第49話 反撃
✤
「牧原さん。私の秘密を大翔君に言ったのはなぜですか?」
もう何からも逃げないと決めた。
牧原さんの目を見続けながら、問いかける。その間、牧原さんもこちらから目を離さなかった。
鋭い視線。今まで見てきた中でも特に鋭い。普段からあまり表情の変化がなく、基本的に無表情の牧原さんに、初めてあった頃は何度も泣かされてきた。だけどそれにもだんだんと慣れてきた。
だが、いまの牧原さんの目を見ていると、気を引き締めていないと、体が震えそうになる。
それでも、目をそらしちゃいけない。今ここで負けてしまったら、一生大翔君には会えない。そんな気がする。
「秘密、とは何のことでしょうか」
「白白しいですよ。私がモデルの仕事をしているということです。それを牧原さんが大翔君に言ったということは、もう知っているんですよ」
ここにきて牧原さんはまだ白を切るつもりらしいが、絶対に逃がさない。
いま、ここで牧原さんの真意を知りたい。
「証拠はあるんですか」
「今、ここに提示できるものは何もありません。ですが、大翔君の教師の方から教えてもらいました。大翔君に伝えたのはあなただと」
「そうですか」
そういって、牧原さんは何かを考えるようにして、目線を下に落とした。
「大翔君になにを言ったんですか。そして、それは何のためですか」
できるだけ考えるすきをなくすため、すぐに質問をする。
前に一度牧原さんと軽く口喧嘩をしたときは、いい感じに言いくるめられちゃったけど、今回は絶対に押し通してみせる。
すると、牧原さんは諦めたように、ため息をついた。
勝った、のかな?牧原さんも若干苦しそうな顔をしてるし。
「はい。私が内田さんに伝えたことは、本当です。ですが、私が話したことは、天音さんがモデルの仕事をしている、ということだけです」
「本当ですか?」
「ええ。本当です」
ほとんど無表情の牧原さんからは、特になにも読み取れないけど、嘘はついていないと思う・・・たぶん。
ん?ちょっと待って。牧原さんがそれしか言ってなかったとしたら、大翔君の行動はおかしい。大翔君は私のモデルとしての活動を応援してくれてる。って言ってたと山内先生から聞いた。
もし、大翔君が、私のことを応援してくれてるなら、モデルの活動をしてるってことを隠してたことに、その時は怒ったとしても、私と会うことを拒む理由にはならないと思う。
私の考えが正しいなら、牧原さんはまだ何かを隠してる。
「それで、そのことを大翔君に伝えたとき、大翔君はどんな反応をしていましたか?」
「あまり覚えてはいませんが、少し残念そうな顔をしていた気がします」
「・・・そうですか」
やっぱり、牧原さんは何かを隠してる。いま牧原さんが言ったことが本当なら、山内先生は嘘をついたことになる。でも、それはありえない。先生は私のことを真剣に考えてくれていた。応援してくれていた。そんな先生が嘘をついてるなんてことは絶対にない。
嘘をついてるのは、牧原さんだ。
「それが原因で大翔君は私のことを拒絶し始めたってことですか」
「さぁ、そこまでは私にはわかりません。ですが、自分が信用していた人に、嘘をつかれていると知ったとき、その人のことは二度と信用できなくなる。それは天音さんもよく知っていることでしょう?」
牧原さんは相変わらず冷酷な目線で、一切の表情の変化もなく、淡々と告げてくる。
つらい過去。牧原さんは私の過去に何があったのかを知っている。その古傷を、この人は確実にえぐりに来てる。
だけど、これくらい予想してたことだ。こんなことでは負けてられない。ここからは、反撃開始だ!
「わかっています。ですが...まぁ、そういうことなら、私も牧原さんのことは信用していたんですけどね」
「それはどういうことですか」
「そのままですよ。私は牧原さんのことをもう信用できない。あなたはまだ、何かを隠している」
「なにか、とは?私は自分が知っている、ありのままを話しただけです」
「しらばっくれても無駄です。私はあなたが嘘をついていることを知っています」
大翔君は私のことを応援してくれてる。でも牧原さんの言ったことは、大翔君が私のことを信用してないと、応援してないと、間接的に言っているようなもの。だけど、それが嘘だってことはもうわかってる。
「山内先生から聞きました。大翔君は私がモデルの活動をしてるってことには怒ってない。むしろ応援までしてくれていると。だから牧原さんの言ってることはおかしいんです」
「そんなこと、天音さんは、その山内先生という人が嘘をついているとは、考えないんですか」
「ありえません」
さっきから私の質問を牧原さんにはぐらされ続けてる。もどかしい気持ちでいっぱいだ。だから、もう終わりにしよう。
「天音さんがなんと―――」
「もういいです。いい加減本当のことを話してください」
【あとがき】
最近は美零さん視点が続いていて、ほとんど大翔が出てきてませんが、大翔の出番はもう少し先になりそうです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
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