女神試練! ~三条ミツヒデ編~ ④-②
さて、彼の事もそうだがにゃんこ検定そのものを知らないので自分で下調べ。
年一回開催されている検定のようで、初級、中級、上級と難易度が分かれており、ネコの理解度を深めるために猫カフェの店員さんなどが受けるようだけど、上級ともなると医学的知識も入り込むようで侮れない。
彼はその中級を受けるようで、先ほどの熱意を見ると彼は相当やる気みたい。
しかし、
「ちょっと待ってくれ、せめて少しだけもモフらせて……へっくしょいっ!」
その彼の熱意を、他ならぬネコが阻んでいるのは皮肉だと思った。
連発するくしゃみに抗いつつ、三条さんは昨日から学校の校舎を駆けずり回っていた。
どうやら野良猫が学校敷地内で繁殖しているようで、それらをどうにか保護しようとしているからだ。
結果はお察しの通り、普通にネコを捕まえるのも一苦労だというのに、やっと捕まえてもくしゃみをしてその隙に逃げられているその様は、ネコとネズミが仲良くケンカするアメリカのカートゥーンアニメを彷彿とさせるほどだ。
しかし、このまま不法滞在ネコに現を抜かしているようでは、検定試験の勉強もままならないだろう。
勉強関連の手伝いならまだしも、ネコ捕獲の手伝いはさすがに出来ないこちらとしても、今の現状にちょっとばかり頭を悩ませている。
そもそも、彼一人で捕物帳を繰り広げているが、彼には同僚や頼れる人はいないのだろうか。
せめて一人くらいは手伝ってあげてもよさそうなものだけれど……ん?
「なんか、こっちみてる……?」
彼が追いかけている最中のネコは違うけど、それ以外の安置にいる数匹のネコ達は一様にこちらを伺っている。
まさかと思って横にゆっくりと水平移動すると、目線も同じスピードで流れていく。
そう言えば、ネコは霊とかを見ることが出来るって聞いたことがある。
フェレンゲルシュターデン現象とか言ったかな。
大嘘だとも聞いたことがあるけど、まさか本当にこちらを視認できているというのだろうか。
真偽はともかく、ネコと言えどもこちらに注目されるのは都合が悪い。
この場から退散しようと移動しようとした時、
「あれ、二階堂先生。どうされましたか」
いつの間にか三条さんと共にネコ取りに興じる二階堂先生の姿が。
「どうしたもこうしたもありません。いつまで時間をかけているのですか」
あらら、相変わらず口調の厳しいご様子。
対する三条さんは照れながら、
「いやぁ、すいません。ネコが好きだからこうやって捕獲役を買って出たはいいんですけど、アレルギーがあってどうも上手くいかなくて」
「全く、そのような体質なら何故引き受けたのですか」
やれやれと肩を竦める二階堂先生。
流石の私も、多分同じ事言うし、同じ事思うよ。
情けない大人もいるもんだと呆れていると、二階堂先生が提案を持ち掛けていた。
「ほら、私も手伝いますから早く済ませますよ」
「えっ、いいんですか?」
「いいも何も、このままだと生徒たちが触れ合って、思わぬ怪我などしたらどうするんですか」
二階堂先生の申し出にパッと表情を明るくするも、正論で叩き伏せられてしゅんとなる三条さん。
この人、ネコが好きだとか言ってたけど、本質は犬そのものだね。
嬉しい時と悲しい時の表情がはっきりと出てわかりやすいところとかそっくりだ。
必死に追いかける三条さんに、持参していた餌を差し出して次々とネコを篭絡していく二階堂先生という構図も、それぞれらしさが出ていて見てても面白かった。
彼が相当苦労していたネコの集団も、二階堂先生の介入によって事態はあっさりと収拾。
流石は私の恩師だ。
そんな彼女に礼を述べる三条さん。
「いやぁ、助かりました。これで子どもたちも安心ですね」
「安心ですね、じゃありませんよ。こんなことなら、最初から私がやっておけばよかったです」
不満そうに言う彼女をなだめすかそうとへこへこと頭を下げている彼は、どこからどうみても、私の目指す憧れの教職員には見えない。
こんな教師にはなりたくないな、と思っていたら、不意に痛がる仕草を見せる二階堂先生。
何事だろうと様子を伺ってみると、どうやら指先をネコに引っ掛かれたようで、微量ながら出血していた。
それを見た三条さんが、
「うわ、これはいけませんね。ちょっと傷口を見せてください」
ポケットから小さな消毒液を取り出して吹きかけ、手慣れた手つきで絆創膏を貼っていた。
「手伝わせた上にこんな傷まで負わせて、ホントにすいませんでした」
「あ、いえ、ありがとうございます……」
意外な手際の良さににあっけにとられている二階堂先生に、
「野良猫って結構病原菌を持ってたりしますから、小さな傷でもしっかりと対応しないと、そこが化膿したりして危険なんです。二階堂先生の言う通り、ちゃんとこのことに向き合うべきでした」
改めて謝罪する三条さん。
「それでは僕は、まだ仕事が残っているので職員室に戻ります。手伝っていただき、ありがとうございました」
そう言い残すと、駆け足で校舎へ戻っていった。
「ふん、今のはよかったんじゃないの?」
先ほどの手当ての一連の流れは良かったわ。
だからって、私の先生がその程度であなたを評価するなんて思わないことね!
そうでしょ、先生!?
「なかなか、上手じゃないの」
せ、先生?
傍から見れば何様だと突っ込まれそうな私の態度とは裏腹に、指先にまかれた絆創膏を眺め、にこにこしている二階堂先生の姿がそこにあった。
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