう。まぁ、コレが黒井の素だと知っている人でなければ誤解されそうだが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……」
「あっ、あれ? 上木君とマリナ先輩は……」
「用事があるから先に帰ったぞ」
「えっ、あっ……そうなんだ」
入学式も無事に終わり、後片付けも早く部活を始めたい人たちのおかげですぐに終わった。
恋は先生に呼ばれていたから、俺たちより少し遅れて戻って来た。
しかし、まさかついさっきまで一緒にいたにも関わらず、サッサと帰ってしまうとは思っていなかったようだ。
まぁ、ただそれは二人なりの気遣いで、黒井にいたっては「一つ貸しね」とまで言われてしまった。
果たして何をお願いされるのやら……。それを考えると、今から怖い。だが、今の問題はそこではない。
「じゃあ、私たちも早く帰らないと……」
そう言って、恋はいつも作業をしている机の上に置いてあったカバンに手を伸ばした。
「……恋」
「ん? 何?」
恋は何も気にせず振り返ったのだが……ここで俺はちょっとした失敗をしてしまった。
「……えっ」
あまり大きな声で言いたくなかった……というのもあるが、聞き間違いをされたくない……という気持ちもあり、俺は恋に近づき過ぎてしまった。
それこそ、手を伸ばせば抱きしめられるくらいの距離だ。
「……」
「……」
恋が驚くのはもちろんだが、俺もそこまで近づくつもりがなかったから、驚いていた。そんな中で、お互いの沈黙が続く。
――さて、ここからどうするべきだろうか。
もちろん、ここで「悪い」と一言だけ言って離れるのがいつもの俺で、普通の対応だと思う。
しかし…………。
「えっ、
「……きだ」
「え」
「好きだ。恋、俺と……つっ、付き合ってくれ」
「……ウソ」
「ウソじゃない。ずっと……言いたかった」
ただ……断られるのが怖かった。それだけだ。
「……」
俺が言いたい事は言えた。後は、恋の答えだけだ。もしかしたら断られるかも知れない。いや「ちょっと考えさせて」と言われるかも知れない。
でも……その時の俺にそんな事を考えている余裕はなかった。
「……うれしい」
そう言って恋は俺にほほえみかけ、俺が何かを言う前に俺に抱きついた。
「うわっ! おい」
「ははは」
子供のような明るく無邪気な笑顔――。
恋はいつも明るかった。でも、この笑顔を見たのは久しぶりで……俺もうれしくなって、思わず恋を抱き上げてその場で一回転してしまった。
「あらあら、何やら楽しそうね」
「っ!」
「げっ!」
そんな俺たちの雰囲気をぶちこわすように黒井が現れた。
「うぅ、先輩すみません」
上木は必死に止めていたらしいが、どうやら上木の力だけでは黒井を止めるには役不足だったようだ。
「うふふ、そんなに驚かなくても良いじゃない。むしろ、私としてはいつくっつくのかな? って思っていたくらいだから」
黒井の暴露に、恋は顔を真っ赤にしていた。
「……? 先輩、どうしたんスか?」
「いっ、いや。なんでもない」
そんな恥ずかしがっている恋の姿が『カワイイ』と思ってしまった。どうやら俺自身が思っている以上に、俺は恋の事が好きらしい……と感じた。
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