女神試練! ~三条ミツヒデ編~ ④-④
「うぅ、こわかった、こわかったよぅ……」
ネコに散々追い回され、泣く泣くたどり着いた場所は私の肉体が眠る病室。
さめざめと病院で泣いていれば即怪談入りしそうなものだが、幸い私は霊ではなく女神様なので大丈夫だろう。
『よしよし、怖かったですね……』
そんな私を慰めるのは、事故により多大な肉体へのダメージを負ってしまった私を修復することになった先輩女神様の飛梅だ。
私の肉体に入っているので声しか届かないが、その声色はあたかも私を撫でて慰めてくれているような錯覚に陥るほど優しかった。
「どうして私がこんな目にぃ……。ネコってやっぱり幽霊とか見えちゃうわけぇ……?」
『さぁ、どうなんでしょうね……。私は一度もそんなことなかったのでわからないですが……』
大好きなネコに追われるのは私も生前なかったけど、もうこんな体験は勘弁だ。
『どうですか、お仕事の進捗は……?』
気を遣って話題を変えてくれたうめちゃん。
「うーん、学問の女神としてはいい状況でないのははっきりと言えるんだけど」
本人のやる気は認めるけど、今はそれどころじゃないことに熱中してしまっているからだ。
だからってさっさとくっつければいいかと言えばそういう問題でもないし、むしろそっちの方が今後を左右する大事なイベントじゃなかろうか。
「私が縁結びの力を持っていれば少しは楽なんだろうけどねぇ」
『こら、いけませんよ』
手っ取り早い問題の解決に努めようとした私を叱責するうめちゃん。
『前も言いましたが、力量が未熟なまま次のステージに上げちゃダメですよ……。人との付き合いだって、同じですから……』
「ごめんごめん、言ってみただけ」
わざとらしくオーバーリアクションでおどけてみせると、やれやれって感じのため息が脳内に響いた。
『ここ最近の神様って、どうも面倒くさがりですから、そう言った人たちが多いんですよ……。自分が苦労するならまだしも、それだと他の人も迷惑がかかってしまうのですから……』
先ほどのため息はどうやら私のリアクションに対してでなく、自身の苦労からくるものだったのかと理解してしまえるほどには、今のうめちゃんの言葉は重かった。
「にしてもその言葉を聞くと、やっぱり私って一つの案件に時間をかけすぎなのかな」
まだ若葉マークを引っ付けている私だけど、他の神様女神様の仕事ぶりはやはり気になる。
うめちゃんは私の質問にそうですね、と一呼吸置いてから、
『正直言うと、他の人より時間を要しているのは事実です……。けど、その分ちゃんと満点に近い仕事内容なので、私はむしろ毎回そうしてほしいくらいです……!』
「あ、ありがとう……」
んんー、むずがゆい!
こういった評価は嬉しいけど、全身をくすぐられているみたいで落ち着かない。
『仕事回数は少ないですけど、もしかしたら近いうちに、ジョブレベルが上がるかもしれませんね……!』
「ジョブレベル?」
そう聞けばまるで『RPGの職業が上位職にレベルアップする』みたいなイメージだけど。
『そんな感じです……。みんなから一目置かれるようになりますよっ……!』
うめちゃんは嬉しそうだけど、レベルアップ特典ってそれだけ?
『えっ!? えっと……そうそう、上の神からの印象がよくなります……!』
慌ててそれっぽいことを付け足したうめちゃん。
「他には?」
『えー、そうですね……。あっ、私の【たいへんよくできました】スタンプ、押してあげます……!』
なるほど、これはあれだ。
RPGの上位職に転職でなく、ただバイトがバイトリーダーになるだけだ。
【消費する奇跡の力の量が減る】とか【仕事完遂時の奇跡の力の回復量が増える】だとかが真っ先に出てこない以上、認識としてはそっちの方があっているように思える。
「うめちゃん、さすがにこれじゃ頑張れないかなー……」
『で、ですよね……』
まぁ、うめちゃんもさすがにその辺は理解しているようだ。
途端、忘れてたって語気でうめちゃんが特典を慌てて付け足した。
『あっ、少しだけですけど、他の神様の奇跡が使えるようになります……』
それ普通真っ先に出てこない?
「私でも縁結びとか縁切り、それ以外も使えるようになるってことか」
今回は縁担当の女神様に仕事の手伝いを断られてしまったので、それは便利だと言えるかもしれない。
かと言ってしょぼさがなくなったかといえばそれは否定できないのだが。
「さて、気分も晴れたし、私もう行くね」
ありがとう、とお礼を伝えると、
『いえいえ。辛くなったらいつでも遊びに来てください……』
いきなり押しかけても嫌な顔一つしないこの娘はやっぱり天使、いや女神だ。
三条さんの検定の日にちまでは時間がないし、ここからはしっかりとサポートしていこう。
二階堂先生との進展も気にはなるけど、それはそれ、これはこれ。
ブッキーにも脱線しているって忠告されていたし、真面目にやっていくとしますか。
「あー、でも、頑張った特典……」
まぁ、私は経験浅いから、そんなすぐジョブレベルが上がるはないはずだ。
ぶんぶんと頭を振って気持ちを切り替えると、私は病室を後にした。
『りこさんの性格上、レベルアップ用の虹色の絵馬が出てきたら相談にきてくれるでしょうし、レベルアップはもうちょっと先ですかね……』
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