第4話
「はぁ……」
しかし、上木が上手く言ってくれても、元々俺と恋は違う学年である。
それはつまり『生徒会以外で顔を会わせる』という事自体あまりないという事を現しているワケで……。
「おはようございまッス。先輩」
「ああ、おはよう。上木」
少し前のぎこちなさはなくなったモノの、やはりなかなか会話をするきっかけがなかった。
「…………」
「どうした、何か俺の顔についているか?」
偶然玄関先で出会った上木だったが、なぜか視線は俺の首元にある。
「いや、先輩がマフラーを付けているのにも見慣れたと言いますか」
「ん? ああ」
「確か、雪かきをした時はしていなかったッスよね?」
「……そうだな」
このマフラー自体はクリスマスパーティーに恋からもらっていたモノだ。しかし、あの雪かきには恋も参加していた。
本人を目の前にわざわざつける……という事にはずかしさを感じてしまった。
そこで俺は、新学期が始まるタイミングで「新学期が始まって寒くなってきたから買いましたよ」という感じでこのマフラーを付け始めたのだ。
新学期の初日の朝は生徒会の活動がなかった事もありがたかった。
「まぁ、今年は特に冷えるからな。それに、マフラーの方がはるタイプのカイロを付けるよりも安くすむ」
「なるほど」
「なっ、なんだ」
「いえいえ、お気になさらず? 俺は俺で納得しておくんで」
よくは分からないが、上木は何やらニヤニヤした表情だった。
「そういえば、早いモノで明後日はバレンタインデーッスね」
「……」
「なんスか」
「いや、まさか上木からそんな『イベント』の話が出て来るとは思わなくてな」
「ひどいッスね。小さい頃は色々大変だったんスよ?」
「小さい頃か……たとえば……なんだ?」
「そうッスね。大体多いのが『
「? 呼び出しくらい自分ですればいいだろ」
俺がそう言うと、上木は「分かってないッスねー」とため息交じりに首を横に何度か振った。
「考えてもみてくださいよ。女子が男子を呼び出す……しかも、バレンタインデーとなれば、その呼び出した女子が告白するって言っている様なモノじゃないッスか」
「?? だが、上木が『その女子が呼んでいる』と言った時点で、そういう事だと分からないか?」
上木もその事に気がついた様だが「まぁ、後は……心の準備ってヤツじゃないッスか?」と言った。
それは……分かる。たとえ『告白をするっ!』と決めていても、心の準備は必要だ。
――なるほど、そのための時間かせぎというワケか。
「ちょっと違う気がするんスけど……それに、俺の場合。面倒事にまきこまれたくない! なんていう考えがあるんで、基本的に名前は言っていないんス。それに、こういった事はあまり大きな声では言わない事にしているんで」
「……なるほどな」
そう言いつつも、上木としては「いやだなぁ」と思ったいるに違いないだろう。本人としては、出来る限りウワサや、さわぎは起こしたくない。
でも、断ったら断ったで後で色々言われて面倒な事になると言うのが分かっていた。だから、仕方がなく引き受けていたのだろう。
「まぁ、中学の頃しばらくはクラスにそもそもいなかったんで、特に何もないはずッスけど」
「……そうかもな」
確かに、その可能性は高いな……と、思った。
「後あるとすれば、俺自身はクラス女子からってチョコレートのお菓子を分けてもらった事があるくらいッスね」
「それは……あれか? クラスの男子全員に分けるっていう」
俺がそう聞くと、上木は「そう、それッス」と答えた。
「その頃はもうほとんどクラスに顔を出してなかったんスけど、どこからか俺が保健室にいるって知った女子が持って来てくれたんス」
「へぇ、良かったじゃないか」
ここで、俺は生徒会室の鍵を借りに職員室へと入って行った。
上木は「じゃあ、荷物は持っていっておくッス」と言って先に生徒会室へと向かった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うぅ……寒い。おはようございまーす」
「おはよう、恋ちゃん」
「あっ、おっす。二本木」
「おはようございます。二本木」
その日、恋はいつもより少し遅れてきた。
「あら? 恋ちゃん……手袋どうしたの?」
黒井はすぐに恋がいつもと違うところに気が付いた。
「えっ……と、実は片方なくしてしまったみたいで」
恋は悲しそうに視線を下に向けた。よっぽどその手袋を大事にしていたのか、肩をガックリと落としている。
「あらあら」
「昨日、家に帰ったらもうなくて……いつもと同じように上着の両側のポケットに片手ずつ入れたんですけど」
「……もしかしたら、上着を着た時に落としてしまったかも知れませんね」
「ああ、そういう事ってあるッスね。ちなみにどこでその上着、着たんスか?」
上木が尋ねると……恋は「外で着た」と答えた。なんでも、学校内はストーブがあり、かなり熱かったらしい。
そして、外に出てみたら……かなり寒かったらしく、仕方なく外で上着を着た様だ。
「そうなると……外で落とした可能性がありますね。一応、学校内にはなるので落とし物として届いている可能性もありますが……」
正直、その可能性は低いだろう。
「市ノ瀬先輩。黒井先輩、上木もありがとう。心配してくれて」
「いや、大事なモノなのでしょう?」
「そうそう」
「まぁ、もうちょっとキチンと管理しておくべきだったッスね」
「はい、申し訳ございません。これ以上はお力になれそうにないです」
「いえいえ、ありがとうございます。そこまで考えていただいて……でも、大丈夫です」
そう言って恋は元気になり、いつもの様に仕事にとりかかり始めた。
「…………」
恋が元気になってよかった……と思いながらも「大丈夫」と言った時の表情が気になった。
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