7話目 前半 出現

「っ!?」


 何が起きたか理解できずに混乱するララ。

 その間にも他の男たちはあらかじめ打ち合わせでもしていたかのように素早くララを押さえ込んでいく。


「生憎こちとらちょっとした加護持ちの相手ならお手のモンでなぁ……っと、やっぱ 加護持ちの馬鹿力はさすがだな。おいお前ら、さっさとやれ!」


 ボスの合図でララを押さえていない男たちが武器を取り出す。

 そこでようやく危機感を覚えたララがとかもがき始める。

 しかし抵抗が遅かったために、逃げ出す前に男たちの武器が振り下ろされてしまった。

 痛みに耐えるために目を閉じて歯を食いしばるララ。


「……ヤ――」

「そこで何してんだ」


 ララが何かを言いかけると、彼女にとって聞き覚えのある声がした。

 同時にいつまで経っても痛みが襲ってこないことに彼女は疑問を覚える。


「……?」


 何が起きてるのか気になったララが恐る恐る目を開けると目の前で止まっている斧があり、その斧を持っていた男とララを殺そうとしていた他の男たちの動きも止まっていた。

 そしてさらに彼らの近くにはある一般的な体格をした男が立っていた。

 その男を見てララの目に涙がじわりと滲む。

☆★☆★

「あの、本当にいい加減にしてくれませんか?俺はここで待ち合わせしてただけなんですけど」

「いい加減にするのはそっちだ。どうせそれも嘘なんだろ?いいから同行しろ!お前みたいな怪しい奴を取り締まるのが俺たちの仕事なんだからな」

「怪しいってどこが!?服装なんてそこら中の奴が似たようなもん着てるし、誰かと待ち合わせに立ってるとかザラじゃねえか!それともこの目か?目が腐ってるからなんですか?」


 俺はララとの待ち合わせ場所で誰が通報したかわからない衛兵の男と押し問答をしていた。

 やっぱりグラサンをしてないとそれだけで職務質問対象になるのか?世の中理不尽だ……

 男の言ってることが滅茶苦茶で、若干俺もヤケになってたりもするし。


「当たり前だろう。そんな『目』をしていれば怪しまれもする」

「あ゛ぁ?」


 詫びれる様子もなく堂々肯定しやがった男の言葉に苛立ち、声を荒らげて睨んでしまう。


「ひっ!?」

「……なぁ、今がどんな状況かわかってそんなこと言ってんのか?冗談にしてもタチが悪い。こんなことしてる暇があるならさっさと消息不明になった人たちを全力で探せよ」


 俺の眼力が余程強かったのか、男は身を震わせてたじろぐ。

 そもそも俺がこんなに苛立ってるのはバカにされたからだけでなく、さっき裏路地に連れて行かれたのがララかもしれないという焦りもあるからだ。


「あまりいい加減な仕事してるとロザリンドさんに言い付けるぞ」

「えっ……あ、あんたあの人と知り合いなのか……?」


 ロザリンドさんの名前を出した途端に男の態度が変わった。

 これは……チャンスか?


