第32話 【精霊騎士】、お約束をしてしまう
ある日のこと。
俺が自室のドアを開けると、なぜかミスティがメイド服の上をはだけて素肌と下着をさらしていたのだった。
ミスティによく似合う、可愛らしいピンクのブラジャーだった。
「えっと……ミスティ?」
「は、ハルト様!?」
見る見るうちに顔を真っ赤にしたミスティは、しかしそのまま固まってしまい――、
「あ、うん、ごめん!」
俺はすぐに謝罪をすると、急いでドアを閉めたのだった。
ドアを閉めてすぐに確認してみたけれど、
「……? えっと、ここは俺の部屋で間違いないよな……? どうしてミスティが俺の部屋で服を脱いでいたんだ?」
不思議な事態を前に、俺がしきりに首をかしげていると、
「ふむ、いわゆる【お約束】というやつじゃの」
いつの間にかやってきていた幼女魔王さまが、なにやら納得顔で満足そうにつぶやいた。
「【お約束】――ってなんだ?」
「【お約束】とは、物語にまるで約束したかのように登場する『よくある展開』のことじゃよ。ヒロインが着替えていたところ、主人公が偶然にドアを開けてそれを見てしまう――というようなイベントは流行りのラノベでもテンプレ中のテンプレなのじゃ」
俺の疑問に対して、幼女魔王さまがなにやら変てこなことを言いだした。
「なぁ魔王さま、一つだけいいかな?」
「なんなのじゃ?」
「お話と現実を一緒くたにしちゃいけないぞ?」
俺は心からの親切心でそう指摘してあげたんだけど、
「それをハルトが言うのかえ!? おとぎ話の
幼女魔王さまはプリプリしてしまった。
「そう言われると確かに……」
おとぎ話を現実に体験しちゃった俺がそれを言うのはどうかなと、自分でも思わなくもない俺だった。
そんな微妙に噛み合ってるのか噛み合ってないのか分からない会話をしていると、ミスティがそそくさと落ち着かない様子で俺の部屋から顔を出した。
さっきのことを引きずっているのだろう、頬はまだ少し赤いままだ。
もちろんメイド服はちゃんと着なおしている。
ミスティは開口一番、
「先ほどは大変申し訳ありませんでした。ハルト様のお部屋を清掃中に、急にブラのホックが外れてしまって……お見苦しいものをお見せてしまい、言葉もございません」
そう言ってミスティは俺に頭を下げたんだけど、
「いや俺の方こそ勝手に入って悪かった。静かだったからさ、てっきりもう掃除が終わったものだとばかり勘違いしちゃって」
「いえいえ、そもそも自室に入ろうとしただけのハルト様はなにも悪くありませんので」
「でもいろいろ見ちゃったのは事実だから」
「いえいえ勝手に見せてしまった私の方が――」
「でも俺も――」
…………
……
「ふむ、最後のこそばゆいほどの譲り合いのやり取りまで、実に【お約束】じゃのぅ。良きかな良きかな」
この一連の【お約束】がよほどツボったのか。
来てからずっと、やたらと満足顔な幼女魔王さまなのだった。
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