第13話 お・も・て・な・し

「な、なんだこの可愛らしさを限界まで振り切ったスイーツは!?」


 幼女魔王さまが頼んだ【チョコ増しわんわんミルフィーユ】。


 一体どんなスイーツなのかと思っていたら、なんとミルフィーユの上にクリームで形作られた可愛らしいわんわんのお人形が乗っていたのである。


「どうじゃ、まっこと可愛いであろう? このクリームわんこを愛でるのがわらわの楽しみの一つなのじゃ」


 まるで宝物を見せびらかすように、満足げに語ってみせる幼女魔王さま。


「でもここまでよくできていると、食べるのがもったいなくなるな……」


「そこはそれ、しっかり愛でた後に愛情とともにパクりなのじゃ」


 幼女魔王さまはそう言うと、わんこの顔をスプーンですくってパクっと口に入れた。

 可愛くて食べるのが可哀そうとか、あまりそう言うことは気にしないタイプなのかな……?


 しかし俺の衝撃はそんなものでは終わらなかった。


 続いて【森のくまさんパフェ】が運ばれてくる。


「パフェの上の方にチョコレートクリームで作られたデフォルメくまさんの可愛い顔が『こんにちは』している……!? なにこれ可愛い!」


「ある日森の中でくまさんに出会ったという設定なのじゃ」


「設定だと!? パフェに設定だと!? なんだその発想! しかもなんというえも言われぬ可愛さ! え、エモい……エモいよこれは!」


 もはや俺は、心の奥で激情がほとばしるのを隠しきれないでいた。


 さらにさらに!


 【ねこにゃーんラテアートカフェ】ときたら、エスプレッソコーヒーの表面にミルクで「猫がにゃーん」している可愛らしい絵が描かれているときたのだ!


「たった一杯のコーヒーから、文化のさざなみが聞こえてくるようだ……!」


 俺は【ゲーゲンパレス】の誇る文化的先進性に、戦慄せんりつを禁じ得なかった。


「これが【ゲーゲンパレス】のおもてなし……すごすぎる!」


 長きに渡る【北の魔王】との戦争で物価統制令が出ていた帝国では、それが解除された今、やっと当たり前の賑わいを取り戻し始めたところだというのに。


 果たしてこの文化的最先端に追いつくことなど可能なのだろうか!?


 そして最後に待っていたのが、ミスティの頼んだ【お絵かきオムライス】だった。


「じゃ、いくね~」


 オムライスを前にそう言ったナナミがおもむろに立ち上がると、ケチャップを構えた。

 そして、


「もえもえ~きゅんっ♪ もえもえ~きゅんっ♪」


 なーんてフレーズを可愛らしく歌いながら、時おり決めポーズ(?)をとったりしてオムライスにケチャップアートを描いていくのである……!


 実にあざといその姿は俺の心を大きく揺さぶるとともに、俺の魂に「もえもえ~きゅんっ♪」という言霊を刻み込んでいったのだった。


「これが、これがメイド喫茶のお・も・て・な・し! すごい! すごすぎるぞ!」


「ハルトが楽しんでくれたようで何よりじゃの」

 感動する俺を見てにっこり笑顔な幼女魔王さまだった。



 その後は4人で雑談をしながら、おのおの注文した軽食を食べてゆく。


 ナナミがパンケーキを食べたそうにしていたので、半分あげると嬉しそうにハグを返してくれた。

 抱き着かれた所から女の子の柔らかさとぬくもりが伝わってくる。


 別に意図したわけじゃなくて向こうからのアクションだから、お触りしたわけではないよな?


「でもほんといいお店だよな……また今度来ようかな……」


 数々のおもてなしの前に、すっかり骨抜きにされてしまった俺だった。



「ところで最近商売はうまくいっておるのかの?」


「いい感じにお客さんは増えてるよー。北の方の戦争が終わってみんな気分も緩んで、財布のひもも緩くなった感じ?」


「ふむ、経済がちゃんと回っておると言うことじゃな。よいことじゃ」


「にゃはは、ナナミはバイトだから難しいことは分かんなーい」


 幼女魔王さまがいろいろ尋ねるたびに、ネコ耳メイドさんのナナミが街の様子など、商売の最前線で肌感覚で感じたことを親しげに話していく。


 幼女魔王さまが憩いの場だけでなく「情報収集もかねる」って言ってたのはこういうことか。

 目安箱っていうのかな、町の人のリアルな声を今まさに吸い上げているのだ。


 しかもため口をきかれているっていうのに、幼女魔王さまは気にした素振りもないのである。

 会話を弾ませる姿は、むしろ楽しそうですらあった。


 これだけ話しやすければ、思ったことを何でも忖度そんたくせずに言ってくれそうだ。


「そうか、国民の象徴ってこういうことなのか……」


 日々こうやって庶民と触れ合って、その声を拾い上げようとしているんだ。


 俺はリッケン・クンシュセーの王がどんな存在なのか、ほんの少しだけ分かったような気がした。


 その後は時々振られる話題に言葉を返しながら、俺はサービスの時間いっぱい楽しく過ごしたのだった。

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