11話目 中編 対立
――で。
「ごめんヴぁっ……ごべんなざい~……!」
リンネスとマカは見事に誰一人殺さず全滅させてみせたのだが、その途端にさっきまで高圧的な態度を取っていたベルナルが子供のように泣き始めてしまっていたのだった。
本当に同一人物なのか疑うレベルである。まさか捕まる直前に影武者と入れ替わったとかじゃないの?
「ちょっとした出来心だったんです!王都を壊滅させたっていう魔物を捕まえれば自分を追い出した両親や兄弟たちを見返せると思っただけなんです!さっきまでの偉そうな態度だってせめて舐められないようにするためだけだったんです許してくださいぃぃぃぃっ!」
必死な命乞いからの土下座をするベルナル。なんという性格の反転。
凛々しく強敵感のあった第一印象がここまで一瞬で崩す人って珍しいよな……
周りの人はなぜか捕まったというのに呆れた表情をしている。「また始まった」とでも言いたげだ。
つーかどうすんの、これ。泣き言言われ続けて話が進みそうにないんだけど。
こういう時にララが居てくれたら威圧してでも無理矢理黙らせるんだろうが……
「やかましい小娘じゃのう……あんまりうるさいようなら食ろうてやろうかの?」
「喉を骨にしてしまえばすぐに静かになるぞ?」
「ひっ!?」
あっ、いたわ、威圧して黙らせる人たち。
騒いでいたのがベルナルだけだったのですぐに静かになった。
「さて、どうしようか」
「あ、あの……命だけは助けてくださいますよね……?」
この期に及んで命乞いをしてくるベルナル。その彼女の顔は今まで見たことがないくらい酷く歪んだ笑いを浮かべていた。
マカやリンネスも「うわ……」って言う顔しちゃってるし。そのくらい酷い。
そんな酷い笑顔を見てメリーを思い出してしまったのは心の片隅に置いておこう。
「やはりここで殺しておくか」
「っ……」
マカがベルナルの前に座り、脅す言葉を投げかける。
俺たちからは表情は見えないが、それを見るベルナルや兵士の顔が恐怖に染まっているのがわかった。
「ワシらの命を奪おうとしたんじゃし、命を奪われても……問題ないじゃろ?」
ベルナルたちが何を見て怯えているのかはわからないけれど、そう言う彼女の九本ある尻尾の毛が逆立ち、前にダンジョンで見た九尾の巨大な魔物の姿がマカと重なったように見えた。
「……本当に食ろうてやろうか?」
「――――」
マカが最後の一押しと言わんばかりに脅すと、ベルナルは白目を向いてその場に倒れて失禁してしまった。
「おっと、やり過ぎたか?」
それを見たマカがケラケラと笑い立ち上がる。
そして俺の前に来て妖美に笑う。
「ま、でも仕置きとしては上出来じゃろ?」
「……お、おう」
女の子って怖い。
――――
「は?王族は王族でも王族じゃない?どゆこと?」
ベルナルが気絶している間に捕まえた兵士から情報を得ようと色々質問してみた。
するとベルナルの兵たちが意外とペラペラ話してくれた。
「ベルナル様は継承権を持つ数人の兄弟姉妹の中でも立場が一番弱く、両親に辺境の領主に左遷という形で追い出されたのです。なので王族と言っても権威をほぼ持ちません」
「それで俺たちを捕まえて一発逆転を狙おうと?」
「そうお考えだと思います」
「それはまた……」
浅はかとしか言えない考えだ。
物理的に一国を滅ぼすような奴相手をただの物量でどうにかしようなんて相当な自信と実力があるかバカな奴だけ。そして彼女は明らかに後者だ。
「それで……我々は殺されてしまうのでしょうか?」
別の兵士が恐る恐ると聞いてくる。
一応死ににくいとはいえ殺しにかかってきた相手ではあるし、結果的に無事に勝ったからって「じゃあ見逃そう」というには複雑な心境だ。
「悩んでいるようなので進言を。この者たちにウイルスを与えて行動を制限するはどうでしょう?」
「……ああ、なるほど」
リンネスの時のように殺してしまうほどでなくとも、裏切ればその場で即死させるウイルスを体内に流し込んでしまえば行動がかなり制限され、少なくともコイツらが俺らを追うことはもうないだろう。むしろ利用できるかもしれないし。
「それじゃあ、悪魔の契約といくか」
今の俺の笑いが相当酷いものなのか、兵士全員から固唾を飲む音が聞こえた。
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