「ああ、知ってる。ついでに言えば俺は今回の誘拐事件を手伝ってるんだが?」

「あ……あぁ、そうだったのか!だったら悪いことしたな~!」


 すると男はわざとらしく笑い、馴れ馴れしく肩を組んでくる。


「っていうことでさ、今のはロザリンドさんには内緒にしててくれるか?あの人にバレちゃうと俺が怒られちまうんだよ……」


 ロザリンドさんには頭が上がらない様子の男。

 その態度を見た俺はチャンスと見てニヤリと笑う。


「そうだな、じゃあ代わりに俺がこれからすることに目を瞑ってくれるならチクらないでおいてやる」

「な、何する気だよ……?」


 不安そうに俺の顔を見て聞いてくる男。


「いやなに、そこの路地裏に俺の待ち合わせしてた奴が連れて行かれたから連れ戻そうと思ってな」

「何?……それなら俺の仕事じゃないのか?」


 薄暗い路地裏を見て察した男がそう言ってくれる。

 そいつに俺は少し冷めた声で言い放ってやった。


「たしか犯罪者を殺したとしても殺人にはならないんだったよな?」

「……ああ、そういうことか。まぁ、ほどほどにな?いくら法で決められてるからといっても、やり過ぎれば犯罪者と変わらないからな」


 急に真面目なアドバイスをする男。

 さっきまでの言動もふざけてたわけではないだろうけど、ロザリンドさんの名前を出したら良い人っぽくなるのは現金でははかろうか……

 それはともかく、彼の言うことも一理あるのでそれはそれでアドバイスとして受け入れておこう。


「肝に銘じておく。まぁ、こんなこと自体そうそうないだろうがな」


 そう言って俺はその場を早足で離れる。

 少々話し過ぎてしまった。

 ララは無事なのか……遅れて焦りを感じる。

 彼女も冒険者だから少しは抵抗するだろう。

 しかし力が強いと言っても、所詮彼女も女の子だ。だからか嫌な予感がする。

 無事でいてくれ……そう思いながら裏路地に入って進んでいく。

 するとすぐにララを見付けた。

 しかも予想してた通り、数人の屈強な男たちに組み伏せられて今にも殺されそうな状況。

 俺は頭に血が上りそうになっていた。


【戦闘状態への移行を確認。戦闘時に不要な感情を確認。レジストします。戦闘状態に移行したため《不明ウイルスLv.2》が発動されました】


 久しぶりに頭へ直接響くように聞こえてくるアナウンスの機械的な音声。

 同時に昂りそうだった感情が冷めて冷静になる。

 俺はすぐに走り出し、フィッカーから短剣を二つ取り出して自分の脇腹突き刺す。


「そこで何してんだ」


 自分でもびっくりするくらい冷めた声で俺はそう言い放ち、体から抜いたらその武器で振り上げた男たちを切り付けた。


「……が……ぁ……?」

「なん……だ……これ……?」


 突然動かなくなってしまった自分の体に戸惑う男たち。

 それもそうだろう。それは俺の「血」の効果なんだから。

 チェスターとの研究の成果、とも言うべきか。

 どうやら俺の体からは生物の害となるあらゆる成分が検出されていたらしい。

 毒、眠り、麻痺……他にも成分が出たらしいが、それはまた別の機会にでも話そう。

 とりあえず今、自分に短剣を突き刺したのは麻痺の効果のある血を短剣に塗るためだ。

 そしてその効果は即効性があって絶大。

 このように大の大人でも切られて数秒も経たないうちに体が麻痺し、指一本動かなくなるというわけだ。

 ちなみに《不明ウイルス》の内容はまだわかっていない。

 そいつらが武器を落とさないように俺がすぐ回収する。


「誰だテメ――」

「ああ、お前もな」


 ララに対する一番の危険を優先的に取り除いたら、今度はララを押さえているクズ野郎を切った。


「女の子の上で馬乗りするとか、クズ野郎かよ?」

「あがっ……がっ……!?」


 「なんだこれは」と言わんばかりに驚いた表情で固まり、石だったかのようにそのまま転がって倒れる男。

 異様な事態に他のチンピラたちも戸惑い狼狽えていた。

 ララを押さえていた他の奴らも、俺が睨むとたじろいで離れていく。

 周囲に俺とララ以外に誰もいなくなったのを確認して、倒れたままの彼女に手を差し伸べる。


「大丈夫かララ?知らない人に付いて行ってるのが見えたからおじさん心配になって追いかけてきちまったよ」


 少し茶化した言い方をして気分を紛らわせようとするが、ララは涙目になって今にも泣きそうになっていた。

 というよりもう抱き着いてきていた。


「ヤ……タ……!」


 その声はとてもか細く、聞き取り辛いくらいに消えてしまいそうだったが、確かに呼んだ。


「っとと!?ララ……お前、声が――」

「《主よ、我らの前に立ち塞がる敵を屠り給え――フレアボム》!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る