レアジョブ【精霊騎士】の俺、突然【勇者パーティ】を追放されたので【へっぽこ幼女魔王さま】とスローライフします。

第34話 【精霊騎士】、幼児を【イフリート】で泣かせてしまう

　今日は幼女魔王さまがミスティを連れて幼年向けの児童養護施設を視察するというので、俺もそれについてきていた。

「子供は国の宝じゃからの。様々な事情で住む場所を失った子供の面倒を見る施設に、限られた権限の内ではあるが王家が支援しておるのじゃよ」

　との事だった。

　時々忘れそうになるけど、こう見えて幼女魔王さまは【南部魔国】の名目上の国家元首であり【全国民の象徴】なのだ。

　こういった視察は重要な公務の一つなのだった。

　しかも視察と言っても形だけパッと見て回るだけではない。

　あれこれ見て回った幼女魔王さまはミスティと共に実際に子供たちの中に入っていくと、なんと市井の子供たちと触れ合い始めたのだ。

「ミスティせんせー、お菓子とられたー」

「ほら、仲良く分けないとだーめ。みんなに持ってきたお菓子なんだから、みんなで平等にわけわけしないとでしょ？」

「はーい！」

「ミスティせんせー、きょーもごほんよんでー」

「もうちょっとしたら始めましょうね。今日は新しい絵本も持ってきたんだよ？」

「はーい！」

　ミスティは男女問わず小さな子供たちに囲まれて大人気だった。

　次から次へと声をかけられては明るい笑顔を振りまいている。

「まおーさま、おえかきしよー！」

「よいぞ、妾（わらわ）の巧みの絵筆さばきをみせつけてやるのじゃ」

「まおーさま、これなにー？　おばけ？」

「なんとっ！？　よく見よ、これは子供と触れ合うミスティじゃ。ほれ、髪が金色でポニーテールじゃろ？」

「……まおーさま、へたくそー」

「！？」

　幼女魔王さまも同じく大人気だった――こっちは主に友達感覚で。

　子供たちと一緒にお絵かきしてお菓子を食べている姿を見ると、まだ小さいお姉さんが年の近い妹や弟の面倒を見ているみたいで微笑ましいまであるな。

　ちなみに俺は開始早々に戦力外通告を受けたため、後ろで静かに見守っていた。

　子供たちが喜ぶかと思って【イフリート】を顕現させて必殺の【相手は死ぬ（ヘル・フレイム）】を天空に向けてド派手に放ったら、泣いちゃう子が続出したのだ。

「炎の魔神が使う最高位精霊術だぞ？　喜ぶと思ったんだけどなぁ……おかしいなぁ……」

　しばらくして子供たちとの触れ合いを終えた幼女魔王さまとミスティが戻ってきて、俺たちは今、職員の休憩室で出されたお茶を飲んでいた。

「二人ともご苦労さん」

「なに、子供と遊ぶだけじゃからの。大したことはないのじゃ」

「いやそれがすごいよ。ただお金を出すだけじゃなく、実際に心と心、ハート・トゥ・ハートで子供たちと触れ合おうとする……なんて素晴らしいことなんだろう。俺は心の底から感動したよ」

「ハルトはいつも素直に感想をいいよるの。妾（わらわ）も褒められて嬉しいのじゃよ」

「ハルト様もお疲れさまでした。でもちょっとだけ張り切りすぎちゃいましたね」

「あれは本当に悪かった、いきなり泣いてる子を量産しちまって……ミスティにも面倒をかけたよ……」

「いえいえそんな。ハルト様のお役に立てる貴重なチャンスをいただけましたので」

「ミスティは子供にも好かれるし、ほんと何でもできてすごいよな」

「昔から子供は好きなんです」

「ふむ、ならばハルトの嫁になぞどうじゃ？　今ならまだフリーじゃぞ？」

「よ、嫁！？　ハルト様の！？」

　ミスティが背筋を伸ばしてぴょこんと小さく飛び上がった。

　意外にもこう言うことは言われ慣れていないのか、顔を真っ赤にしながらあたふたしている。

　どうも困っているようだしここは助け舟を出してあげないとな。

「魔王さま、あまりミスティをからかってやるなって。ミスティも魔王さまから言われたら断りづらいだろ？」

「別にからかっているわけではないのじゃが」

「見合い結婚や家同士の結びつき、みたいなのを全部否定するつもりはないけどさ。それでも意にそわない結婚よりは、互いに好き合って結婚した方が幸せになれると思うんだ」

「そうじゃの。妾（わらわ）もそう思うのじゃよ？」

「俺としてはやっぱり、ミスティみたいな素敵な子には好きな人と結婚して幸せになってほしいかな」

「えっと、あの、はい、がんばります……」

　こう言った話は苦手なのだろう、ミスティは顔を真っ赤にしたまま最後消え入るような声で小さくそうつぶやいた。

　本当にミスティは恋バナが苦手のようだ。

　女の子を困らせるのは好きじゃない。

　あまりミスティには恋愛とか結婚の話はしないようにしよう。

　そう心に誓った俺だった。

「時にハルト、お主はよく『にぶちん』と言われることはないかえ？」

「そうか？　割と気が利く方だと自分では思ってたんだけど、そうでもないのかな？」

　むしろ俺は注意深い方だと思うんだけどな？

　激戦続きの【勇者パーティ】で５年も前衛――フロント・アタッカーを務めるには、注意してもしすぎるなんてことはなかったのだ。

「やれやれ、これはどうしようもないのじゃ」

「？？」

　最後は微妙に話がかみ合わないままこの会話は流れてしまい。

　ともあれ俺たちは有意義な視察を終えて児童養護施設を後にしたのだった。