第3話
「……そうだね。ありがとう」
「え」
なぜそこでお礼が出てくるのだろうか。
「ちゃんと考えてくれて、普通ならそんな事ちゃんと考えないだろうなと思ってさ」
「……俺も、先輩方にはお世話になりましたし……」
剣聖先輩と俺が会ったのは、生徒会選挙が終わったばかりの事だった。
しかし、そもそも会った事すらなかった剣聖先輩が最初、なぜ俺を会計に誘ってきたのか……全く分からなかった。
ただ、先輩は当時の俺に対し「君。なんだか、やりたい事は決まっているのにそれに対してどうすればいいのか分からなくて困っている様に見えたからさ」と言った。
確かに、この時の俺は「どうしたら恋と『つながり』を持てるだろうか」と考えていた。
でも、それを俺は誰かに言った事はない。
だから、剣聖先輩からこの言葉を聞いた時はすごく驚いた。まさか、気がつく人がいるなんて思いもしなかったからだ。
それに、剣聖先輩には恋の生徒会選挙でもお世話になっている。そのことを考えると、何かしらの形で恩返しをしたいと考えても不思議ではないだろう。
「そっか。じゃあ、また来ることにするよ」
「そんなに何度も来られなくても……」
「ははは、ボクが来たくて来ているんだよ。それに、卒業式が終わったら引っ越しとかでバタバタするだろうから」
「そうでした。先輩は県外に行かれるんでしたね」
なるほど、一人暮らしのための準備か。それならばそれなりの時間がかかりさおうだ。
「そうだけど、通うに大学の近くにどうやら別荘があるらしいからそこに引っ越す事になりそうだけど」
「…………」
さすがお金持ち。俺にはそもそもその『別荘』という感覚がよく分からない。しかし『別荘』ならば、そこに自分の荷物くらいありそうだ。
「実は、そこに家具とかの必要最小限のモノはあるけど、日用品はない。だから、それらの買い出しはしないといけないんだ」
「そうなんですか」
剣聖先輩の家にはどうやら黒井の家のようにメイドや執事がいるにはいるらしい。
しかし、その人たちはあまりにも大きすぎる家の掃除などをメインにしてもらい、極力自分の出来る事は自分でするようにしているらしい。
「ボクの父さんたちがあそこまでの大きさにしたワケじゃないからね」
「つまり、それよりも前に家自体は建っていた……というワケですか」
「そうそう。古くなったところは修理してね」
「なるほど……」
そんな会話をしながら生徒会室にカギをかけ、途中まで一緒に行くことにした。そして、先輩は最初の目的の通り「後輩の様子を見にいく」ため、途中で別れたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ」
「え」
次の日。つい、いつもと同じ時間に来てしまった俺は、これまた『つい』で来てしまった恋と『偶然』玄関で会った。
「……というワケなのだが」
「そう……ですね」
そこで俺は『昨日、剣聖先輩に会った事』と『誠一郎先輩の告白の事』について恋に聞いてみた。
「さすがに……私一人では決められない」
「……そうなるよな」
「はい、黒井先輩と上木君にも聞いてみないと……。それに、先生たちが入ってこない様にしないといけないし」
「先生が生徒会室に入ってくることはほとんどないとはいえ、そこら辺も考えないといけないな」
そういえば、その可能性を忘れていた。
「……こうして考えてみると、結構大変だね。告白って」
「そうだな」
ただでさえ、口に出すの事が難しい告白の言葉。それなのにも関わらず、人には見られたくない。見知らぬ人以上に知り合いや同じ学校の人ならもっとイヤだ……という自分の気持ち。
それらの複雑な状況を全てクリアしていたとしても、告白は難しい……。
そんな中、告白を決意した誠一郎先輩を本当にすごいと思った。まだ場所すら決まっていないが……。
でも、あの人の事だ。たとえ生徒会室が使えなくても、告白は確実にするだろう。
そう言い切れるほど、誠一郎先輩の『ガンコ』とも言える『決意の固さ』はよく知っていた。
こうして改めて考えると、果たして「俺は告白する事が出来るのだろうか」という気持ちになってしまう。
『はぁ……』
「え?」
「ん?」
そんな時になんとなく漏れてしまったため息が、なぜか恋と重なり、俺たちはどちらからとは言わずに、思わず顔を見合わせた。
「……」
「……」
多分、お互い「なんでため息をついたんだろう?」とは思っていたと思う。ただ、あまりにもタイミングがピッタリだった事に、俺たちはどちらからとも言わずに笑ってしまったのだった。
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