第47話 顕現、原初の破壊精霊【シ・ヴァ】

は黒き刃にて永劫えいごうの眠りにつく、いととうとき始まりの一柱ひとはしら、原初の破壊精霊【シ・ヴァ】よ――」


 俺の【精霊詠唱】を受けて【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】がドクンと大きく一度脈を打った。


 直後、黒の刃から禍々まがまがしい漆黒のオーラが立ち昇り始める。


「な、なに――っ!?」


 【勇者】も尋常ならざる気配を感じ取ったのだろう、即座に【聖剣】を構えなおした。


 しかしその間にも俺の詠唱は続いてゆく。


「悠久の眠りを妨げし我が愚かなる行いに、どうか御心みこころの片隅を傾けたまえ。始まりの精霊。全にして一、一にして全。今ここに顕現せよ――! 原初の精霊王、すべてを無にす破壊精霊【シ・ヴァ】よ――!」


 ――…………――


 力ある言葉がの名を告げたと同時に、【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】から立ち昇っていた漆黒のオーラが俺の身体を覆い始めた――!


「な、なんだその力は!? なんなんだよ、ほんとなんなんだよ!」


「【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】に封印されていた原初の破壊精霊【シ・ヴァ】を顕現させた。全てを灰燼かいじんに帰す最強の破壊精霊をな。お前はもう終わりだ【勇者】」


「原初の破壊精霊【シ・ヴァ】だと? 【セフィロト】だけでなく、まだ奥の手を隠していたのか! ――だが調子に乗るなよ。君がそう来るというのなら、僕も見せてやろうじゃないか、究極奥義を――! 天使顕現【セラフィム・コール】フルバースト!」


 【勇者】の言葉と共に、【聖剣】から怒涛の如く白銀のオーラが立ち昇り始めた。


 それは顕現した【シ・ヴァ】の力にも匹敵するまさに最強の力だった。


「さぁハルト、いい加減に白黒はっきりつけようじゃないか」


「俺が黒で、お前が白か。なかなか上手いこと言うな」


「その余裕がどこまで続くかな――ハァッ!」

 その言葉と共に天使の力を全力開放した【勇者】が神速の踏み込みでもって斬り込んでくる――!


 それを俺は、


「おおおぉぉっっ!」

 原初の破壊精霊【シ・ヴァ】の力でもって真正面から受けて立った。


 キンキンキンキンキンキンキンキン!


 白と黒が――。

 天使と精霊が――。

 【聖剣】と【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】が――。


 世界最強を誇る双の極たる力が、互いに互いをねじ伏せんとぶつかり合い、嵐のように荒れ狂う――!


「オラァ――ッ!」

「おおぉ――ッ!」


 戦いはどちらが上というのは全くない、完全に互角だった。

 互いに一歩も引かず、腹の底からの全力全開をぶつけ合い、放ち合う。


「ハァァァァァッッ!!」

「オオオォォォッッ!!」


 キンキンキンキンキンキンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 打ち合うごとにさらに激しさと苛烈さを増してゆく【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】と【聖剣】。


 しかし、お互いに人の身に余る力を使い続けているのだ。

 その消耗はどこまでも激しいものだった。


「くっ、この――!」

 【勇者】が負荷による苦痛を気迫でかみ殺して【聖剣】を繰り出し、


「負けるものか――!」

 俺も負けじと必死に歯を食いしばって【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】で斬り返す――!


 戦闘力は完全に互角。

 ならばあとは、どちらの想いが強いかが勝敗を決める――!


「僕は最強最高の【勇者】になって、望む全てを手に入れる!」


 瞬間、天使の力が膨大に膨れ上がるとともに、【勇者】が渾身の上段斬りを叩き込んでくる――!


 それを俺は、


「どこまでも一人よがりのお前の妄想に、愛され魔王さまとのスローライフを願う俺の想いが、負けるわけけないだろうが――!」


 ここが勝負どころとばかりに同じく渾身の上段斬りを叩き込んだ――!


 ガキンッ!


  勝負はあっけないほど一瞬で決し――、激しい金属音と共に【聖剣】が【勇者】の手を離れて宙を舞った。


「ばか、な――。僕は最強の【勇者】なのに――」


 俺の前にはあっけにとられたように目を見開いた【勇者】の顔があって――。


 俺はそれを見てほんのわずか浮かんだ同情を捨て去ると――、


「この勝負、俺の勝ちだ――」


 一刀のもとに【勇者】を斬り伏せたのだった。

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