東堂兄弟の探偵録 出雲御子編〜第四話 モデル蘭のアリア〜

涼森巳王(東堂薫)

プロローグ

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「手を伸ばせ! 蘭!」


 猛は叫んだ。

 精いっぱい手をさしのばす。

 でも、遠い。あと少しで届かない。


「猛さん……」


 蘭の目に恐怖が浮かぶ。

 目の前に暗黒のブラックホールが迫っている。

 もし、このまま落ちてしまえば、二度と蘭に会えない。蘭は巨大ブラックホールの超重力にまっさかさま。どこか遠い見知らぬ銀河になげだされ、ひとりぼっちでさまようことになる。


 残酷なのは、それでも蘭が死なないだろうということ。


 蘭は不死。

 どんなことがあっても死なない。

 ふつうの人間なら瞬時に溶けくずれるような、すさまじい環境のなかだろうと。


 永劫の苦痛のなかを一人でさすらうのか? 蘭が? おれの蘭が……。

 いやだ。そんなのはイヤだ。

 それくらいなら、おれが死ぬほうがいい。


 方法はまだある。

 猛は最後の賭けに出ることにした。


 ただ、問題が一つある。

 今ここにが二人いるということだ。


(どっちがほんとの蘭なんだ?)


 最悪の二者択一。

 まちがえることは、絶対にゆるされない……。

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