第36話 【精霊騎士】、童貞であることを指摘される

「ところでハルトは恋人はおらぬのか?」


「ああ俺? いないよ」


「おや意外じゃのぅ」


「意外って言うか今21歳で、6年前に【勇者パーティ】に入った時が15歳だろ? そこから5年間はずっと戦い漬けで、その後の1年は屋敷買ったり使用人集めたりで結構忙しかったから、そんなこと考える余裕もなかったよ」


「では許嫁いいなずけはおるのか?」


「あはは、それはもっとないよ。だって許嫁って貴族が自分の子供にやるやつだろ? そもそも俺は半年前まで平民だったからな。ないない」


 平民に許嫁なんてものは普通はいない、必要ないからだ。

 許嫁が必要なのは、家と家との関係を重視する貴族や王族くらいのものだろう。


「つまりハルトは完全フリーというわけじゃな?」


「一応見合いの話くらいは来てたけどな」


「ハルト様がお見合いですか!? そ、それで、そのお話はどうされたのでしょうか!?」


 なぜかここでミスティが激しく反応した。

 背筋をピンと伸ばして緊張の面持ちで俺を見つめてくる。


 ああ、そうか。

 察しのよい俺はすぐに理由に思い至った。


 さっきまでミスティ自身の見合いの話をしていたから、他人の見合い事情がどんなものか気になるんだな。


「話を持ってきてくれた人には申し訳なかったけど全部断ったよ。なんかこうビビっとこなかったというか、一度も会ったことない相手と結婚前提のお付きあいをする気には、なかなかなれなかったっていうか」


「そうですよね! それすごく分かります! でも良かったぁ……」


 なぜかミスティがホッとしていた。


 ふむ、察するに自分だけが見合いを断ったんじゃない、身近な俺も実は見合いお断り仲間だったと知って安心したのだろう。

 ――などといつにも増して、俺が察し良くミスティの内心を思いやっていると、


「のうハルトよ。もしかしてハルトは女性には興味ない感じなのじゃ?」


 いきなり幼女魔王さまが変なことを聞いてきた。


「え? いやそんなことは――」


「なに、隠す必要はないのじゃよ。わらわときたら、男同士のラブもわりかしイケるほうじゃからの。変に隠す必要はないのじゃぞ?」


「いや普通に女の子の方が好きだよ。単にそれどころじゃなかったってだけで」


「ふむ、先ほどからの話ぶりを聞いておると、もしやハルト、その年でまだ童貞なのかえ?」

「え? ハルト様はその……童貞でいらっしゃるのですか?」


 幼女魔王さまの指摘にミスティが驚いた顔を見せる。


「あ、うん、そうだね、童貞だね……」


 分かってるよ。

 2人とも、成人した男が恋人もいないどころか女も知らないなんてどうなのって言いたいんだろ?


「意外です。ハルト様ほどの殿方であればそれこそ女性はより取り見取りだったのではありませんか? 【北の魔王】討伐で多大な貢献をし終戦に一役買ったという実績も申し分ないですし」


「大きな声では言えんが、帝国にも一時ひとときの出会いの場を供するお店はなくはないじゃろ?」


「その、初めては好き合ってる同士がいいかな、ってごにょごにょ……」


「ふむ、ハルトは意外とピュアなのじゃの」

 幼女魔王さまがなにやらふんふんうなずき、


「なんて美しい心を持った殿方なのでしょう……! 感動しました……!」

 ミスティはなぜかいたく感心していた。


「まぁ別にいいだろ、それが俺の人生設計なんだよ。そういう魔王さまこそ浮いた話の一つもないのかよ?」


わらわは特にないのぅ」


「でも魔王さまが結婚するとなると生まれる子供は当然、次の魔王だよな? 世継ぎの話とか出ないのか? 魔王さまに兄妹や姉妹はいなかったよな?」


わらわは一人っ子じゃが、何代か前に臣籍降下――王族を離れ臣下に下った遠縁の貴族がいくらかおるからの。その辺を引っ張り出せば血は繋がるので問題ないのじゃ」


「そんなものなのか」


「立憲君主制の王なんぞ大した権限はないからの、平時はそんなものじゃよ。むしろ臣下に下って元王族の肩書であれこれやる方が、よほど権力を持てるというものじゃ」


「そっかぁ……やっぱりリッケン・クンシュセーの王様は大変だなぁ」


 今日も今日とて、幼女魔王さまの担う重責の一端に触れて心底感心させられた俺だった。

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