第56話 【精霊騎士】、花火を見る。

「ミスティよ、精霊の存在を感じられるとは、まことなのか!?」


「はい。時々、声も聞こえます。それがどうかしましたでしょうか?」

「魔王さま、なにをそんなに焦ってるんだ?」


 ミスティと俺は、よくわからないと言った感じで、顔を見あわせる。

 すると、


「なにを言うか! だって考えても見るのじゃ! 精霊との交感能力というわらわの数少ないアドバンテージが、今まさに、失われつつあるのじゃぞ……!?」


 幼女魔王さまは、ブルブルと小刻みに震えていた。


「パーティの戦力が強化されるのは、いいことだろ?」


 そのうち声を聞くだけじゃなくて、精霊を使えるようになるかもしれないし。


「それとこれとは話が別なのじゃ! ただでさえ【勇者パーティ】のお荷物なわらわが、ついに最後のアドバンテージを失うのじゃぞ!? いかん、言葉にすると本当にまずい気がしてきたのじゃ……」


 幼女魔王さまがふらりと意識を失いそうになって、


「魔王さま、お気を確かに!」

 すかさずミスティが支えに入った。


「お、このパターンは初めてだな」

 ミスティが幼女魔王さまを失神させたのは初めてだったと思う。


 ……自作自演ともいう。


 俺たちが、いつもとちょっとだけ違った、でもやっぱりいつもと同じなやり取りをしていると――、


 ドン!

 ヒュルヒュルヒュルヒュル~~、パァン!


 大輪の花火が夜空に打ちあがった。


「あ、花火の打ち上げがはじまったみたいですね」

「おっともうそんな時間か」

「盛り上がって話し込んじゃいましたからね」


 そんな会話をする間にも、2発目、3発目、4発目と次々と花火が打ち上げられていく。


「はぁ……すごく綺麗です……」

 かわいい物やきれいな物には目がないミスティが、うっとりと花火を見つめる。


「まったくだ。綺麗なもんだな」

 俺もそれに完全に同意だった――んだけど、


「まったくハルトはまだまだじゃのぅ」

 ショックから立ち直った幼女魔王さまが、小さな声でひそひそ話で言ってきた。


「こういう時はの、『お前の方がもっと綺麗だぜ』と言うのが、女子的には胸キュンなのじゃよ」


「ふむ……」

 幼女魔王さまの言葉はいちいちもっともだった。


 確かに、今は言ってみればデートみたいなものだ。

 であれば女性をエスコートする男性として、その魅力を褒めるのは当然の行動と言えるだろう。


 幼女魔王さまの指摘に心底納得した俺は、ミスティの耳元に顔を寄せると、


「花火も綺麗だけど、ミスティの方がもっと綺麗だよ」

 優しくそっとつぶやいた。


「ふぇっ!? あの、えっと!? その、ハルト様!?」

 ミスティがびつくりしたように、上目づかいで見上げてくる。


「いつものポニーテールも可愛いけど、今日は浴衣ゆかたに合うようにアップに結い上げてるのが、すごくおしゃれで大人っぽいし」


「あ、ありがとうございます……」


 ミスティはそう小さく言うと、完全にうつむいてしまった。

 そしてそのまま黙ってしまう。


 あれ?

 どうしたんだろう?


「なぁ、魔王さま。急にミスティに目をそらされたんだけど。もしかして俺にキザなこと言われて、ちょっと嫌だったのかな? 魔王さまはどう思う?」


 俺は小声で幼女魔王さまに尋ねてみた。

 すると、


「……はぁ」

 幼女魔王さまは何も言わずに、ちょっと呆れたようにため息をついた。


 あれ?

 また俺、なにかやっちゃったのかな……?


「ハルトよ、今度わらわのお気に入りのラブコメを貸すゆえ、熟読しておくように」


「俺はどっちかって言うと、転生系の冒険小説が好きなんだけど」

「熟読しておくように」

「う、うん、わかった……」


 有無を言わさぬ幼女魔王さまの言葉に、俺は得体のしれないプレッシャーを感じてしまい、思わずそう頷いてしまったのだった。

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