8話目 後編 密告
忍びみたいな女は品定めするように俺たちを見回し、ララを見てフッと笑う。
「そのわかりやすく穢れた目、あんたが魔族だね?」
軽蔑している目をして、わかりやすく敵意を向けて聞いてくる女。
今にも襲いかかって来そうな雰囲気に俺はララの前に立ち塞がっておく。
「……何、人間のクセに魔族を庇うの?目と同じで気持ち悪い奴だね~……あっ、そういえばあんたも人間じゃないって報告にあったんだっけ?たしかにその目は普通の人間じゃないわ」
「目のことはほっとけ。それでお前は……いや、お前らは俺たちをどうする気だ?」
そう聞くとさっきまで笑っていた女は不快そうな顔で俺を睨んでくる。
「『どうする気だ』だぁ?言葉に気を付けろよ、犯罪者が!」
「物凄く口が悪いでござる」
しかし「犯罪者」か……
実際、前の町ではララは冒険者を殺してしまったし、その彼女を庇えば同罪と言われても仕方ない。それに俺も盗賊とは言え人を殺しているから他人事とは思えない。
「お前も人を殺してるだろ」とそう言われてるようで。
「言葉に気を付けるも何も、殺気をダダ漏れにしている貴様への敬意など必要ないだろう?」
「あ゛?」
するとララが強気な発言をしながら俺たちの前に出る。
その雰囲気はさっきまでとは違い、ピリピリとした圧を感じる。それはララが魔王に覚醒した時のものに似ていた。
「人のことを化け物だの犯罪者呼ばわりする資格などないと言っている。どうせ貴様も都合の良い権力を盾に多くの者を葬ってきたのだろう?」
「はっ、だからなんだ?こっちは王命、仕事でやってんだ……テメェらみたいな奴らと一緒にすんな!」
「ああ、違うとも」
声を荒らげる忍び女に対し、ララは圧を放ったまま静かにほくそ笑む。
「貴様のような反吐が出る人間と我らが同等なはずがないだろう?分を弁え身の程を知れ、下衆が」
「ッ……!!」
うわ、エグい。
相手も言葉遣いが悪いけど、ララの上から目線で見下す言い方が凄まじい。もしそれを俺がやられたら一発で心が折れちゃうかもしれない。
しかし相手は心が折れるどころか逆上寸前。口角は上がって笑っているが今にも飛びかかって来そうなほど青筋を立てて怒っているのが見て取れる。
「あ~、やめだやめだ。一思いに殺してやろうと思ってたけど気が変わった……泣いて許しを請わせるまでなぶるッ!」
忍び女は怒りのままに叫んで動き出す。
軽装な見た目なだけあって動きは素早く、瞬きをした次の瞬間にはララの目の前まで差し迫っていた。
反射的に彼女の名前を叫ぼうと口を開く。しかしまた瞬きした瞬間には忍び女はララに蹴り上げられていた。
「ぐぼぉ……!?」
「その程度で我を翻弄できると思っていること自体がおこがましい」
忍び女は数十メートル上へ吹き飛び、その破壊力が目に見えてわかる。音は聞こえなかったが、骨が何本かイッててもおかしくない。
さらにララは落下する彼女の顔を片手で鷲掴み、宙吊り状態にさせる。そして――
「王の御前だぞ、頭が高い」
ララは彼女の頭を陥没するほどの力で地面へと叩き付けた。
流石魔王様。口調や実力も相まって「らしさ」が出てる。
その時の彼女は「冒険者のララ」ではなく、歴とした「魔王」として俺の目に映っていた。
「そんっ、な……あたしが……なんで……」
辛うじて生きているといった感じの忍び女は、手も足も出ない現実を受け入れられないようだった。
「強者と戦ったことがないのか?なら貴様のような愚者にもわかるように実力差を示してやろう」
腹を抱えて苦しんでいる忍び女にララがそう言うと手の平を上にして黒い火の玉を作り出し、同時に俺の体の上に何かを押し付けられたかのように重さを感じた。
これは……プレッシャー?
「あり、えない……なんだこの威圧感は……!」
「貴様の敗因は簡単だったな。相手を見誤った、油断し過ぎたのだ」
「ク、ソ……クソがぁぁぁぁッ!」
忍び女は往生際悪く投げナイフをララに向けて投げた。
それはそのまま当たっていれば確実に大怪我をするであろうララの頭目掛けて……しかしそれも心配もする必要はなかったらしい。
ララの頭に当たる直前に彼女の周囲から衝撃波のようなものが発生して弾かれる。
弾かれたナイフは遠くへ飛んでいき、誰かの足元に落ちる。
「これはどういうことかな、アンナ?」
それは先程まで正面玄関でアリアパパと話していたはずの王国騎士の隊長っぽい男だった。その彼の後ろにもゾロゾロと人を引き連れている。
「だ~んぢょ~……助けて~」
するとピンチであるはずの忍び女が気の抜けるような言い方で彼にそう言う。まだ余裕があったのか?
するとその団長とやらはララや周りの状況を見回して呆れ気味に溜め息を吐く。
「私はお前に何と命じた?」
「ん?ここを見張れって」
「そうだ。しかしなのになぜ戦闘になった上に満身創痍になっている?」
「このクソアマ魔族がめちゃくちゃ強かったんですよぉ~!」
「違う。私が聞きたいのはどうして負けたかではなく、なぜ戦っているのかということだ。それとその口の悪さを直せといつも言っているだろう」
親が子を叱っているような光景を俺たちはただ眺めていた。聞いてる限り王国騎士は俺たちと戦う気はないっぽいし、忍び女はもう動けないだろうからな。
すると向こうの会話が終わり、団長と呼ばれた男が近付いてきた。
「どうやらウチの者が迷惑をかけたようだな」
「本当ですよ。ということで迷惑料として俺たちを見逃して通してくれません?」
そう言うと全員の視線が俺に集まり、その場が静かになる。
見回すとポカンと口を開けたレチアや目を丸くしているララ、王国騎士の人たちも甲冑で顔は見えないが確実に俺を見てるのがわかる。
「……なんか俺、変なこと言った?」
「変なことしか言ってないにゃ。よくこの状況でそんなこと言えるにゃね」
「ふ……はっはっはっはっは!本当だよ、そんな返し方されたのは生まれて初めてだ!……だけどそれはできない」
ま、わかってたけどね。
相手は戦う気がなさそうだけど、もし俺たちを捕らえようとするなら抵抗する気ではいる。
と、団長の横に俺たちを密告した女が姿を現す。
「当たり前だ!お前のような化け物がのうのうと生きていること自体おかしいんだと自覚しろ!」
「あなたこそ雇われてるだけの分際で出過ぎた真似をしていることを自覚しなさい」
罵倒してくる彼女の後ろからアリアがスッと現れ、女が振り返ると同時に思いっきり横腹を蹴り飛ばす。
蹴られた女性は相手が女性だとは思えないくらいの威力により、地面を転がりながら吹き飛んでいく。
うわぁ……流石は元上位冒険者。蹴りの威力もだが容赦の無さが凄い。
普通のお嬢様ならあそこはビンタが定番なのにね。
というか俺の会う女性みんな武闘派過ぎない?こんな魔物だらけの世界だと逞しくなっちゃうのだろうか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます