どうやら変態に好かれたようです。

夕日ゆうや

一巻 ~コスプレ変態少女はヒロインになりたい~

出会い

第1話 気になるあのこ

 俺には気になっているがいる。


 ここ、私立桜花おうか高校はごく普通の高校だ。生徒会が特別な権限を持っていたり、校内に悪魔がいたり、ゲーム部などという珍妙な部活もない。

 偏差値も平均的で五十二だ。

 進学する者もいれば、就職する者もいる。

 およそ三十人で一クラス。一学年で四クラスある。

 全校三百六十人近く。さほど大きくもない。


 その三百六十人の中に俺の気になる娘がいる。

 そして、目の前の席にゆったりと腰をかけ、黒板を写している。

 普段はダークブラウンの髪を腰までながしている。ブラックパールのように輝く瞳は、清楚そのもの。肩にかかった髪を振り払い、背中へと流す姿は、凜としており、とても清楚に見える。大きな胸にほっそりとしたくびれ。お尻もぷっくりとしている。

 彼女の名前は、七瀬ななせ春夏はるか

 今現在進行形で、俺は七瀬のことが気になって、授業に全く集中できない。周囲の生徒も、先生の監視をくぐり抜け、その一挙手一投足を逃すまいと、じっと観察している。

 だからこそ、俺はこの気持ちを告げねばならない。

 本当はもっと親しくなってから告げるべきなのかもしれないが、なにせ俺はイケメンだ。

 イケメンであれば、どんなことも許される。

 ※ただし、イケメンに限る――というやつだ。

 少女マンガで学んだから間違いない。

 それに俺の顔も鏡を見る限り、非の打ち所のないイケメンだ。


 終わりのチャイムが鳴り、周囲の目が明らかに七瀬に向く。そして、騒がしくなる。そのほとんどが七瀬の話だ。それ事態はおかしくもない。なぜなら、それほどまでに七瀬の容姿は気になる。


 だから――告げる。

「七瀬。なんでシスター姿なんだ?」

「え?」

 いきなり話しかけられて、驚いたのか、振り向いたその顔は、目を大きく見開いている。

「いや、なんでシスター姿をしているんだ?」

 だってそうだろ? この高校は制服がある。生徒手帳にも登校時・通常授業時には制服を着用すること。

 そう記載されているのだ。

 先生がそれを指摘しなかったのは、宗教上の理由と思われたか。あるいは関わりたくないと思ったか。

 そんなことはどうでも良い。

 事実、七瀬春夏はシスター服を着ているのだ。それも古くからあるシスター服とは違い、スカートの丈が短い。まるでアニメやゲームなどに登場するようなシスター服なのだ。

 黒を基調とし白い襟元や袖口が、シンプルかつ落ち着いた印象を与える。

「さぁ? なんででしょう? 赤羽あかばねくん」

 俺の名前を知っている!? この孤高のイケメンを!?

 当然か。ボッチ……孤高の俺だが、それはみんなが俺を高嶺の花と認識しているに違いない。

「もしかして、家の都合?」

 七瀬は「げへへへ」と笑い、

 うん? 今「げへへへ」と笑ったか?

 まぁいい。とりあえず、悪戯っぽく笑った。

「さぁ? どうでしょう? それよりもこうして話すのは初めてだね。赤羽涼太りょうたくん」

「ああ。初めてだな」

 俺は少し照れくさくなり、視線を外す。

 しかし結局、なんでシスター姿なのかは分からなかったな。

「改めて、よろしく!」

 満面の笑みで、白い歯(ホワイトニング治療済み)を見せる。

 これで落ちない女の子はいないだろう。

 七瀬は少し驚いた顔をし、綻ばせる。


「気持ち悪い……」

「っ!?」

 まるで、腹部を殴られたような衝撃を感じ、そのまま机に突っ伏す。

 誰か、俺に回復魔法をかけてくれ……。

 なぜだ? なぜ俺が『気持ち悪い』などと言われなければならないのだ。

 成績優秀。容姿端麗。スポーツ万能の俺が……。

 およそ一ヶ月前――四月の自己紹介でも失敗はしていない。つまり、第一印象は悪くないはずだ。


『俺はすめらぎ中学校から来た赤羽涼太だ。なれ合うつもりはない。なにせ、俺はこの世界を統べる者だからな!』


 そう高らかに宣言をした。あれはイケメンにのみ、許される行為だ。普通の生徒がやったんじゃ、ただのギャグになってしまう。

 しかし、俺のようなイケメンが宣言すれば(きゃー! かっこいい!)となる。

 そんなのは証明するまでもない。事理明白じりめいはくだ。

 その俺が『気持ち悪い』……だと。


 ああ。そうか。

 七瀬は人を見る目がないんだな。

 ククク。

 なら仕方ないな。

 この俺の魅力に気がつかないなんてバカな奴だ。

「ふん。その内、お前も気がつくだろう! 俺の魅力に!」


 赤羽涼太は、高らかにそう宣言したが、七瀬はスマホをいじり、全く聞いてなかった。

「あとで後悔しても知らんぞ」

 そう言い残すと、食堂へと向かう。


 七瀬シスター騒動により、出遅れた俺は、食堂で立ち尽くす。

 空いている席がないのだ。

 仕方ない。相席させてもらうか。

 視線を彷徨わせ、空いている席を探す。

 視界に二人がけの机に、一人で座っている女の子がいる。

 周囲を見渡しても相手はいないようだ。

 なら、行動するまでだ。


「すいません。相席してもいいですか?」

 その女の子は肩くらいの長さの金髪を揺らす。

「どうぞ。ここは私の領土ではないわ」

 領土? 不思議な言い回しをするな。

 おずおずと腰をかけると、食事を始める。

 まずはソーセージ。

「あら? その食べ方、卑猥ね」

「ぶっ!」

 思わず吹き出しそうになった。

 何なんだ。この人……。

 戸惑っていると、彼女は前のめりになる。

「ほら、白濁とした液体を飲みなさい」

「ただの牛乳ですよね!?」

 差し出された白濁とした液体は、どこからどう見ても牛乳だ。

 良かった。

 そう思い口をつける。

「ふふふ。これであなたと私は間接 キ ス したわね♡」

「はぁ?」

 彼女は目を爛々らんらんと輝かせている。やばい人の目だ。

 直感がそう告げている。

 俺は急いで、食事を終え、立ち上がる。

「私は早乙女さおとめ紗緒梨さおり。またどこかで出会えるといいわね」

 俺としては二度と会いたくないです。はい。


 食事を終えると、なぜか尿意を感じるのは、きっと俺だけではないはず。

 という訳で、近くのトイレに駆け込む。

「ふぅ……」

 幸いにも小であって助かった。

 と、ふと隣を見ると、漆黒のツインテールを持つ女の子が小便をしていた。……女の子? 女の子!

 俺は驚いて、周囲を確認する。

 周囲には男性用の小便器、つまりは立って小便のできるトイレが三つ並んでいる。

 あれ? おかしいな~。ここ男子トイレだよな。

「なんで女の子がいるんだ?」

 ふと漏れた疑問に、隣の女の子が微笑む。

「だって興奮するじゃないですか!」

 そう言い、用を足した女の子は手を洗う。

「ボクはまりかえでです。以後お見知りおきを!」

「お、おう!」

 俺はできれば知りたくなかった……かな?

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