第2章 想定外なパーティー

第1話


「うっ……うーん」


 俺。市ノいちのせ永一えいいちは、悩んでいた。


 ――クリスマスプレゼントって……いや、そもそも『プレゼント』は何を買うモノなのだ……と。


 そもそも、俺には兄も弟も……姉も妹もいない。いわゆる『一人っ子』である。


 しかも、家庭の経済的事情からクリスマスはおろか、自分の誕生日もまともに両親から祝われたのは保育園までの話である。


 俺自身も周りの人たちの話や商店街の飾りでようやく『イベント』に気がつくくらいなのだが、こんな日ですら『普通の日』と変わらない。


 だから、いつもと同じように過ごして気がついたら過ぎていた……なんて事はここ最近、俺の中ではお決まりになりつつある。


 そして、今回。突然引き起こされた『クリスマスイベント』つまり、クリスマスパーティー。


 その中には当然の様に『プレゼント交換』という重大なイベントが盛り込まれていた。


 俺はもちろん、恋にプレゼントをもらって欲しいし、もらいたいが、こういった場合は当然の様に『運』が絡んでくる。


 しかも、今回このクリスマスパーティーに来るのは生徒会のメンバーだ。つまり、上木もいるから女子二人に当たる可能性があるとは限らない。


 だが、可能性の高さでいれば女子にプレゼントがいく方が高い。だから、こうして女子が好きそうな雑貨店を見て回っているのだが……。


「……サッパリ分からん」


 見た限りアクセサリーなども当然ある。


 だが、もしこれが上木にいった時の事を考えると……この選択肢はない。そうなれば、もっと別のモノになるのだが……。


「……それにしても、意外ッスね」

「……何がだ」


「小さい頃から二本木とは知り合いだったんスよね。だったら、先輩のご両親が忙しくても二本木とパーティーとかしていたのかと勝手に思っていました」

「……去年は、ちょうど恋が入試前だったからな」


 確かに、去年は恋の高校入試があった。


 しかし、クリスマスパーティーにお邪魔をしていたのも、実は俺が中学に入る前までの話である。


「ああ、そッスね」


 何気ない言葉を発しながらも、上木は俺の言葉の調子から「あっ、コレは話を広げない方がいい」と察した様だ。


「それで、決まったんスか。プレゼント」

「フッ、愚問だな」


 そう言いながら、俺はキメ顔をした。


「じゃあサッサと会計しに行けばいいじゃないスか」

「いや、念のため……念のために聞いてくれるか?」


 決め顔をしておきながら、俺は必死に上木を引き留めた。


「いや、何のためのキメ顔なんスか……それに、珍しく自信がないみたいッスね」

「ぐっ。俺だって『ダサい』と言われるのは……さすがに避ける」


 そう、俺は『格好つけ』ではあるが、それはあくまで『見せかけ』である。


 だから、俺はこの『見せかけの自分』を守るために、傷つく事を恐れる。そのせいか、昔から心は『ガラス』のままだ。


 それだけでなく失敗する事も恐れていたから、基本的に勝負事に『本気』を出さない。


 でももし、小さい頃に何か大きな『失敗』をしていれば、この『ガラスの心』の強度も多少は強くなっていただろう。


 しかし、俺は運動も普通レベルで出来、勉強も当然の様に出来る。


 これは自慢でもなく、事実であり、それは年齢を重ねる内にこの『見せかけの自分』は強くなり、自分の『ガラスの心』はどんどん弱くなる一方なのである。


「まぁ、気持ちは分かりますよ。俺だって『ダサい』って言われるのは嫌ですし、ましてやそれが好きな相手からなんて……それこそ立ち直れそうにないです」


 俺は、ここで上木の触れて欲しくない話題に気が付く。


「すっ、すまん。そこまで気を落とさせるつもりはなかったんだが……」


 上木のあまりの気持ちの落ち込みように、俺は慌てた。


「ふふふ、いいんすよ。俺にはそもそもそんな相手はいませんし、ただそんな相手じゃなくても普通にへこみます」

「そっ……そうか」


 どうやら思わぬところが上木の気にしているところだった様だ。


「はい、俺もごくごく普通の男子高校生なので。まぁ、そもそも『クリスマスパーティー』を二本木が提案しなければ、こんな事にもならなかったとは思いますが……」

「……そうだな」


 そう、そもそもこの『クリスマスパーティー』を提案してきたのは恋だったのだ。

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