4話目 後編 勝てばいいと思います

【毒を取り込んだことによりウイルスがLv.9に上がりました。捕食行動による養分確保の効率が上がりました】


 ……この沼に入ってから少し経ったのだが、ただ入っただけでウイルスのレベルが上がってしまった。なんじゃこりゃ。

 元々人目に付かないようにしながら魔物をちょくちょく捕食してレベルを七まで上げていたけれど、ただそこにいるだけでレベルが上がるなんて初めて知ったわ。

 ってことはアレじゃね?もう俺、ここに住めば永遠にレベルアップできるんじゃね?

 何もしなくても強くなれるとかもうチートじゃねえか!

 だけどこんな腐ったところにいたら、目だけじゃなくて全身腐りそうだわ。

 やったね!本物のゾンビの出来上がりだよ!……そしたら確実に誰からも嫌われそうな存在になりそう。

 ま、そういうのはどうしようもなくなった時の最終手段として考えておこう。今はそれよりもアリアたちを探さないとな。

 マルスも準備が整ったらすぐに来ると思うが、その準備にどれだけ時間がかかるかわからない。

 せめてその間にアリアたちを見つけて無事かどうかだけでも確認しておかないと……

 お願いだから死んでくれてるなよ……?


「……にしても、ここら辺は何も無いっていうか、生物一匹も見ねえな。まぁ、こんなとこに適応して住んでる奴なんてロクでもないんだろうけど――」

「アアァァァアアァァアアア!!」

「っ!?」


 一瞬、「それって俺のことじゃね?」と自虐的な考えが浮かんだが、それをかき消すような悲鳴に似た叫びが辺りに響いた。

 人間の、それも女性の声だったからすぐにアリアたちだと分かり、俺は声のした方へ駆け出していた。

 ……見付けた。

 そこまで高くない崖から見下ろしたところに彼女たちはいた。

 ……予想していたよりも酷い状態で。

 なんとも形容しがたいおぞましい姿をした触手の魔物らしき生物が、アリアを口に咥えていた。

 なされるがままにかじられているアリアの首からは血が出て、顔には生気が見られない。

 周辺には同様に生気のない表情をした彼女のパーティメンバーが散らばる形で倒れていた。

 なんという有様か。毒でやられていたと思っていたが、よりにもよって気持ちの悪い化け物に食われかけている。

 今すぐ助けなければ間に合わないだろう。いや、もしかしたらもう……

 それでも俺の体はすでに動いていた。


「捕食しろ、【#全てを飲み込む者__オールイーター__#】……!」

【身体変形捕食「オールイーター」を発動します】


 俺の呟きに応えるアナさんの声。

 すると俺の右腕はみるみるうちに黒々しく、そして禍々しく変化していき、「大きな口」となった。


「っ!ガ――」


 触手の魔物が俺に気付いて威嚇の鳴き声をあげようとしたのだろうが、次の瞬間にはその魔物の八割は消えていた。

 残っていたのはアリアを咥えていた口と足のみ。


「まず……ゲプ」


 失礼。「これ」をするとどうしてもゲップが出てしまう。


【アリゲイターの捕食を完了しました。毒全般の免疫ができ、レジストしやすくなりました】


 ……そう、これが俺の新しい捕食方法だ。

 少し前に事件になっていたグロロを食べた時にレベルアップしてできるようになった変形捕食。

 これは大口で相手を食べて俺の体内に取り込むのだが、その時に周囲の石や砂、鉱石などなんでも食べてしまう。

 だから「全てを飲み込む者」と書いて「オールイーター」なんてちょっと中二病っぽい名付け方を俺がしてみたのだ。

 いいよね、異世界。中二病っぽい名前にしても痛いと思われないから。

 って、そんなこと考えてる場合じゃねえ!


「あ……うぁ……」


 かすれ声を発するアリアを見る。

 ……そこまで血は出ていない。どうやら傷はそこまで深くないようだ。

 しかしその傷自体が問題だ。周囲の毒をそこから取り込んでしまっている。

 その証拠にアリアの皮膚の所々が黒く変色しまっていた。

 アリアだけじゃなく他のメンバーもかなり危ない状態だろう。いくら毒に耐性があるといっても限界があるはずだ。

 ……でも俺に何ができるんだ?

 すぐに来たから解毒薬なんて持ってない。そもそもそんなものを買う金を持ってない。

 もしかしなくても俺って役立たずじゃない?

 ……アナさぁぁぁん!ヘルプ!


【対象の解毒が可能です】


 ……え、ちょっと半ばヤケクソで言ってみただけなんだけど……いや、ホント流石です。

 それで何をすればいいんだ?


【対象の傷口に口を当ててください。傷が見当たらない場合は吸血用の歯が生成されます】


 傷口に口を当てればいいんだな?よし……ん?

 はい?口を当てる?

 それってキ――


【治療行為です】


 あ、はい。

 なんで俺、機械音声の人に諭されてんだろ……

 どちらにしても今は緊急だ。

 例え相手が美人でその行為に後ろめたいものがあったとしてもやらなきゃならんのだ!

 ……後で訴えたりしないでね?

 少し躊躇しながらも、さっきまで噛み付かれていたアリアの首筋に口を当てる。


【……毒素73%の汚染を確認。毒素のみを血液から採取し、後に傷口の修復を開始します】


 ……凄く気まずいんだけど、いつまでこうしていればいいんだ?


【人名「アリルティア・フランシス」を対象とした治療が終了しました】


 あ、早い。いや、残念とかそういうんじゃないからね?

 それじゃあ、次だ。

 そんな感じで俺の治療行為は順調に終わった。

 傷口が無い奴には俺の歯が鋭い八重歯ができて吸血鬼みたいに突き刺して毒を吸い取った。

 アリアもだが、彼女たちの傷口は全て塞がっていた。

 どうやって塞いだのかとか後遺症とかないかとか色々心配になるけど、それも今は後回しだ。

 とにかくここから出ないとな……


【血液を取り込んだことにより大量の経験値を獲得しました。ウイルスがLv.11まで上がります。Lv.10を超えたことによりステータスボーナスが付きます】

「…………」


 べ、別に美少女の血だからなんていう変態的な理由じゃないよね?俺は悪くないよね?

 ああもう、こいつら相手だと気後れしてばっかりだな!

 よし、こう考えよう。俺は悪くない、美人過ぎるこいつらが悪い。俺が悪いのは目だけだ。

 だからこいつらをここから移動させるために体を触ることになっても不可抗力だ。

 ……待て、この人数を俺だけで運ぶのか?

 しかもこの人数を一度に運ぶとなると持ち方が決まってくるんだけど……


「俺の理性がどれだけ持つか……」


 やるしかない、仕方ないと自分に言い聞かせつつ俺は下心を隠して彼女たちを運んだ。

 唯一の救いはウイルスのレベルが上がったことで彼女たちを難なく運べたことだろう。

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