7話目 中編 ダンジョン
「ゲプ……ご馳走様」
なるべく聞かれないよう小さくゲップをして呟く。
「いつ見ても凄い光景だにゃあ~……ヤタだけは絶対に敵に回したくないにゃね」
呆れるような言い方をするレチア。
いやでもホント、捕食してちゃんと満腹感があるおかげで普段が食事要らずなのが何よりも大きい。
人間の食費って意外とバカにならないんだけど、それが浮くだけでかなりの節約になる。
おかげでイクナやレチアにもちゃんとしたものを食わせられるし、借金も返せる。
尚且つ俺は我慢しなくていい。一石二鳥どころか三鳥にもなるお得な体質だ。
最初は人間じゃなくなったことに悲観しそうになったけど、こう考えると中々どうして良いものだと思えてくる。
「ふぅ、さて……ここに来るまでチラチラと見かけてただけだったけど……」
先へ進もうと振り向く。その視線の先には行く手を阻む大量の魔物がこっちにやってきた。
というか本当にちょっと量が多過ぎませんかね……?
「……この量はさすがに任せていいかにゃ?」
「いや、これは俺も無理だろ……これ全部食ったら腹壊す気がするし」
「旦那方!?悠長に話してる暇はないと思うんですが!」
ドドドドという複数の重い足音が近付いて来る中、どうしようかと悩む。
ララはすでに真っ向から挑もうと大剣を強く握って構えている……が、彼女も無理だとわかっているらしく、後ろに数歩下がってたじろいでいた。
ララも強くなったけど、やっぱ物量には勝てないだろ。中には強い奴も混じってるっぽいし……
「……よし、わかった。俺がやる」
「にゃ!?冗談で言ったつもりだったのに本気かにゃ!?」
驚くレチア。冗談だったのかよ。
「本気だ。なんせ死なない上に変な能力まで手に入れたんだ、そうそう簡単にはやられないだろ。なぁ、アナさん?」
【変形捕食の応用にて大多数への対応が可能です。実行しますか?】
お願いします女神様!
頭の中でそう称えると、右腕が勝手に動き出して魔物たちに向けて伸ばされ、次の瞬間には俺の右腕は枝分かれして大量の縄状となり、俺たちに向かってくる魔物の郡へと急速に伸びて行った。
枝分かれした腕はさらに枝分かれを続け、最後には道が隙間無く埋まってしまうほどの量になっていた。
「……何にゃ、これ?」
「……わからん。でも一応これも捕食みたいだ……」
塞がれた道の奥から聞こえてくるグロテスクな|咀嚼(そしゃく)音。
魔物の鳴き声か悲鳴も聞こえてくる。
その間もずっと、色んな「味」が口の中に次々と入ってくる。
ヨダレはなんとか我慢したものの、ゲップが込み上げてくる度に「うっぷ……」と口から漏れ出してしまう。
それからも向こうから押し返してくる様子もなく、しばらく様子を見ていると聞こえていた音が止んで静かになった。
「えっと……終わったかにゃ?」
【形態変化による捕食を終了します。捕食によって得た経験値によってウイルスのレベルが8上がりました。ボーナスポイントがステータスへ自動的に反映されます。今後、任意で細かい形態変化をすることができるようになりました】
レチアの言葉に続いてアナさんのお知らせが頭の中に響き、道を埋め尽くしていた腕が一気に縮小して元の腕の形へとなった。
「なんかもう……何でもアリだにゃあ……」
レチアの呟きにララとガカンが頷く。うん、俺もそう思う。
ふと顔を上げると中途半端に食い荒らされた魔物の残骸がいくつも転がっていた。
ぐ、グロい……
いつも中途半端に食い残しがあったりするけど、今回のは本当に殺すために一部だけ食ったって感じだな。
ちょっと気が引けるが……その分「素材」となる剥ぎ取れる部分が残ってるだろう。
「ガカン、悪いけど行けるか?」
「へい、もちろんでさぁ!」
ガカンに頼むと躊躇無く魔物の残骸へと向かって行った。
あいつを仲間にして数日、その間も倒した魔物の剥ぎ取りなどを任せたり雑用をさせている。
一応元々ガカン自身が進んで申し出ていたのだが、それ以上に彼の「知識」が豊富だったというのが理由の大きなところである。
本来、魔物の一部を剥ぎ取るにも知識が必要になってくるのだ。
魔物の部位によっては売れない部分もあるし、綺麗に剥ぎ取れることで売れる値段も変わってくる。
それをガカンは長年の雑用経験で身に付けているというのだ。
今までの魔物はレチアの知識でもどうにかなったが、もっと上のレベルの魔物となると彼女もお手上げらしい。
……実際、今も彼女が俺の横で拳銃を頭に突き付けられている人みたいに両手を上げて口を尖らせている。
俺たちのパーティ内で魔物のことに詳しいのが自分が一番だと思ってたとこにさらに上の知識を持った奴がメンバーになって面白くないなんて子供っぽい考えをしてるんだろう。
「仲間にしてよかっただろ?」
「どーだかにゃ。今はいいかもしれにゃいけど、もっと上のレベルになればあいつも困り始めるはずにゃ!」
そっぽを向いてそう言うレチア。ついに相手の足元をすくうことを考え始めやがった。
仮にガカンの知識が追い付かなくなったとしても、それでレチアがガカンと差がなくなるわけじゃないんだけどな……
そんなことを考えていると、イクナがガカンの元へと駆け出して行ってしまった。
「へ……?どうしたんですかい、お嬢ちゃん?」
横に来たイクナに戸惑うガカン。
イクナはキラキラした目でガカンを見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます