貯金残高───

歩きながら先輩は少しだけ家庭の事情を教えてくれました。


2年前にお父さんを事故で亡くしたこと、そのあとお母さんも少し言いにくい事情でお婆ちゃんや子供たちを残して家を出て行ってしまったこと、朝は幸乃ちゃんを保育園に送ってから登校していること、卒業までの残りの1年と数ヶ月はなんとか今の生活を耐えて就職を考えていること。


「先輩、今日はありがとうございました、そして色々すみませんでした。先輩のこと、私何も知らなかったです。これからは決して負担になるようなことはしませんから…」


「また遊びに来いよ」


「えっ?」


顔を上げると先輩は少し照れながら目を逸らした。


「節約料理、また教えてくれよな、ほら俺んチ貧乏だからさ」


先輩の優しさに涙が溢れて出てきました。


「泣!泣くことねえだろ!それに勘違いするなよ、付き合うとかそういうのは無理だからな!ただの友達としてだよ」


「う"ん"、う"ん"、あ"り"がどヒックう"ござい"ま"ずヒック」


充分ですよね?1日で失恋者から知り合いになって、さらに友達にまで昇格して家に遊びに来ていいとまで言ってもらえたんですから。


ハンカチで涙と鼻水を拭くと私はもう一度先輩にお礼を言いました。


「今日はどうもありがとうございます、もうその先が家ですからここで大丈夫です!料理だけじゃなく、私、節約術いっぱい勉強してきますね!」


そう言って私はダッシュで先輩から10メートルほど離れると振り向いて叫びました。


「それから先輩!先輩んチ貧乏ってレベルじゃなくチョー貧乏ですよ!」


呆れてだとは思いますが外灯の下に見えた刈谷先輩の口元は笑っていました。

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