9話目 中編 ダンジョンの主
道中の戦闘は全てルフィスさんが担当し、ことごとく倒しながら進んだ。ちなみにその魔物の素材は譲ってくれると言われたので遠慮無く貰った。
そして分かれ道もなくなり、マルスの言うボス部屋っぽい大きな声扉の前に到着した。
「……いや、デカ過ぎない?」
大きさ的には二階建ての一軒家くらい。
こんな扉、人間が開けられるわけないだろ……
「大丈夫、扉に手を当てれば勝手に開くから」
マルスがそう言って扉に触ると、ゴゴゴゴと重いものが動く音ともに大きな真ん中から半分に割れて扉が内側に開いた。両開きで自動式かよ。
「……って、見本みたいに言ってっけど、扉を開けたってことはすぐに入るのか?」
「うん。ヤタ君は準備が必要かい?」
そう言ってマルスとルフィスさんが俺を見る。妙な圧力を感じて焦りそうになるからヤメレ。
「少し待っててくれ」
正直にそう言うと俺はフィッカーから短剣を二つ取り出す。
「うん?そっちの短剣はずいぶん珍しいね」
「……本当だ。呪器を使ってるのかい?」
するとルフィスさんとマルスが片方の短剣を見てそう言う。
それは「斬れないから」と言われて安く買った不思議な短剣だ。
しかしそれはマルスの言った通りの呪器……呪われた武器だ。
強力な力と引き換えに持ち主に何らかの悪い影響を与えるというもの。
この短剣の場合は自分を斬りつければその分斬れ味を増すというもの。
「俺の体とは相性が良いらしくてな。愛用してるんだよ」
「ハハッ、ヤタ君の体と相性が良いとは妬けちゃうね!」
武器に嫉妬するなんて初めて聞くんだが。あとルフィスさんが言うと別の意味に聞こえてくるから本当にやめてほしい!
「それじゃあ行くか。俺は基本的に後ろで応援してるから頑張れよ」
「わかったよ。代わりにもし僕たちがピンチになったら助けてもらおうかな」
「お前らがピンチになるような奴相手に俺がどうやって割って入るんだよ……」
マルスと互いに軽口を言い合いながら部屋の中へと入った。
中はドーム状の広い空間となっている。
しかしこれといって何かがあるわけでもなく、ただ広いだけの空間だった。
「……ボスは?」
「いない……?」
「…………」
困惑した俺たちの間に静寂が流れる。
マルスたちでさえ不測の事態だったらしく、警戒していた。
「こういう前例は?」
「ないよ。ダンジョンの最奥には必ず大きな部屋があって、その中にはボスがいるはずなんだ」
マルスは迷わず首を横に振る。
その横でずっと無言だったルフィスさんが構えを解いて前に出る。
「だけど実際、この部屋には何もいないよね?」
「もう誰かがボスを倒したんじゃないか?」
「さっきも言ったけど、ボスを倒したらダンジョンは無くなるんだ」
「だとしたら元々いないとしか……」
――バキッ
「「「っ!?」」」
突然、嫌な音が周囲に響いた。
それはさっき魔物が出てきた時に空間が裂けた時に似た音だった。
そうか、失念していた。
俺たちが相手するボスだって魔物だ。
……その魔物のボスが目の前で生まれたってだけ話だった。
しかし驚くのはそれだけじゃなかった。
「……え?」
「おい、アレが魔物だと?」
「驚いたな、僕も聞いたことがないよ……#人型の魔物__・__#なんて」
その裂け目から這い出てきたのは赤い髪、赤い眼、そして裸体をした女性だった。
そいつは全身がぬるぬるの液体がべっとりと付いていて、ベチョッと汚い音を立てて地面へと落ちた。
そいつはまるで産まれたての子鹿のように立つことすらできないでいる。
「……なぁ、まさか本当に人間だったりしないか?」
「わからない……でもどの道、あの裂け目から出てきたのは普通じゃないと思う」
「だね。少なくとも今のあの子を攻撃するのは戸惑うな……」
そう思わせるのがあの裂け目から出てきた奴の狙いなのかもしれない。でももし本当にただの人間だったら?
過程はどうあれ、被害者の人間かもしれない以上、下手にこっちから手出しできない。
どうすんだよ、これ……
そう思っていると――
「キィヤァァァァァァァァッ!!」
「「「っ!」」」
一瞬、意識が持っていかれそうになるほどの強烈な叫びが周囲に響いた。
「これは……凄いね……」
「頭が割れそうだっ……!」
目の前にいる女の強い叫びが頭の中を直接掻き混ぜてくるような感覚。
マルスたちの様子を見るに痛みが相当あるようだ。
俺は痛みはないが、立つのすらキツい気持ち悪さに襲われていた。
【九尾の叫び効果によりスタンの状態異常が引き起こされています。レジストして五秒短縮、同時に戦闘状態へ移行し《不明なウイルスLv20》が発動します】
そんなアナさんのお知らせが脳内に響く。
……九尾?なんか凄い嫌な予感がするんだけど……
何かの聞き間違いかと思ったその時、叫んでいた背後でボッと身の丈に合わない大きな狐と同じ形をした白い尻尾が九本生えた。
「ヴゥ……!」
そして彼女は四つん這いになり、裸だったその体からは毛が生え始め、獣の姿に変わってしまった。
「こりゃ、正真正銘#魔物__モンスター__#だな……」
美麗しかった美女はみるみるうちに九本の尾を持った巨大な狐になってしまい、その威圧感に俺は圧倒されてしまっていた。
マジかよ……いくらこの場所が広いからって言っても、こいつが暴れたらどこに居ても巻き込まれちまうじゃねえか!
「おい、お前ら動けるな?」
「何とかね」
「大丈夫さ!心配してくれてありがとう♪」
マルスは言葉通り汗を掻きながらも薄ら笑いを浮かべて強がっている。ルフィスさんは心配しなくていいな……
「よし、じゃああとは任せた。俺の出番は本当にないみたいなんでな――」
無理だと判断してさっさとその場から逃げ……戦略的撤退をしようとしたのだが。
――バンッ!
「……へ?」
部屋の出入り口に向かっていたら扉が勢いよく閉まった。
……異世界でも自動ドアってあるんですね。
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