第42話 親友の声

―――大翔と最後に会ってから3ほどが経った。


 あれだけ寒かった外の空気も最近は少しづつ温かくなってきていた。

 

 あの日以降もほぼ毎日病院へ行っていた美零だったが、大翔に会うことはなかった。


 しかもその間、大翔に会えないどころか、大翔に関する情報をほとんど手に入れることができなかった。


 (大翔君は今頃何をしているんだろう、、、)


 今日は土曜日。美零には丸一日用事がないため、会いに行くため、大翔に関する情報を集めるために朝から病院へ向くつもりだ。


 支度を終え、いつものように電車に乗り、病院へ向かう。


 電車に乗っている間、何度も大翔とのLINEのトーク画面を見直す。


 しかし、その画面も3週間ほど前からなんの動きもなく、いまだに既読すらついていない。


 それでも、もしかしたら大翔から返信が来ているかもしれないと思い、つい見返してしまう。


 だが、一向に返信が来る気配はしない。


 (はぁ。やっぱり私避けられてるのかな。)


 あまり考えないようにしていたが、ここまで来たらそうとしか考えられない。


 だが、嫌われるにしてもその理由が見つからない。


 最後に大翔に会った日、特に大翔に異変は感じられなかった。


 それに、美零自身なにか大翔に嫌われるようなことをした覚えはない。


 理由が分からないため、この3週間美零には何をすることもできなかった。


 これ以上時間を無駄にできない。今日こそは何としてでも情報を持ち帰らないといけない。


 その後、持ってきた本を読んだり、スマホの画面をじっと見つめて、駅に着くまでの時間をつぶした。


 改札を抜け、病院へ向かう道へ行く。


 すると、突然ポケットに入れていたスマホから振動が伝わってきた。


 少し期待を込めてスマホを取り出すが、残念ながら発信先は大翔ではなく、優佳からのものであった。


 (なんだ優佳か。でもこんな時間に何の用だろう。昨日の夜にメールしたばっかなのに。)


 特に断る理由もないので、電話に出ることにした。


 『あ、でたでた。もしもーし。美零さーん?』


 「はいはい美零ですよ。こんな時間にどうしたの優佳?」


 電話に出ると、優佳のいつも通り元気な声がした。


 『いやー。今日仕事会ったんだけどさ、共演者のモデルさんが急遽出れなくなって休みになったんだよねー。』


 「ふーん。それで暇だから誘ってきたってこと?」


 『そうそう!さすが私の親友。よくわかってるねー。』


 「はぁ。けどさ、優佳ってちゃんと学校に友達いる?」


 優佳はことあるごとに美零を遊びに誘ってくる。


 それはとてもうれしいことなのだが、美零としては少し優佳の友達関係が心配になってくる。


 (心配か・・・ほんと、私が言えたことじゃないな。)


 『えー。心外だなー。私これでも学校だと人気者なんだよ?』


 「ふふっ。そういえば前にもそんなこと言ってたよね。自分でだけど。」


 『あ、その言い方信じてないでしょー。』


 「どうだろうね。」


 『そこはちゃんと信じてよね。それで、今日どうなの?』


 「あー。えーと、、、」


 優佳には申し訳ないが、今日は1日病院にいると前々から決めていた。


 それにもうすでに電車を降り、病院へ向かっている最中だ。


 さすがに今から予定を変更するわけにはいかない。


 だが、完全に断ってしまうのは誘ってくれた優佳に申し訳ない。


 「ごめん。今日は予定があって遊べそうにないかな。でも、夜は空いてるから夜ご飯一緒にどうかな?」


 『うーん。まぁ予定があるなら仕方ないよね。急に誘った私が悪いんだし。わかった。夜ご飯一緒に食べよう。』


 そこからはどこでご飯を食べるかなどを優佳と話した。


 「―――じゃあ7時に川崎駅東口ね。」


 『おーけー。・・・でもよかったよ。』

 

 「ん?何がよかったの?」


 『いやー、ちょっと安心してね。私最近の美零のこと少し心配してたんだ。』


 「心配?」


 『そうそう。だって最近の美零は少し元気がなかったからおかしいなって思ってたんだよ。』


 『でもこうして話してみたらやっぱりいつもの美零だったから安心したよ。』


 大翔のことはいつか優佳には言おうと思っていたが、まだ言っていなかったはずだ。


 「そっか。私に元気がないか。ふふっ。やっぱり優佳には勝てないな。」


 『ん?勝負なんてしてたっけ?』


 「何でもないよ。」


 (ほんと優佳は変なとこで勘が鋭いんだから。)


 直接会っているわけではないのに、美零の異変に気が付いてしまうなんてさすが美零の親友だ。


 美零の演技は完璧だったと言えるだろう。いつも通りの美零をしっかりと演じられていたはずだ。


 実際に、仕事で会った人やには何も言われなかった。


 それに、今回のようなことは初めてではない。


 美零が悩みを抱えているとき一番に気づき、話を聞いてくれるのはいつも優佳だった。


 誰にも話せずに困っているとき、平静を装っている美零を優佳はいつも簡単に見破ってきた。


 意図しての行動ではないのだろうが、その度に美零は優佳に救われてきた。


 「ありがとう。」


 『ん?今なんて言った?ていうかさっきからどこにいるの?外の音が入ってきててよく聞こえなかったよ。』


 「ううん。なんでもないよ。そろそろ時間だからもう切るね。」


 『すごい気になるなー。なんて言ったのか後で絶対に聞くからね。』


 電話を切ると、美零はすでに病院の門の前にいた。


 最後に病院へ入る前に手鏡で身だしなみをチェックする。


 自分では問題ないと思っていたが、優佳に言われたこともあって少し気にするようにした。


 鏡に映る自分の姿は穏やかな表情をしていた。


 (やっぱり優佳はすごいよ。)

 

 最近少し落ち込み気味だった気分が優佳のおかげで10分もしないうちに元気になった。


 (よし!今日は絶対大翔君に会うぞ!)


 美零は自分の頬を軽くはたき、気合を入れ直した。




 ✦

 「朝ご飯ちゃんと食べたね。それじゃあ今日も15時からリハビリね。」


 「わかりました。今日もよろしくお願いします。」


 「・・・大翔君。最近無理しすぎてない?たまには休んでもいいんだよ?」


 「無理なんて、、、してないですよ。今は少しでも早く治したいんです。」


 いつもは少しふざけている藤咲さんだが、最近元気のない大翔を心配してくれているらしい。


 まあそれも仕方のないことなのだろう。大翔自身思い当たる節がいくつかある。


 最近はリハビリの時以外の外出はほとんどなく、部屋にいる間も怪我を治すために限られた空間でできるリハビリをしている。


 その結果、この間先生に怪我の様子を診てもらったときに、『この調子でいけば退だ。』と言われた。


 この3週間ほどは、リハビリ以外のことをほとんどしていなく、藤咲さん以外の人との会話をした覚えがあまりない。


 その為、3日ほど前に時は今の大翔の様子を見て

、少し驚いた様子だった。


 久しぶりに会った蒼汰たちには『元気がなくなった』・『覇気がない』など、散々な言われようだった。


 「そう、、、でも無理はしすぎない方がいいよ。かえって体の調子が悪くなるから。」


 「心配しなくても大丈夫です。ちゃんとご飯食べて寝てますから。」


 「ならよし!じゃあまた後でね。」


 どこかぎこちない笑顔を残して藤咲さんは出口へ向かった。


 「あ、そうだ。言い忘れてたけど昨日も。」


 そういって、今度こそ藤咲さんは部屋を出て行った。


 「・・・ごめんなさい。」


 藤咲さんがいなくなった部屋で一人ぽとりと雫のようにつぶやくと、自然と大翔の目には涙が浮かんできていた。




【あとがき】

前回の投稿から1カ月近くたってしまい、すいませんでした。


部活の方はひと段落着いたのですが、これからは受験勉強に専念しないといけないので、また次の投稿まで時間がかかってしまうと思いますが、待っていてくれると嬉しいです。


コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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